清涼な空気、気持ちよく晴れ渡った青空。
日本全国津々浦々を、秋の風が爽やかに駆け抜けて行く――
あのうだるような、真夏の猛暑はどこへやら。
9月も下旬、秋の訪れを肌で実感できるような北海道である。
そんなわけで、今回の『宙マン』は、秋の穏やかさの中で
ほっと一息ついている千歳市内から物語を始めよう。
落合さん「おかげさまで、本日もよいお日和で……」
ビーコン「秋もたけなわ、って感じっスねぇ!」
ピグモン「暑すぎないし、寒すぎないから嬉しいの~」
ながもん「そして……気持ちよく、おなかが……すく」
みくるん「(苦笑)ながもんったら、すぐそっちのお話にィ」
宙マン「いやいや、それはひとつの真理ってやつだよ」
ながもん「だよね……宙マンも……同意して、くれてる」
宙マン「(頷き)食欲の秋、絶対に外せない大定番だよ」
みくるん「確かに、美味しい物いっぱいですもんねぇ――」
みくるん「我が家でもぼちぼち、今年もまた……
仕込もうかなー、って思ってるんですぅ」
ビーコン「おー、イクラの醤油漬け、いいっスねぇ!
あれがあると、いっくらでも飯も酒も進むんスよね」
落合さん「そんな風に、みんなが大好きなメニューですから……
買い求める筋子の鮮度には、やはり気を配りたいですわね」
みくるん「(苦笑)鮮度だったり、調味料の加減だったり……
少し違うと、一気に生臭くなっちゃいますもんねぇ」
ビーコン「ふむふむ、生臭……
……えーっと、例えばこんな感じっスか?」
落合さん「……へっ?」
おお、これはどうしたことだろう?
それまでの秋晴れの空を遮るように、妖しげな霧が沸き立って
急速に千歳の周囲へと広がり始めていったではないか。
しかも、その霧と言うのが、また……!
みくるん「(顔をしかめて)……うっ……」
宙マン「うーん、何だろうねぇ、この生臭さは!?」
落合さん「……魚の臭い、っぽいですわねぇ」
ビーコン「でもまた、苫小牧とかの水揚げ場ならともかく……
千歳の山ン中で、こんな魚っぽい生臭さなんスかねぇ?」
ながもん「これは、また……何か、来ちゃう……?」
みくるん「……ちょ、待ってながもん、そんな……!」
……と、みくるんが言いかけたその矢先!
ゴゴゴゴ……グラグラグラグラっ!
落合さん「……あっ、あらあら、まぁまぁ!」
ビーコン「これは、マジで何か来ちゃったっスかぁぁ~!?」
はなはだ遺憾ながら、その通り。
大地が揺れ、めきめきと音を立てて道路が割れ裂ける――
そして、巨大な水の柱を立ち上げて……
濛々たる蒸気の中から、姿を現わした異形の巨体とは!?
「ピギャアァァ~ンっ!!」
みくるん「ああっ、怪獣が出てきたですぅ!」
ピグモン「はわわ、しかも……おっきなお魚なの~!」
ながもん「あれは……巨大魚怪獣・ムルチ……?」
以前にも千歳に出現した、巨大魚怪獣ムルチの同族……
通常は鰭状である両手先が、鋭利な爪へと独自進化を遂げた亜種怪獣。
便宜上、ここでは”ムルチⅡ”と呼称しよう。
宙マン「……そうか、それで腑に落ちたぞ」
落合さん「道理で、妙にお魚の臭いがすると思いましたら!」
ムルチⅡ「有り得ないほどショッキングなのは、これからだぜェ。
前に痛いメにあわされた、一族のモンの恥を濯ぐためにも……
俺がすかっと爽快に暴れて、一気に千歳を制圧だぁ!
まぁ、じっくり見ててくれや、ピギャアァァ~っ!」
みくるん「そんなぁ、そんなのやめて欲しいですぅ!」
ながもん「おさかな、特有の……におい……だけじゃ、なくて……」
宙マン「ううむっ……これはどうにも、参ったねぇ!」
ビーコン「出現の動機からして、とびっきり生臭だったっス!」
イフ「わははは……さぁ行くがよい、暴れるのだムルチよ!
太平楽な地球の奴らに、怪獣軍団の威力を見せてやれ!」
ムルチⅡ「ピギャアァァ~ッ、やっちゃりますぜィ、魔王様!」
怪獣魔王の命を受け、進撃開始するムルチⅡ!
迫り来る巨体を前に、悲鳴をあげて逃げ惑う人々。
ビーコン「あ~らら、こらら、えらいこっちゃっス!」
落合さん「もうっ、結局またこうなっちゃうんですのねぇ!」
みくるん「ふぇぇん、怖いですぅ~!(涙目)」
怪獣ムルチⅡの出現により、たちまち大パニックの千歳市!
だが、こんな緊急事態を、航空防衛隊は放置などしない。
直ちに空の精鋭たちが、最新鋭の戦闘機でスクランブル!
落合さん「ああ、また絶妙のタイミングで!」
ビーコン「ホント、出前迅速なのは有難いんスけどねぇ……
あとは、もーちっとばかし……ごにょごにょ(汗)」
ピグモン「はうはう~、おじさんたち、しっかりなの~!」
「ようし……全機、一斉攻撃開始っ!」
攻撃、攻撃、また攻撃!
戦闘機隊の持てる火力全てが、一気にムルチⅡへ叩きこまれていく。
「よーし、いいぞぉ、効いてるっぽいぞ!?」
ムルチⅡ「ピギャアァァ~ッ、アホ抜かせぇぇ~っ!」
「……ど、どわぁぁぁ~っ!?」
げに恐るべきは、怪獣ムルチⅡの熱線放射!
戦闘機隊は勇戦空しく、一機、また一機と撃墜されていく。
みくるん「ああっ、やられちゃったぁ!」
ながもん「残念……あんなに……がんばってたのに」
ビーコン「頑張りはみんな認めてるんスよ、頑張りは……!(汗)」
……などと、人々が嘆いたりボヤいたりしている間にも。
ムルチⅡの大暴れは最高潮に達し、千歳は絶対の危機を迎えた!
落合さん「いけません、このままでは街が全滅ですわ!」
ピグモン「はわわわ……宙マン、何とかしてなの~」
宙マン「ようし、任せろ!
宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
荒れ狂うムルチⅡの前へ、敢然と立ちはだかるこの雄姿!
ビーコン「っしゃ! アニキの十八番っスよ!」
落合さん「ああ、やはり素敵です、お殿様っ!(うっとり)」
みくるん「よろしくお願いしますね、宙マンさぁんっ……!」
ムルチⅡ「ピギャアァァ~ッ、出たな宙マン、待ってたぜ!」
宙マン「(ニヤリ)ほう、この私に叩きのめされる瞬間を……かね?」
ムルチⅡ「(ムカッ)……何をォ!?」
ファイティングポーズとともに、敢然と身構える宙マン――
さぁ、今日もまた、世紀のスーパーバトル開幕だ。
ムルチⅡ「舐め腐りやがって、叩きのめされるのはお前ェの方だ!」
宙マン「いいだろう、ならば試してみるかね!」
真っ向激突、宙マン対ムルチⅡ!
人々が見守る中、巨大バトルは一気呵成にヒートアップ。
ムルチⅡ「ピギャアァァ~ッ、そらそらそらァ~っ!」
宙マン「ぬうっ!」
両腕の二本爪による刺突攻撃と、大きな口の噛み付き殺法。
そこに持ち前の凶暴性が加わった時、怪獣ムルチⅡの猛攻は
怪獣軍団でも屈指の破壊力を見せるのだ。
だがしかし、力と技ならば宙マンだって負けてはいない。
両者、格闘戦での勝負はほぼ互角!
ムルチⅡ「ピギャアァァ~ッ、やりやがるな!」
宙マン「なぁに、まだまださ――それっ、こんなのはどうだい!?」
おもむろに、ムルチⅡの足元で回転し……
逆立ちとともに、両足で敵の脳天に見舞うカンガルーキック!
ムルチⅡ「ぴ、ピギャィィんっ!?」
意表を突かれ、見事に直撃を受けてしまった巨大魚怪獣。
眩暈とともに、その巨体がふらふらと後退した。
宙マン「どうだね、恐れ入ったと降参するなら今だぞ?」
ムルチⅡ「ピギャアァァ~ッ、調子づくんじゃねぇぞォ!?」
ムルチⅡ、怒りの熱線放射!
宙マンの周囲に凄まじい爆発を生じさせ、そして……!
グワーン! ズガガガガーンっ!
「う、うわぁぁぁぁ……っ!」
ピグモン「はわわわ……ちゅ、宙マンっ!?」
ながもん「おお、敵ながら……見事な……攻撃」
みくるん「って、褒めてる場合じゃないよぉ、ながもん!(汗)」
ビーコン「どひ~っ、一発でも直撃食らおうもんなら……」
落合さん「お殿様と言えども、ご無事では……!」
イフ「おおっ、よしよし! でかしたぞムルチ!
一族の者の恨み、お前が見事に果たしてみせよ……
にっくき宙マンを倒し、怪獣軍団の勇者となるのだ!」
ムルチⅡ「ピギャアァァ~ッ、魔王様、俺ァやりますぜぇ!」
宙マン「(苦悶)うう……うっ……!」
ムルチⅡ「ピギャアァァ~ッ、ざまァねぇやな、宙マン。
どうやら叩きのめされるのは、お前の方だったみてぇだな!」
「なんの、これしき……やられて、なるかッ!」
宙マン、パワー全開!
ムルチⅡの熱線をひらりとかわして、大空高くへとジャンプ!
ムルチⅡ「ぬっ、ぬおっ!?」
宙マン「くらえ! 宙マン・閃光波!」
ピッキュイィィーン!
高らかな音とともに、宙マンの手にストロボ状の発光が生じ……
次の瞬間、怪獣の脳天で激しい爆発が起こる。
閃光波を食らい、たまらずムルチⅡがブッ倒れたところへ――
宙マン「とどめだ!
宙マン・フラッシュボンバー!!」
シ ュ パ ァ ァ ァ ー ン ッ !
右手に集中させた闘気を、裏拳とともに勢いよく解き放ち……
赤いエネルギー弾として、怪獣めがけて叩きこむ荒技。
フラッシュボンバーの一撃が、ムルチⅡを直撃!!
ムルチⅡ「ピギャアァァ~ッ、ガツンと効く効く効くぅぅ~っ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
みくるん「わぁ、宙マンさんの勝ちですぅ!」
ながもん「さすが、宙マン……またまた……グッジョヴ」
ピグモン「はうはう~、かっこよかったの~♪」
ビーコン「やっぱアニキっスねェ、任せて安心っス!」
落合さん「えぇ、そこが……魅力なんです……(うっとり)」
イフ「ぐぬぬぬ……おのれ、またしても宙マンめが!
だが、覚えておれよ……
怪獣軍団は不屈にして不滅じゃ、次こそは必ず!」
……などと言う負け惜しみは、いつも通りサラリと聞き流して。
かくして我らが宙マンの活躍により、恐るべき巨大魚怪獣ムルチⅡは
見事に撃退され、千歳の平和は守り抜かれたのであった。
落合さん「どうもお疲れ様でした、お殿様!」
ビーコン「これでオイラたちも、ほっとひと安心っス!」
宙マン「いやぁ、一汗かいたら、すっかりお腹がすいちゃったよ」
みくるん「あ、それでしたらね、宙マンさん。
さっきお話したイクラの醤油漬け、そろそろ食べ頃になったのが
うちの冷蔵庫にあるんですけどぉ……」
みくるん「お魚の怪獣と戦った後、っていうのもありますし……
もしかしたら、お嫌じゃ……ないですか?」
宙マン「や、そんなそんな、とんでもないっ!
イクラの醤油漬け、頂けるならこんなに嬉しい事はないよ!」
ながもん「それはそれ……これは……これ」
ビーコン「うんうん、魚の怪獣と戦ったあとでも……
イクラの醤油漬けは旨いから、また別腹なんスよねぇ。
ヒヒヒ、そしてオイラ的には、落合さんも別腹!
と言いつつおもむろに、落合さんの豊満な胸へ手を……」
げ し っ !
落合さん「ねーい、貴方が一番の生臭案件ですっ!!(怒)」
ビーコン「どひ~、秋風が心に沁みるっスぅぅ~」
宙マン「はっはっはっはっ」
秋だ、千歳だ、怪獣だ――
そう来りゃ、もちろん宙マンの出番だ!
さァ、次回はどんな活躍を見せてくれるかな?