地球から遥か彼方の暗黒星雲……
そこは、全宇宙のあらゆる場所から来た凶悪な怪獣・宇宙人らの集う、
いわば全宇宙の悪の総本山である。
それら荒くれたちを束ね上げる存在として、完全生命体・イフが
「怪獣魔王」を名乗り、強大な超能力と恐怖のもと、絶対の支配者として
全軍団の頂点に君臨していた。
イフ「怪獣どもよ、よく聞け!
ワシは汝らの総帥、全宇宙に冠たる怪獣魔王・イフである」
イフ「今こそこのワシの名のもとに、我ら怪獣軍団が太陽系・地球の
新たなる支配者として、人間どもに取って代わる時がきた。
だが、その為にはどうしても取り除かねばならぬ邪魔者がいる――」
イフ「……そうだ、宙マンだ!」
イフ「銀河連邦の一員・プラネット星の宙マンこそ、我らの宿敵だ!
今はもう現役を引退しているとはいえ、奴の力は決してあなどれん……
地球征服の手始めは、何をおいても宙マンを倒すことだ!」
イフ「奴に戦いを挑んで、早や3回めの年末……
その間、ワシらがどれほどの煮え湯を飲まされ続けてきたことか。
だが、ワシら怪獣軍団は、あくまで地球を諦めぬ決意だ」
イフ「行け! 怪獣軍団の戦士、新たなる挑戦者よ!
地球へ向かえ……今度こそ、恨み重なる宙マンを倒せ!
そして晴れ晴れした気持ちで、新しい年を迎えようぞ!」
怪獣魔王の命が下り、新たな刺客が地球目指して飛び立った。
危うし地球……危うし、宙マン!
が、ひとまずそれはそれとして――。
春・夏・秋・冬、季節は巡り……
あっという間に12月、今年も残りもうあと僅か。
落合さん「ふうう、それにしましても……」
ピグモン「えう~、今日は朝からずうっと寒いの~」
落合さん「一応ですね、暖房レベルは最大まで上げてるんですが……」
ビーコン「全然追っついてねーっスよ、寒さが骨身に沁みるっス!」
宙マンファミリーが、口々にぼやくのも無理はない。
まだ本格的ではないものの、外はご覧の通りのうっすら雪化粧……
もはやどの角度から見ても、疑う余地もない「冬」本番である。
宙マン「……こう寒いと、気持ちま縮こまってしまうねぇ!」
宙マン「そのためにも、まずはしっかりエネルギーを補給しておかないと……
何かこう、身も心もポカポカあったまるようなものが食べたいな」
落合さん「了解ですわ、お殿様! それではすぐにご用意を……」
ビーコン「あー、それもいいんスけどねぇ。
気分転換とかも兼ねて、どっかへ外食にでもいかねっスか?」
宙マン「外食?」
ビーコン「(頷き)そ、例えばラーメンなんてどうっスかね?
出来立てアツアツ、すっきり味なのに深~いコクを湛えた塩ラーメン……
ね、想像しただけでたまんないっしょ!?」
ピグモン「はうはう~、ピグちゃんラーメン食べたいの~♪」
落合さん「な~にを仰ってるんです、外食だなんてとんでもない!
この不景気の折、我が家も財政緊縮に徹しませんと……」
宙マン「いいねぇ、私も塩ラーメン食べたくなってきちゃったよ!」
落合さん「(コロッと)ええ、全くですわお殿様!
私も外食が良いなと、そのように思っていた矢先でしたのよ!」
ビーコン「(呆)……だー、全くもう、このオネーチャンときたらっ!」
宙マン「さぁて、話もまとまったことだし……
それじゃ今日のお昼は、みんなで美味しい塩ラーメンを食べに行こう!」
ピグモン「はうはう~、ラーメン、ラーメンなの~♪」
ビーコン「いやぁ、今からヨダレが湧いて出てきちまうっスねぇ!」
落合さん「えぇ、早く頂きたいものですわ」
「グェヘヘヘヘ……
ラーメン良いですよねぇ、ラーメン!」
落合さん「あらまぁ、どちら様かは存じあげませんが……」
ピグモン「はうはう~、おじさんもラーメン好きなの?」
ビーコン「って言うか、その口ぶりは……
既にどっかで、旨いのを食ってきたって感じっスね!?」
「グェヘヘヘ、分かってしまいますか。
いやぁ、素ン晴らしく旨かったでありますねぇ、絶品でした!」
「グェヘヘヘ、食べ終えたばかりだと言いますのに……
思い返すだけで、早くも唾が湧いて止まりませんよ。
すっきり味ながらも豊かなコクと旨味を湛え、麺のウェーブに良く絡む
絶品としか言いようのないあのスープ!」
宙マン「ううむっ、なんたる熱弁!」
「そしてそして、そんな醤油味の凛とした味わいの中だからこそ……
グェヘヘヘ、味の沁みた煮卵のまろやかさがまた極楽って寸法で!」
ビーコン「ぐ、ぐががっ、容易に想像できすぎるっス……!」
ピグモン「えう~、なんだかピグちゃん……
おじさんのお話聞いてるだけで、お腹減ってきちゃうの~」
落合さん「美味しそうすぎて、これは一種の拷問ですわね!」
宙マン「いやぁ、美味しそうなお話、誠にご馳走様でした。
そのご様子なら、さぞかし元気もでたことでしょう!」
「グェヘヘヘ、全くもって仰る通りでして。
体もポカポカ暖まって、元気モリモリですありますよ――」
「地球侵略の、元気がね~っ!!」
おお、見よ! 驚愕せよ!
宙マンたちの眼前で、いきなり巨大化した通りすがりの人物。
……いや、彼こそが怪獣軍団からの新たなる刺客――
「グェヘヘヘ、人呼んで異次元人・ギランボ様だぁ~っ!」
落合さん「あらまぁ、なんてコトでしょう!」
宙マン「参ったなぁ、これからラーメンを食べに行こうって時に……」
ビーコン「とことん邪魔するつもりらしいっスね、あの根性悪!」
ギランボ「グェへへへ、そうとも!
宙マン、もうお前にはラーメンも食わせんし、勝利の美酒で酔わせもせん。
お前に待っているのは、この千歳もろとも滅び行く運命だけよ!」
ビーコン「勘弁してっスよ~、そのためにわざわざ事前の飯テロなんて……」
落合さん「……何て怖ろしい侵略者なんでしょう!」
ギランボ「グェヘヘヘ、それが狙いだ、ザマーミロ!」
何という奸智、何という悪魔の計略!
地球侵略と宙マンへのいやがらせ、二つの要素を見事に同居させた
異次元人ギランボの恐るべき作戦である。
ギランボ「グェヘヘヘ、あとはどいつもこいつも踏み潰してやる!」
宙マン「うぬっ……何て奴だ!」
イフ「わはははは……行け、ギランボよ!
お前の知恵を破壊の牙に変えて、地球の者どもに突き立ててやれ!」
ギランボ「グェヘヘヘ、魔王様! そのご命令を待っておりました!」
怪獣魔王の命を受け、進撃を開始する巨大ギランボ!
迫り来るその巨体を前に、悲鳴をあげて逃げまどう千歳の人々。
落合さん「あらいやだ、何だかすっごくやる気満々ですこと!」
ビーコン「旨いラーメン喰って、力が満ち充ちてるっスよねぇ!」
落合さん「ええ、もう……お腹が減るやら、羨ましいやらですわ!」
ピグモン「えう~、そんなこと言ってる場合じゃないの~!(汗)」
宙マン「みんな、とにかく今は逃げるんだ!」
傍若無人に千歳の街を突き進む巨大ギランボ!
その破壊活動を阻むべく、直ちに千歳基地から戦闘機が飛び立った。
ギランボめがけて、雨あられと叩きこまれるロケット弾!
だが、その度重なる直撃にも、全くびくともしないギランボである。
ギランボ「グェヘヘヘ、これでもくらえ、蚊トンボどもめ~っ!」
「う、うわぁぁぁっ……!!」
上空めがけて怪光線を発射するギランボ!
科学技術の粋たる戦闘機も、この強烈な一閃を浴びて瞬時に炎上。
炎に包まれながら、一機、また一機と撃墜されていく戦闘機。
ギランボは更に勢いづいて、左手の一本爪からの火炎放射で地上を攻撃!
炎のうねりに舐め回されて、次々と破壊されていく建造物。
爆発、炎上、また爆発……
平和だった千歳市は今や、紅蓮の業火が逆巻く火炎地獄と化した!
ギランボ「グェヘヘヘ……どんなもんだい!」
落合さん「あらあらまぁまぁ、どうしましょう!?」
ビーコン「これじゃラーメンどころじゃないっスよぉ!(汗)」
ピグモン「宙マン、宙マン、なんとかしてなの~」
宙マン「(頷き)ああ、この際やるしかないね!
宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、荒れ狂うギランボの前に舞い降りる!
宙マン「トゥアーッ! 宙マン、参上!
異次元人ギランボ、これ以上の悪事は見逃しておかんぞ!」
ズ、ズーンっ!!
ビーコン「おおぅ! 今日も出たっス、アニキの十八番!」
落合さん「お殿様、素敵です……♪(うっとり)」
ピグモン「宙マン、がんばってなの~!」
ギランボ「グェヘヘヘ……
ラーメン食べて元気一杯の私、一方のお前はすきっ腹。
宙マン、もはやお前にはマンに一つの勝ち目もないと知れ!」
宙マン「いいや、叩きのめされるのはそちらの方さ!」
ファイティングポーズとともに、敢然と身構える宙マン――
さぁ、今日もまた、世紀のスーパーバトル開幕だ。
ギランボ「グォオオオーッ、行くぞ宙マン!」
宙マン「どこからでも来るがいい!」
激突、宙マン対ギランボ!
落合さんたちが見守る中、攻防戦は一気にヒートアップ。
鋭い左手の一本爪で、激しく斬りつけ、突きまくるギランボ!
フェンシングもかくやの刺突戦法をクロスガードで無力化しつつ
宙マンも相手の隙を伺い、果敢に反撃へと打って出ていく。
ギランボ「グ、ぬうっ、おのれ宙マン!」
宙マン「ギランボ、宙マン・チョップを受けてみろ!」
大きく振りかぶり、勢いよく繰り出す宙マンの水平空手チョップ!
痛烈な一撃をまともに受け、ギランボも後退を余儀なくされる。
ビーコン「よっしゃ、そこっス、押しまくるっスよアニキ!」
落合さん「ここで相手に、反撃の余裕を与えてはなりませんわ!」
ピグモン「はうはう~、今がチャンスなの~!」
ギランボ「ぐぬぬぬ……なめるなよ~っ!」
怒り、火炎放射で攻撃するギランボ!
だが、宙マンはあくまで冷静かつ身軽に、その攻撃を回避していく。
ギランボ「ぬぉ、おにょれおにょれっ!」
苛立ったギランボが、更に放つは怪光線。
しかしその一閃も、宙マンのジャンプで見事にかわされる――
そしてそのまま、大空高く舞い上がるヒーローの巨体!
ギランボ「(驚き、空を見上げて)……うぬっ!?」
宙マン「行くぞ、ギランボ!」
宙マン「エイヤぁぁぁーっ!
宙マン・ミラクル・キック!!」
出た、電光石火の必殺技!
ギランボがもんどりうって倒れたところへ――
宙マン「とどめだ!
宙マン・エクシードフラッシュ!!」
全身のエネルギーを極限まで凝縮して放つ、虹色の必殺光線……
エクシードフラッシュの一閃が、ギランボを直撃!!
ギランボ「うがぁぁっ、こ、こりゃたまらんッ……!」
やったぞ宙マン、大勝利!
ビーコン「いえっふ~、やったぁ!
相変わらずスカッとする勝ちっぷりっスねぇ、アニキ!」
落合さん「お見事の一言に尽きますわ、それでこそお殿様です!」
ピグモン「はうはう~、宙マン、ありがとうなの~♪」
人々の声援を受け、すっくと立つ宙マンの巨体。
どこまでも凛々しいその雄姿には、青空がよく似合っていた。
イフ「うぐぅぅぅっ……おのれ、おのれ、またしても宙マンめ!
よくもワシら怪獣軍団の顔に、泥を塗ってくれたな――
この屈辱、この恨み、何百万倍にもして返してやる! 今に見ておれ!」
怪獣魔王の捨て台詞が、これからあと何回吐かれ続けるのか……
まぁ、それについてはひとまずさて置いて。
かくして、我らが宙マンの活躍によって異次元人ギランボは撃退され、
千歳の街に再び平和が蘇ったのであった。
落合さん「お殿様、どうもお疲れ様でした!」
ピグモン「はうはう~、宙マン、かっこよかったの~♪」
宙マン「はっはっはっ、いやぁ、ありがとう。
と言うか、何というか……
あー、巨大化して戦ったら、すっかりお腹がすいちゃったよ」
落合さん「あぁ、そう言えばまだでしたものねぇ、お昼ご飯」
落合さん「ふふふっ、それでは平和が戻った記念に……
これから改めて、みんなでラーメンを食べに参りましょう!」
宙マン「うんうん、異議なし、そうこなくっちゃ!」
ビーコン「いやぁ~、いつもながらいいっスねぇ、このほんわかムード!
『宙マン』シリーズは、やっぱそうじゃなきゃいけねっスよ――
旅行ありーの、グルメありーの、落合さんへのセクハラありーの……☆」
落合さん「(表情が引きつり)……!?」
げ し っ !
落合さん「ねーいっ、最後の一つが激しく余計ですっ!1(怒)」
ビーコン「どひ~っ、真冬の北風がすきっ腹に染みるっスぅぅ~」
宙マン「はっはっはっはっ」
今日も元気だ、ラーメン旨い……
毎度おなじみ、宙マンファミリー。
さて、次回はどんな活躍を見せてくれるかな?