メフィラスの殺人処刑遊戯の巻

遥かなる宇宙の彼方、暗黒星雲の奥深くから……

美しい緑の星・地球を我が物にせんと狙い続けている、恐怖の怪獣軍団。

その秘蔵っ子たる邪悪の五人衆、人呼んで“ダークネスファイブ”。

バルタン星人Ｊｒと同様、怪獣軍団の若きエリートとして将来を嘱望されており

それぞれが宇宙の各地へ散って、修行に励んでいた彼ら五人の宇宙人――

そんなダークネスファイブが今、続々と古巣の暗黒星雲に帰参を果たしつつある。

既に北海道千歳市へ襲いかかった“氷結の”グロッケン、“地獄の”ジャタール、

“極悪の”ヴィラニアスに“炎上の”デスローグ――

そして今、残る最後のひとり。

ダークネスファイブの実質的リーダーが、怪獣軍団に戻ってきた！

松田優作+丸山昇一 未発表シナリオ集 (幻冬舎アウトロー文庫)

と言うわけで、今回の『宙マン』は……

毎度お馴染み、こちら怪獣軍団の本拠地から物語を始めよう。

「んーふふふ、やぁやぁやぁ……

　お懐かしい皆様方、お久しぶりでございます！」

イフ「おおっ……スライ！　“魔導の”スライではないか！」

ジャタール「全く、大遅刻もいいところだぞ！」

スライ「んふふふ、まぁまぁ、気にしない気にしない♪」

ヴィラニアス「（呆れて）……少しは気にしろ、仮にも我らのリーダーだろうが！」

メフィラス星人“魔導の”スライ。

ダークネスファイブ最後のひとりにして、実質的なリーダー格とされるこの男が

皆より大幅に遅れて、ようやく修行の旅からの帰還を果たしたのであった。

グロッケン「そうだそうだ、ヴィラニアスの言うとおりだぞッ。

　いったい今の今まで、どこの宇宙をほっつき歩いてやがった――

　みんな心配してたんだぞ！？」

デスローグ「ごっ、ごっ……（こくこくと頷き）」

スライ「んふふふ、これは済まない」

スライ「だが、心配するには及ばないよ――

 私もまた皆に負けないよう、アキツシマ星系で武者修行に励んでいたんだ」

スライ「今、改めて思い返してみてもヨダレが出る……

　いや、もとい、血の出るような厳しい修練の日々であったことだよ」

ヴィラニアス「おいおい……スライよ、本音が漏れてるぞ！？」

グロッケン「つーか、台詞と画像が全然合ってねーっ！！」

ジャタール「要は、さんざん旨いもの食って羽を伸ばしてきたわけか。

　畜生、羨まし……いやいや、全くもってたるんどる！」

デスローグ「……！（そうだそうだ、と体を揺らして同意）」

イフ「ああ、皆が怒るのも尤もだぞ、スライよ。

　ワシとて遊びのために、お前を旅に出したわけではないからな！？

　事と次第によっては、これからまるまる一話分かけての説教を……」

スライ「いえいえ、それには及びませんとも、魔王様！

　ハイ、これお土産――

  魔王様と奥方様の大好物、アキツシマ星系名物の糠漬けでございます♪」

イフ「おお、相変わらず気がきくの……って、違うッ！（汗）」

イフ「糠漬けは糠漬けで、後で美味しく頂くとしてだ。

　そんなことより、今のワシらにとっての大きな問題は……」

スライ「……プラネット星の宙マン、でございますな。

　んふふふ、あのような小物に、何を心わずらわせる事がありましょう！」

イフ「おおっ、なんと頼もしい言葉よ！」

スライ「んふふふ、宙マンなど、いつでも倒すことができます。

　と言う訳で私、まずはゆっくり風呂に浸かって昼寝など……」

「……ええい、この大馬鹿者めが～っ！！」

イフ「黙って聞いておれば何だ、チャラチャラ遊んでばかりで！

　そんな暇があるのなら、とっとと地球へ行って宙マンでも倒して来いっ！！」

スライ「（引きつり笑い）ひぇぇ、さすがに調子に乗り過ぎましたか～！」

そんなこんなで、地球を目指して飛び立ったダークネスファイブ・最後のひとり。

“魔導の”スライの恐るべき威力が、我らが宙マンへと迫るのだ！

が、ひとまずそれはそれとして――。

2月ということで、降り積もった雪のヴェールはがっつり分厚い北海道。

その一角、千歳市の「宙マンハウス」である。

ビーコン「あれ～？　落合さん、アニキどうしたっスか？」

落合さん「お殿様でしたら、カルチャーセンターの囲碁教室へお出かけ中ですわ。

　特別なご予定でもなければ、お昼過ぎには戻られるのではないかと……」

ビーコン「そう、それなんスよね、落合さん。

　囲碁教室が終わって、文化センターを後にしたその帰りの足で……

　きっとアニキ、オイラたちに内緒で旨いもん食ってくるんじゃないスかねぇ！？」

落合さん「（苦笑）まぁ……ビーコンさんったら」

落合さん「ふふ、ご心配には及びませんわ。

　ビーコンさんならともかく、お殿様はそんな事なさる方ではありません！」

ビーコン「（頷き）っスよねー、落合さんじゃあるまいし！」

落合さん「（真顔で）……は？」

ビーコン「（キョトンとして）……え？」

そう、ちょうどその頃……

宙マンは、千歳市民向けの無料カルチャースクールにおける囲碁教室に

顔を出しての帰り道なのであった。

宙マン「んー、時間も時間だし、いい具合に小腹も減ってきたなぁ……

　よし、みんなには内緒で、こっそり外食でもしていくか！」

宙マンにそんな決断をさせたのは、道すがら目にとまった一軒。

瀟洒なつくりの喫茶店……のように見えて、実はここ・天ぷらの専門店。

閉店した喫茶店のレイアウトをそのまま活かし、フライヤーのみを増設することで

そっくりそのまま、天ぷら屋を営むギャップをも売りにしたのだ。

宙マン「ふふふ、和風の店構えもいいんだけどね……

　案外、こういう店の天ぷらに「拾い物」が多いんだよ、経験上。

　さてと、いっちょ天丼でも腹に入れて行くとしようか！」

席に着き、まずはお目当ての天丼を注文。

このまま『孤独のグルメ』的、ヒーローが飯を食うだけの展開になるかと思いきや

もちろん今回もまた、そうは問屋が卸してくれなかった！

「！？」

不意に、宙マンが感じた強烈な違和感……

それは、決して単なる「気のせい」などではなかった。

宙マン「（ハッとして）これはっ！？」

すわ何事と、宙マンが店の外に飛び出してみると――

千歳市の周囲の景色が一転、見渡す限りの荒野に変わっていたではないか。

宙マン「何ともはや……一体どういうことなんだ。

　……さてはまた、怪獣軍団の手先が何かやらかしたんじゃなかろうな！？」

「んふふふ……流石に、察しがいいですね！」

おお、見よ！

不可思議空間の中に、瞬間移動でスーッと姿を現す“魔導の”スライ！

宙マン「お前は……メフィラス星人！？」

スライ「んふふふ、いかにも私はメフィラス星人。

　怪獣軍団の幹部候補生・ダークネスファイブを束ねる“魔導の”スライ！」

スライ「ダークネスファイブの仲間を、随分可愛がってくれたそうですね。

　……リーダーとして、落とし前をつけておかねばなりますまい」

宙マン「それでわざわざ、暗黒星雲からお出ましってわけか……」

スライ「いかがです、この魔導ゾーン。

　私と君の決着をつける上で、これほど相応しい舞台はないでしょう――

　そして宙マン、君がこの世で最後に見た景色としてもね」

宙マン「……現役時代から何度目になるかなぁ、このテのナントカ空間。

　そろそろ飽き飽きなんで、元の世界に帰してもらっていいかな！？」

スライ「んふふふ、ならばこのテのパターンにおける「お約束」もご存じのはず。

　私と戦って勝たない限り、再び元の世界には帰れませんよ♪」

宙マン「やっぱりそう来るか……ならば、やむを得ん！

　宙マン・ファイト・ゴー！！」

閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。

華麗な空中回転とともに、“魔導の”スライの前へ舞い降りる！

宙マン「トゥアーッ！　宙マン、参上！　

　せっかくのご招待だが付き合いきれんよ、さっさと帰らせてもらう！」

ズ、ズーンっ！！

スライ「んふふふ、おやおや……勝てるつもりなんですかぁ、宙マン！？」

宙マン「ああ、勝つともさ。

　ランチタイムに水を差されて、今、私はとびきり機嫌が悪いんだ！」

ファイティングポーズをとり、敢然と身構える宙マン。

さぁ、今日もまたスーパーバトルの幕開けだ！

宙マン「行くぞ、“魔導の”スライ！」

スライ「んふふふ、さぁ――ゲームの始まりですっ！」

遂に出た、最後の五人衆……

ダークネスファイブ“魔導の”スライ！

宙マンめがけて牙を剥く、その実力やいかに！？

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