6月某日、北海道千歳市……
この日の空は、まるで鉛を溶かしこんだかのように曇っていた。
そんな空模様が、さながら不吉の前兆ででもあるかのように。
を取り巻く自然界の一部が不思議な身動きを始めようとしていた。
そしてそれは、過去における幾つもの事案がそうであったように……
大地を揺るがす、突然の局地地震によってその幕を開けた!
ゴゴゴゴ……グラグラグラグラッ!
割れ裂ける地面、崩れ落ちる土砂。
その濛々たる土煙の中から、ゆっくり立ち上がる巨体は!
「ガーウォォ~っ!!」
野太い咆哮を、千歳の山の四方に轟かせ……
重量級の巨体を、今まさに地上へと現した怪獣軍団の新たなる使者。
怪力自慢の暴れ者、地底怪獣パゴスだ!
パゴス「ガーウォォ! 魔王様、早くこの俺にご命令を――
パワーが有り余って、一分たりともじっとしちゃいられませんぜ!」
イフ「ううむ、いい心がけだな、元気いっぱいなのはよいことだ!」
イフ「お前の使命はただひとつ、地球征服の手始めに千歳市を壊滅させること。
まずは、その手始めに――」
パゴス「(頷き)分かっておりやす、まずはコイツらを蹴散らしてやりまさァ!」
怪獣出現の通報を受け、いち早く出動した千歳基地の戦車部隊だったが……
パゴスが吐き出す“分子構造破壊光線”の威力によって、なすすべもなく壊滅。
巻き上がる爆炎を前に、バラサ、バラサと上機嫌な地底怪獣である。
パゴス「ガーウォォ、すっこんでろ、ドサンピン!
お前らの相手をしてる暇はねぇ、俺には大事なシゴトがあるんだ!」
イフ「その通りだパゴス、行くが良い!」
怪獣魔王の命を受けて猛り立ち、進撃を開始する大怪獣パゴス。
山を突き進み、谷を越え……
目指すは山の裾野に広がる、人間たちの営み。
そう、パゴスの狙いはただひとつ。
「北海道の空の玄関」として知られる、千歳市の中心部なのだ!
だが、ひとまずそれはそれとして――。
こんち、お馴染み宙マンファミリーとコロポックル姉妹。
今回、彼らはここ……
千歳市内の中心部・グリーンベルトにて開催されている、市民フリーマーケットに
みんな揃って足を運んでいたのであった。
ピグモン「はうはう~、ピグちゃんフリマだいすきなの~♪」
みくるん「ざっと見ると、ただのガラクタの山みたいに見えても……
その実、その中にひょっこり凄いお宝があったりもするんですよね~」
ながもん「だから……決して……あなどれない」
宙マン「ああ、隅から隅までじっくりマメに、だね」
ながもん「(拳を握って)待ってて。……掘り出し物」
ピグモン「はうはう~、ながもんちゃん、今日もはりきってるの~♪」
ビーコン「よーし、オイラもオコチャマ勢に負けず、気合入れて探すっスよ!
フリマでうんと安く仕入れて、余所へうんと高く売りつける……
これこそ今も昔も変わらぬ、お宝系転売術の秘訣っス!」
落合さん「(ジト目)あらあら、それはまた結構なお考えですこと……。
でも大概、不純な思考回路の持ち主に天は微笑まないものですわよね」
ビーコン「(ニヤニヤ)ヒヒヒ、なぁるほど。
だからいつまで経っても、落合さんの恋心も報われないんスね!」
落合さん「(赤面)……ちょ、よりにもよって……そういう返し方なさいますの!?」
宙マン「はっはっはっ、まぁまぁ、二人とも」
そんな雑談交じりで、楽しいフリマの空気に身を置いていた一同だったが……
ふと、会場内を歩いていたピグモンの足が、不意にぴたりと止まった。
ビーコン「ん?……どうしたっスか、ピグモン?」
ピグモン「なんか、変な音……しない?」
宙マン「そう言われてみれば、確かに……」
落合さん「ドス、ドスドスって……工事の音にしては、いささか奇妙ですわねぇ」
みくるん「(サッと青ざめ)ってことは、まさか、今日もまた……!?」
「ガーウォォ、そのまさかだぜ~っ!!」
ピグモン「(怯えて)はわわ、やっぱりなの、やっぱりぃ~っ!」
ながもん「あれは……地底怪獣、パゴス……学名、パゴタトータス」
みくるん「そ、そういうのを聞きたかったんじゃないよォ、ながもん!(汗)」
ビーコン「うひぃ、よりにもよってこんな時に現れるなんて……」
落合さん「タイミング悪すぎにも程がありますわよねぇ、全く!」
宙マン「おーい、そこの君!
今はフリマの真っ最中なんだ、体を動かすなら他所でお願い出来るかな!?」
パゴス「ガーウォォ、どっこい、そうはいかねぇ!
フリマだか何だか知らねぇが、何かイベントやってるならますます好都合。
そのイベントもろとも千歳を壊滅させ、怪獣軍団の威力を見せ付けてやる!」
ピグモン「えう~、なんかもう、最初から暴れる気マンマンなの~!(涙目)」
宙マン「(憤り)ううむっ……なんて奴だ!」
スライ「んー、ふふふ、パゴス君……
夏季ボーナスの最終査定を睨んでか、やけに張り切っておりますな!」
イフ「わはは、理由や動機はどうあれ……
しっかり使命を果たしてくれるのなら、魔王のワシに文句などはないわ。
さぁ行けパゴス、千歳の街を徹底的に破壊せよ!」
パゴス「ガーウォォん、お任せを~っ!」
怪獣魔王の命を受け、進撃開始するパゴス!
迫り来るその巨体を前に、散り散りになって逃げ惑う千歳の人々。
落合さん「ああ、もうッ……何てことでしょう!」
みくるん「フリマが……せっかくのフリマが、めちゃくちゃですぅ~!」
ビーコン「トホホ、命あっての物種っスもんねぇ!」
宙マン「いいからみんな、早くこっちへ逃げるんだ!」
パゴスの口から吐き出される、金色の“分子構造破壊光線”!
堅牢な現代建築のビルさえ、直撃を受ければひとたまりもなく四散してしまう。
おお、見よ……そして戦慄せよ、地底怪獣の恐るべきこの威力!
ながもん「この状況は、いけない……かなり、本気で」
ピグモン「はわわわ……宙マン、宙マン、何とかしてなの~」
宙マン「(頷き)おのれ、もう許さんぞ! 宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、荒れ狂うパゴスの前へ敢然と舞い降りる!
宙マン「トゥアーっ! 宙マン、参上!
マーケット実行委員会に代わり、悪党には私がお仕置きだ!」
ズ、ズーンっ!!
ながもん「おお。……いつもながら……頼もしい」
ビーコン「いよっしゃ、出たっス! アニキの十八番!」
落合さん「ここはお任せしましたわ、お殿様!」
ピグモン「はうはう~、宙マン、がんばってなの~!」
パゴス「ガーウォォ!
わざわざやられに来るとはご苦労なこった。望み通り叩きのめしてやる!」
宙マン「いいや、叩きのめされるのは貴様の方だ!」
ファイティングポーズで敢然と身構える宙マン。
さぁ、今日もまた、世紀のビッグファイトの幕開けだ!
激突、宙マン対パゴス!
人々が見守る中、地底怪獣と巨大超人の壮絶バトルが幕を開けた。
固い地盤を掘り進むために特化した、シャベル状の爪と強靭な前脚……
ひとたび格闘ともなれば、それは相手を叩き潰すための武器としても機能する。
そんなパゴスのパンチ攻撃に、怯むことなく真っ向から挑んでいく宙マン。
力と力、両者ともにほぼ互角。
だが、パゴスの野生パワーと驚異的なスタミナに対して……
我らが宙マンには、長い経験の中で磨き抜かれた「技」があった。
パゴスめがけて、見事にヒットする宙マン・パンチ!
さしものパゴスも、綺麗に決まったこの一撃には後退を余儀なくされる。
宙マン「どうだ、参ったか――まだやるかね!?」
パゴス「ガーウォォ……なめるな宙マン、これでもくらえ~っ!」
パゴスの怒りそのもののように迸る“分子構造破壊光線”!
巻き起こる爆発と衝撃波が、今度は逆に宙マンの巨体をよろめかせる。
宙マン「うッ!」
パゴス「ガーウォォ、まだまだ、お次はこれだァ!」
猛然とダッシュし、その加速度とともに繰り出されるパゴスの頭突き!
まともに喰らっては、宙マンと言えどもたまらない――
大きく吹っ飛ばされ、ドドーッと地面に叩きつけられるヒーローの巨体!
みくるん「ああっ、宙マンさんが!」
ながもん「攻撃としては、単純だけど……」
ビーコン「でも、そういう攻撃ほど「効く」もんなんスよねぇ!(汗)」
落合さん「(ハラハラと)……いけませんわ、このままではお殿様が!」
ピグモン「はわわ……宙マン、宙マン、負けないでなの~!」
宙マン「(苦悶)……うう……ウッ……!」
パゴス「ガーウォォ、次の一発で地獄へ送ってやるぜィ!」
宙マンにとどめを刺すべく、“分子構造破壊光線”発射の態勢に入るパゴス。
だが、このままやられっ放しでいるような宙マンではない――
残された気力と体力を振り絞り、全身のパワーを一気に爆発させる!
「なんの、これしき……負けて、たまるかッ!!」
宙マン、起死回生の大ジャンプ!
パゴスの“分子構造破壊光線”をひらりとかわして、空高く舞い上がる。
パゴス「う、うぬぬっ!?」
宙マン「さぁパゴスよ、今度は私がお返しさせてもらう番だ!」
「エイヤぁぁぁーっ! 宙マン・ミラクル・キック!!」
出た、電光石火の必殺キック!
紅く燃え上がる足先の直撃を受け、パゴスがドーッと倒れたところへ――
宙マン「どりゃあーっ! 宙マン・ショット!!」
気合とともに、不可視の破壊衝撃波を放つ宙マン!
炸裂した宙マン・ショットの一閃が、戦いを制する決定打となった。
パゴス「ガーウォォん……こ、こりゃまた効いたぁぁ~っ!!」
とどめの一撃を受け、ぐらりと崩れ落ちて大爆発を起こすパゴス。
やったぞ宙マン、大勝利!
みくるん「わぁっ……やったぁ、やりましたね、宙マンさん!」
ながもん「やっぱり……ヒーローは……こうで、ないと」
ピグモン「はうはう~、宙マン、ありがとうなの~♪」
人々の笑顔と歓声が、宙マンの勝利を讃える――
千歳の街に立ちつくす巨体は、どこまでも雄々しく、逞しかった。
イフ「うぐぐぐっ、おのれおのれ……まさか、パゴスまでもが倒されるとは!
だが、思い上がるではないぞ、宙マンめ。
我が怪獣軍団には、まだまだいくらでも強力な怪獣がおるのだ……!」
……などと言う、怪獣魔王のいつもの負け惜しみはさて置いて。
千歳市内に殴りこみをかけてきた地底怪獣パゴスは、宙マンの活躍で撃退され
グリーンベルトには再び、フリマの和やかな賑わいが戻ってきたのであった。
みくるん「うふふ、これでどうにかひと安心ですね!」
ピグモン「はうはう~、宙マンのおかげなの~」
宙マン「はっはっはっ、よぉし、それじゃ改めてフリマを楽しもう!
……ああ、だけど……
あの怪獣と一戦交えたばかりだから、猛烈にお腹がすいてきちゃったな」
ながもん「そういうことなら……あれ」
宙マン「ん?」
ビーコン「おお、ケバブの屋台じゃないっスか!」
みくるん「道理でさっきから、いい匂いがするって思ったら……」
宙マン「うんうん、あのスパイシーな香ばしさがねぇ、堪らないんだよねぇ」
落合さん「なるほど、確かにアレを素通りするテはございませんわね」
ビーコン「流石ながもんちゃん、食い物関連は目ざといっスねぇ!」
ながもん「まーかしてっ。……ヴイッ」
宙マン「よーし、それじゃ……
腰を据えたフリマ見物の前に、しっかり腹ごしらえといこうか!」
ビーコン「いえっふ~、超がつくほど異議なしっス~☆」
美味しく食べて、フリマも満喫……
今日も元気いっぱいの、我らが宙マンと仲間たち。
さて、次回はどんな活躍を見せてくれるかな?