とっぷりと日が暮れ、暗闇を多彩なネオンライトが彩り……
昼間とはまた違った装いと賑わいを見せている、真夜中の北海道千歳市。
そんな夜の街に目を向けてみれば、さっそく視界に入ってきたのは
宙マン、ビーコン、落合さんの三人である。
と、言うわけで。
今回の『宙マン』は、ここから物語を始めてしまおう。
ビーコン「やー、もう。
思っていたより、帰ンのが遅くなっちまったっスねぇ！」
落合さん「議題が白熱しましたものねぇ、今度の寄り合いでは」
宙マン「町内運営の今後にも関わることだから……
それはそれで結構だし、大事なことなんだけどね」
ビーコン「それはいいっスけど、とにかく今はハラ減ったっス～」
宙マン「……たはは、時間も時間だものねぇ」
ビーコン「で、せっかく街まで出てきたことだし……
オイラ的には、何か食って帰りたいとこっスね～」
宙マン「いい店の心当たりでもあるのかい？」
ビーコン「ま～かしといてっス、アニキ！
この先、市役所近くの交差点にね、いい店が……」
落合さん「（思い当たって）あっ、もしかして……
あの、台湾ラーメンが美味しい！？」
ビーコン「ヒヒヒ、さっすが落合さん、まさにそこっス！
酸っぱさと辛さだけじゃなくて、たっぷり挽肉がコクを出し
それでいて、葱のおかげでさっぱり後口爽やかなスープ！
今みてェな寒い季節にゃ、何よりのご馳走っスよ！」
宙マン「（苦笑）いやっははは、勘弁してくれビーコン。
その熱弁は、何より私の胃袋に効くよ！」
落合さん「みくるん様たちのお宅にお泊り中ということで……
今日はピグモンちゃんのことを気にかける必要もなく。
大人だけで羽を伸ばすには、もってこいの夜ですわ」
ビーコン「っしゃ、決まりっスね！」
と言うわけで、ビーコンお勧めの町中華屋へと寄り道していく方向で
宙マンたちの話がまとまりかけていた時。
そう、事件が起こったのは、ちょうどその時であった！
ゴゴゴゴ……グラグラグラグラっ！
宙マン「む、むむっ！？」
ビーコン「ちょ、冗談じゃないっスよ、こんな時間に地震だなんて！」
平和な夜の街を、突如として激しく揺さぶる大地震。
ビルが崩れ、道路が裂け……
地面の割れ目から噴き出す、濛々たる土煙の中から現れたのは！？
「ピギャルァァ～っ！！」
落合さん「あらいやですわ、怪獣！？」
ビーコン「きっとまた、怪獣軍団の差し金に決まってるっス！」
宙マン「相変わらず、嫌なタイミングで現れてくれるねぇ！」
「ピギャルァァ～、俺の名前は爆弾怪獣・ゴーストロン。
宇宙じゃちょいと名の知れた……
凶暴怪獣・アーストロンの弟だぁ！」
ビーコン「あぁ……なるへそ！」
宙マン「道理で、前に見たような姿だと思ったよ！」
落合さん「で、その弟さんが……今夜はどんな用向きで？」
ビーコン「まさか、おたくも台湾ラーメン食いに？」
ゴーストロン「そうそう、アクセントの岩海苔がまた心憎くって……
……って、ちっがーう！！」
ゴーストロン「復讐だよ復讐！ リ・ベ・ン・ジ！
うちの兄貴があんな形で、手ひどく痛い目に合わされた日にゃ
弟の俺も、そろそろ我慢の限界だってコトよ！」
ビーコン「あ～、やっぱりスか、やっぱり！（汗）」
落合さん「どうせ、そんな事だろうとは思ってましたけど……」
イフ「わははは……いいぞゴーストロン、その意気だ！
兄・アーストロンの受けた屈辱を晴らすもの……
それはひとえに、お前の腕っぷしひとつであるぞ！」
ゴーストロン「ピギャルァァ～、お任せ下さい魔王様！」
怪獣魔王の命を受け、進撃開始するゴーストロン！
迫り来るその巨体を前に、悲鳴をあげて逃げ惑う人々。
ビーコン「どひ～っ、只でさえすきっ腹だってのに……」
落合さん「そのうえ深夜マラソンなんて、ドＳにも程がありますわ！」
宙マン「いいから、逃げるんだ――早く！」
ゴーストロン「ピギャルァァ～、これでもくらえっ！」
ゴーストロンの口から吐き出されるのは、兄譲りのマグマ熱線。
その洗礼を受け、夜の街はみるみる炎に包まれていく。
ゴーストロン「ピギャルるる、ど～んなもんだィ！」
落合さん「あらまぁ、また困った事になりましたわねぇ！」
ビーコン「アニキ、ここは一発ヒーローの出番っスよ！」」
宙マン「（頷き）おう、やらいでか！ 宙マン・ファイト・ゴー！！」
まばゆい光に包まれながら、颯爽と巨大化する我らが宙マン。
さぁ、正義の味方のお出ましだ！
宙マン「トゥアーっ！ 宙マン、参上！
怪獣ゴーストロン、深夜のヤンチャも大概にするがいい！」
ズ、ズーンっ！
ビーコン「いよッ！ 待ってましたっス、宇宙一！」
落合さん「今日もお願い致しますわねぇ、お殿様！」
ゴーストロン「ピギャルァァ～ッ、出たな宙マン！
たっぷり痛めつけ、その上で地獄に送ってやるぜ！」
宙マン「さぁて、痛い目を見るのはどっちかな……！？」
ファイティングポーズとともに、敢然と身構える宙マン――
さぁ、今夜もまた、世紀のスーパーバトル開幕だ。
ゴーストロン「ピギャルァァ～ッ、勝負だ宙マン、行くぜ行くぜィ！」
宙マン「どこからでも来い、ゴーストロン！」
真っ向激突、宙マン対ゴーストロン！
落合さんたちが見守る中、両者の攻防戦が火花を散らす。
パワー全開で、接近戦を挑んでくるゴーストロン。
凶暴な兄に対して、おっとり呑気者と評されることも多い弟怪獣だが
秘められた野生の獰猛さは、決して他の怪獣にひけはとらない。
宙マン「だが、私にもまた……負けられない理由がある！」
熱い闘志をこめて、鋭く繰り出されるストレートキック！
その直撃を脇腹に受け、ずずっと後退するゴーストロンである。
ゴーストロン「げふ、ごほっ……い、今のは効いたぜ！」
ビーコン「よっしゃ、完全に流れはアニキ優勢っス！」
落合さん「あと一息ですわ、お殿様！」
ゴーストロン「ピギャルルル、そうはいくかよォ！」
ゴーストロンの怒りそのもののように、勢いよく迸る熱線！
宙マンの周囲に炸裂し、凄まじい爆炎が噴き上がる。
ズガーン！ グワーンっ！
「う、うわぁぁぁぁ……っ！？」
ビーコン「どひ～っ……あ、アニキっ！？」
落合さん「いけませんわ、このままではお殿様が……！」
宙マン「（苦悶）うう……うっ！」
ゴーストロン「ピギャルルル、このシリーズも残念ながら今日が最終回だぜ！」
勝利を確信し、猛然と迫ってくるゴーストロン。
だが、そこに生じた一瞬の隙こそ……
宙マン・起死回生の必殺技が唸りをあげる時なのだ！
「受けてみろ！ 宙マン・超破壊光線！！」
両手の間にエネルギーを集中させ、激しいスパークとともに放つ大技。
「超破壊光線」の直撃を受け、火花を散らす爆弾怪獣のボディ！
ゴーストロン「ピギャルるる、お、おれも負けちゃったぁぁ～っ！」
やったぞ宙マン、大勝利！
落合さん「お見事です！……やりましたわね、お殿様！」
ビーコン「いえっふ～！ やっぱ、アニキはこうでなきゃっス！」
イフ「おのれぇぇ……またしても、またしても宙マンめが！
だが、これしきで地球を諦める怪獣軍団ではないぞ。
次々に新手を繰り出し、今度こそお前の息の根を止めてやる！」
……などと言う、毎度の負け惜しみはさて置いて。
かくして我らが宙マンの活躍で、怪獣ゴーストロンは撃退され
千歳の街は、また静かなひとときを取り戻したのであった。
落合さん「お疲れ様でした、お殿様！」
ビーコン「ヒヒヒ、ほっとしたとこで……
あとは心置きなく、台湾ラーメンの店に突撃っス！」
落合さん「美味しく温かい一杯で、お疲れを癒して下さいな」
宙マン「うんうん、そうだとも、そうこなくっちゃ――
そうでなけりゃ、頑張った甲斐もないってものさ！」
ビーコン「すきっ腹には、何より嬉しいご褒美っスよねぇ。
ヒヒヒ、そしてピリ辛の食欲を思いっきり充たしたあとには
落合さんにはオイラからの、とびきり甘いサービスが！」
落合さん「（ジト目）……はァ？」
ビーコン「いえっふ～、と～ぼけちゃって、コノコノっ！
食欲の後に充たすものって言えば、当然性よ（く）……」
げ し っ ！
落合さん「ねーいっ、全く、このエロ怪獣ッ！（怒）」
ビーコン「どひ～っ、ピリ辛どころじゃない一撃っスぅぅ～」
宙マン「はっはっはっはっ」
寒く、厳しい冬の宵こそ……
何より嬉しい、みんなの笑顔。
宙マン、次回も千歳の平和を頼んだぞ！
