宙マン「おおっと、そこまでだ!
宙マン・ファイト・ゴー!!」
宙マン「トゥアーッ! 宙マン、参上!
千歳の平和を乱す悪党め、やると言うなら容赦しないぞ!」
宇宙を走り、次元を裂いて、次々に現れる怪獣・怪人・宇宙人。
その猛威に立ち向かい、平和を守り抜くことが出来るのは……
プラネット星からやって来た彼をおいて他にはいない。
ズ、ズーンっ!!
幸か不幸か、戦う相手に不自由はなし。
我らが宙マン、果たして今日の相手や、いかに!?
「フハハハハ……出てきたな、宙マン!」
千歳市のど真ん中に、忽然とその巨大な姿を現したのは……
怪獣軍団きっての凄腕諜報員、「宇宙スパイ」の別名で知られる
シリウス星系第7惑星の住人・プロテ星人である。
プロテ星人「この私の挑戦、受けてもらえるだろうね?」
宙マン「あぁ、ランチタイムに水を差されたくはないからね!」
ファイティングポーズとともに、敢然と身構える宙マン――
さぁ、今日もまた、世紀のスーパーバトル開幕だ。
落合さん「しっかり、お殿様! 私たちがついておりますわ!」
ビーコン「今日も頼りにさせてもらうっスよ~、アニキ!」
ピグモン「はうはう~、宙マン、がんばってなの~!」
宙マン「来るなら来てみろ、勝負だプロテ星人!」
プロテ星人「フハハハ、果たしてこの私に勝てるかな!?」
真っ向激突、宙マン対プロテ星人!
落合さんたちが見守る中、冬の街に死闘の花が熱く咲く。
潜入活動を主としながら、荒事にも一切躊躇しない……
それもまた、星人が宇宙のプロスパイと呼ばれる所以である。
太い両腕を奮い、猛然とパンチ攻撃をかけてくるプロテ星人!
その猛撃に対し、宙マンも臆することなく渡り合い……
肉弾戦の狭間に生じた、一瞬のチャンスを掴んだ。
「くらえ!
宙マン・ストライク・シューティング!!」
宇宙スパイめがけて、得意の光線技を放つ宙マン!
だがプロテ星人は、自らの体を瞬間的に透明化させることで
正義の光線を悠々とかわしてしまったではないか。
宙マン「(驚き)何っ!?」
プロテ星人「フッ……驚くのはまだ早いぞ、宙マン!」
宙マンの目の前で、自らの力を誇示するかのように……
悠然と二体分身して見せるプロテ星人。
落合さん「ど、どちらが本物ですの!?」
ビーコン「ひぇぇ、こう言うのが一番めんどくさいんスよ!(汗)」
ピグモン「はわわ、宙マン、気を付けてなの~!」
状況は二対一、宙マンにとっては不利な条件であるが……
だがしかし、それでも我らがヒーローの闘志は衰えない。
プロテ星人「フッ、フハハハハ……どうだ、驚いたかね宙マン!?」
宙マン「なんの! 行くぞ、それっ!」
左右から襲いかかる宇宙スパイに、鋭いパンチを見舞う宙マン。
が、実像とみれば虚像と言った塩梅で……
鉄拳がことごとく、プロテ星人の体をすり抜けてしまう。
消えては現れ、また現れては消える。
プロテ星人の分身戦法に、いいように翻弄される宙マン。
プロテ星人「フッハハハ……そぉれ、どうした、どうした!」
宙マン「むむっ、なかなかやるな……!」
かくして戦いの流れは、肉弾戦から超能力戦へ……
お互いの持てる力をフルに発揮することで、宇宙人同士の戦いは
いやが上にもヒートアップしていく。
だが、その戦いの一方で、人々は気づいていなかった――
千歳市の片隅を、どろどろとした赤い液体が……
まるでそれ自体が、意思を持った生き物ででもあるかのように
ゆっくりと溶け流れていることを。
……いや、間違いなくそれは一箇の「生き物」なのだ。
それが証拠に、赤い液体がまばゆいばかりの閃光をぱぁっと放ち
みるみるうちに、プロテ星人の姿をとっていくではないか!?
「フ、フフッ、フハハハハ……!」
巨大化した自らの「抜け殻」を敵と戦わせている間に、その本体は
密かに液体化して戦線離脱し、ちゃっかり「蚊帳の外」を決め込む……
この驚くべき能力こそ、正に宇宙スパイの真骨頂なのである。
プロテ星人「フフフフ、愚かな宙マンよ……
いつまでもそうして、私の「抜け殻」と遊んでいるがいい」
「私には、もっと大事な……
そう、「為すべき事」があるのだ……!」
不敵な宣言とともに、宙マンの巨大戦にくるりと背を向け……
そのまま悠然と、千歳の街へ繰り出していく等身大の星人本体。
ザクッ、ザクッ、ザクッ……
足元の雪を踏みしめながら、プロテ星人が行く。
一体、プロテ星人は何を求めているのだろう?
そして、彼の目指す先には何があると言うのだろうか?
……そんな我々の疑問に答える形で、プロテ星人の足が
ここでぴたりと止まった。
プロテ星人「フハハハ……あったぞ、ここだ、ここだァ!」
快哉を叫んだプロテ星人の目の前にあったもの……
それは、ランチメニューの美味しさで近年評判を呼んでいる
千歳市内のとある食べ物屋さんなのであった。
「いらっしゃいませー、お好きなお席へどうぞ♪」
プロテ星人「やぁ、うんっ、どうもどうも」
席に着き、注文をして、待つこと十数分。
ほどなくして、プロテ星人の席に……
厨房から、彼の「お目当て」の品が運ばれてきた。
プロテ星人「おおーっ、これこれ、これですよ!
ランチタイム限定、日替わりメニューの“彩り御膳”……
今日のメインはハンバーグかぁ、う~ん良い匂いだ!」
ふっくらした焼き上がりと肉汁、デミグラスソースの深いコク。
それらが相乗効果によって醸し出す旨味は、海鮮主力の店とは言え
決して肉料理メインの他店にひけはとらない――
プロテ星人「フフフ……と、言う事はだよ?」
プロテ星人「はむっ……おおっ、やっぱりだよ、納得納得!
本来は専門外であるはずのハンバーグにも、全力を注いで
美味しく仕上げてくれる店だからこそ……」
プロテ星人「わざわざ看板を掲げる海鮮系が不味かろうはずもない、と!
ああ、この刺身の一枚一枚……
切ッツケの美しさときたらどうだ、まるで花びらじゃないか」
プロテ星人「そして、そんな生魚をカルパッチョでも楽しませてくれる、と。
基本の技と食材の鮮度が冴え渡っているからこそ、変化球も
見苦しくならず、ビシリと気持ちよく決まるってもんだねぇ」
プロテ星人「茶わん蒸しがつき、食後のドリンクもつき……
そして、デザートまで用意されてると来た日には!
っかー! っかー! もう一つおまけに、っかー!」
プロテ星人「食べるのが勿体なくなる芸術的デコレーション……
でもね、そこを敢えて躊躇なく食べちゃうのが私なの。
ぱくっ……ん~っ、美味ち~♪♪」
プロテ星人「いやー、旨かった旨かった!
食材も調理も実に非凡、結構この上なしじゃないですか。
これは評判になるはずですよ、いいお店だなァ。
……ふふふ、そして……」
プロテ星人「そしてそして、何と言っても!
仕事をサボって旨い飯を食う!
これ以上の幸福がありますかってんですよ、ねぇ!?」
「えぇいっ、この大たわけ者めが~っ!!」
プロテ星人「(驚愕)ゲゲェッ! ま、魔王様!?
も、もしかして、今の私の独り言……」
イフ「ぜ~んぶ丸聞こえじゃわい、全くお前と言うやつは!」
プロテ星人「ひえぇぇ~っ、ご、ごめんなさ~いっ!」
怪獣魔王の「雷(激怒を示す比喩的表現)」が落ち……
口福から一転、冷や汗かいて帰還することとなったプロテ星人。
……と、同時に。
宙マンと戦い続けていた星人の「抜け殻」も、唐突過ぎるほどに
その場からふっと姿を消す事となったのであった。
宙マン「(首をひねって)……何だったんだ、今のは……?」
ビーコン「ヒヒヒ、まぁまぁアニキ、いいじゃないっスか!」
ビーコン「向こうさんから引っ込んでくれたってんなら、それでよし。
オイラたちはまた引き続き、楽しい昼飯タイムといくっスよ!」
ピグモン「ピザにパスタに、今日はイタリアンがいいと思うの~」
落合さん「お働きの分、うんと力一杯お召し上がり下さいませ!」
宙マン「うん、そうだね。……それでよし、としておこうか!」
ビーコン「ヒヒヒ、そんじゃアニキ……
締めに一発、いつもの決めポーズでもお願いするっス~☆」
宙マン「あ、ああ……ええっと、こう……かな?」
勝利のポーズを決め、とりあえずその場を取り繕う宙マン。
いろいろと釈然としないオチではあるものの……
何はともあれ、地球は今日も平和なのには間違いなかった。
敵も味方も、元気に呑気……
相変わらずです、『宙マン』シリーズ。
次回も懲りずに、またお付き合いの程を!