スカッと澄み渡るような、四月の空の下……
ここ・北海道千歳市郊外の山は、優しい陽気に暖められていた。
だが、そんな千歳市に、またも忍び寄る不穏な気配。
虚空から不気味に響き渡るのは、怪獣魔王イフの呪いの声だ!
イフ「いまぞ起て、我が怪獣軍団の戦士よ!
怠惰な平和を貪る地球人どもを、その牙と爪で徹底的に蹂躙するのだ――
いでよ! 行くところ常に波乱を巻き起こす、怪獣墓場の顔役よ!」
ピカッ、ゴロゴロドドーンっ!
一天、にわかに掻き曇り、空に奔る鋭い落雷。
その閃光の中から、地上にその恐るべき姿を現したのは……
怪獣墓場でブイブイ言わせた無類のケンカ好き、亡霊怪獣シーボーズだ!
「ゴゴゴゴ……
グワ~ッガッガッガ~!」
そして、その光景を……
たまたま近くを通りかかった、千歳市で農業を営む熊澤さんが目撃していた。
熊澤さん「あわわわ、大変だぁ……早く宙マンさんに知らせなきゃ!(汗)」
と言ったところで、場面は変わって……
こちらは千歳市ほんわか町5丁目、毎度お馴染み「宙マンハウス」。
落合さん「お殿様、お殿様っ!
もうすぐ始まりますわねぇ、本日放送分の連続ドラマ!」
宙マン「おおっと、もうそんな時間かい?
いけない、いけない。うっかり忘れて見逃してしまうところだったよ」
落合さん「それにしても毎週毎週、目の離せない展開が続きますわね~」
ビーコン「おかげでついつい、次も見なきゃって気にさせられちゃうんスよねぇ」
宙マン「そういうトコは本当に上手いと言うか、名人芸の域だよねぇ」
そう、こんちお馴染み宙マンファミリー。
彼らは家族揃って、もっか地元密着型のケーブルテレビ局「CCVちとせ」内にて
月~金の帯番組として放送中の、長編連続ドラマにハマっているのであった。
落合さん「待ちに待った、王様へのお目通りも叶ったことですし……」
ビーコン「いよいよここらで、主人公サイドの大逆転になるっスかねぇ?」
ピグモン「はうはう~、とってもたのしみなの~♪」
……だが、その時である。
「うぉぉぉ~いっ! 宙マンさん、宙マンさ~んっ!」
ビーコン「ありゃ、誰かと思ったら熊澤さんじゃないっスか!」
宙マン「ちょうどいい、熊澤さんも一緒にドラマ見ませんか?」
熊澤さん「いやいや、それどころじゃないんだって!(汗)」
宙マン「……その慌てぶり、尋常ではなさそうですね」
落合さん「いったい何があったんですの!?」
熊澤さん「そうそう、それを今から説明しようと思ってたの!
実はね、かくかくしかじかで……」
落合さん「なんですって……町外れの山の中に、怪獣が!?」
ビーコン「……それも、稲光りの中から、ピカーっとっスか!」
熊澤さん「これは私の勘だけど……
あれはどう見ても、善良なヤツの現れ方ってカンジじゃなかったねぇ」
宙マン「ふむ、確かに何かあってからでは不味いかもしれませんね。
……ああっ、でも参ったなぁ、もうすぐドラマの始まる時間……!」
ビーコン「や、ものは考えようっスよ。
アニキはもう引退済みだから、緊急出動の義務なんてないんスし……」
落合さん「様子見は、せめてドラマが終わってからってことでも。ね?」
宙マン「うん、そうだよね、それもひとつのテなんだろうけど……」
宙マン「……でも、やっぱり!
そういうわけにはいかないよねぇ!?」
落合さん「あっ、お、お殿様っ!?」
なんのかんので、緊急事態を放っておけないのが宙マンのいいところ。
連続ドラマは気になるものの、まずは事件の現場へ猛ダッシュ!
……で、画面は再び問題の山中。
その間にも……
シーボーズは、確かな足取りで人里へと降りて来つつあった。
イフ「墓場よりの使者シーボーズよ……遠慮はいらん、思い切りやれ!
持って生まれたそのパワーで、千歳の街を徹底的に破壊するのだ!」
シーボーズ「お任せ下さい、魔王様!」
シーボーズ「グワ~ッガッガッガッ、今に見てろよ。
思いっきり暴れて、俺様の怖ろしさと魅力を全宇宙に見せつけ……」
「いいやっ、そうはさせないぞ!!」
おお、見よ!
高らかな声とともに、空中回転で躍りこんできたヒーローの雄姿を!
宙マン「トゥアーッ! 宙マン、参上!
また懲りずに悪企みか……怪獣軍団、今度ばかりは容赦しないぞ!」
シーボーズ「グワッガッガッ、うるせぇぞ宙マン!
毎度毎度、俺様たちがシゴトをしようって時に出てきやがって!」
宙マン「それはこっちの台詞だ!
毎度毎度、こちらが何かしようとした時に限って出てきて……
おかげで楽しみにしていた連続ドラマを見損ねたぞ、どうしてくれる!」
シーボーズ「っがー、そんなの俺様が知るかよっ!」
宙マン「おのれ、もう許さんぞ! 勝負だ!」
シーボーズ「いいだろう、手始めにお前から叩きのめしてやらぁ!」
激突、宙マン対シーボーズ!
互いに相容れない主張が、世紀のスーパーバトルとなって爆発する。
怪獣墓場仕込みのケンカ殺法で、猛然と殴りつけてくるシーボーズ。
その強引さに手を焼きつつも、熟練の戦技で互角に渡り合う宙マン。
シーボーズ「そ~れ、それそれ……どうだ、これでもかァ!」
宙マン「なんの、そう簡単にやられるものか!」
敵の脳天めがけて、パンチ攻撃を見舞わんとする宙マン。
だが、それよりも一瞬早く……
宙マンの胸板へと、シーボーズのメガトン頭突きが決まった!
バ キ ィ ィ ッ !
宙マン「う、うわぁぁぁぁ……っ!」
シーボーズ「ガッガッガ~、ざまァねえな宙マン!
このまま、体中の骨って言う骨をへし折りまくってやるぜ!」
倒れこんだ宙マンめがけて、荒々しくのしかかってくるシーボーズ。
だが、そんなことでヒーローの闘志は衰えない――
激しい揉み合いの中で、逆にシーボーズを引っ張り起こす宙マン。
亡霊怪獣の頬げためがけて、正義のパンチが見事に決まった!
シーボーズ「ぐうっ!?」
宙マン「まァだまだ、どんどんいくぞ――お次はこれだ!」
宙マン「エイヤァァーっ!
宙マン・ミラクル・キック!」
出た、電光石火の必殺キック!
その威力の前に、大ダメージを受けて吹っ飛ばされるシーボーズ。
宙マン「どりゃあーっ! 宙マン・ショット!!」
気合とともに、破壊衝撃波を放つ宙マン!
腹部に炸裂した不可視の一閃が、シーボーズへの決定打となった。
シーボーズ「がっ、ガッ……骨折り損の、くたびれ儲け~っ……!」
やったぞ宙マン、大勝利!
宙マン「ようし。……勝った、勝ったぞ!」
イフ「う……うぐぐぐっ……よくも、よくもやってくれたな!」
イフ「だが、これで勝った気になってもらっては困るぞ!
すぐさま新手の怪獣とともに、地獄の挑戦状を叩きつけてやる――
よいか、覚えておれよ宙マンめが!!」
……などと言う、毎回恒例の負け惜しみはさておいて。
かくしてここに、千歳の平和は守り抜かれた。
闘い終わって、夕陽の中に佇む雄姿……その胸に去来するものは、何か?
宙マン「……おおっと、こんなコトしてる場合じゃない、急いで戻らなきゃ!
う~ん、せめて今日の山場に間に合えばいいんだけどなぁ……(汗)」
そう、結局は連続ドラマのことで頭がいっぱいの宙マンでしたとさ。
ちゃんちゃん。
今日も本当にありがとう、宙マン。
さァて、次回はどんな活躍を見せてくれるかな?