遥かなる宇宙の彼方、暗黒星雲の奥深くから……
緑の地球を我が物にせんと狙い続けている怪獣軍団。
今日も配下の怪獣たちに向かって、怪獣魔王・イフの檄が飛ぶ。
またまた恐るべき侵略の魔の手が、緑の地球に迫るのだ！
イフ「うぬぬぬっ……それにしても、忌々しい宙マンめ！
奴さえおらなんだら、万事はワシの思い通りに運んで
地球など簡単に、怪獣軍団が征服していたと言うに！」
イフ「にっくき宙マンを倒せ！ 地球を攻め落とせ！
我が怪獣軍団の誇る、一騎当千のつわものどもよ……
そのための、新たな作戦計画は進んでおろうな……！？」
「ヒョホホホホ……
万事抜かりはございません、魔王様！」
悠然たる口調で、怪獣魔王の前に進み出てきたのは……
怪獣軍団の幹部候補生集団「ダークネスファイブ」の一員として
将来を嘱望される、若き強豪宇宙人。
イフ「おおっ……“地獄の”ジャタール！
既に準備は整っているようだな、流石だの！」
ジャタール「ヒョホホホ、お褒めに与り光栄の至り♪」
ダークネスファイブの一員、“地獄の”ジャタール。
際立った嗜虐性と残忍さにおいては五人衆の中でも群を抜いている
「地獄星人」ヒッポリトの眷属である。
その彼が登場したとなれば、大広間に集った怪獣たちの間からも
「おおっ……」と、どよめきが起こったとしても不思議ではない。
イフ「“地獄の”ジャタールよ！
お前の作戦立案能力と行動力は、余も大いに買っておる」
イフ「そのお前が指揮する作戦じゃ、並大抵のものではあるまい。
まずは説明してもらおう、よいな？」
ジャタール「（畏まって）もとより！」
ジャタール「この私めが、魔王様より任されている専用ラボ……
ここにおいて私めは、宙マン打倒のためデータ分析を重ね、
また時に、地球侵略を効果的、かつ劇的に成し遂げるための
新兵器開発・研究にも余念がないのでございます」
イフ「うむっ、正にお前にしか出来ぬ仕事だな」
ジャタール「その専用ラボにて、私がかねてより研究を続けてきた
新型の超プラトニウム爆弾。
……苦心の末、ついに開発成功致しました！」
イフ「おおっ、遂にか！」
ジャタール「たったの一発で、ひとつの街程度ならば
跡形もなく消し去ってしまう爆発力……
超エネルギー物理理論の精華が、全宇宙を震撼させましょう」
ジャタール「ヒョホホホ、そしてそして……
この超プラトニウム弾頭の恒星間ミサイルを、千歳めがけて
ただちに発射いたしますれば……ねぇ！？」
イフ「ほうほう、うむうむっ！」
ジャタール「もはや宙マンごときが、じたばた抵抗する暇もなく……
たったの一発で、千歳市などは一面の瓦礫の山！
そうなれば、地球を征服するなど容易いこと――」
ジャタール「そうなれば、怪獣軍団の勝利は疑う余地もなし。
まずは一発、千歳市Ｋ地区にお見舞いしてやりましょう！」
イフ「ううむっ、見事じゃ！ よく頑張ったの、ジャタール。
その努力は賞賛に値するぞ、褒めてとらす――
……だが、発射の許可は出せぬ！」
ジャタール「（目がテン）……へっ！？ 魔王様、いま何と……」
イフ「申した通りじゃ。
超プラトニウムミサイル発射、ワシからの許可は出せん！」
イフ「あ～、何と言うか……だな。
千歳市Ｋ地区と言うのが特にダメだ、どうにもいかんッ」
ジャタール「は？ それは一体、どういうことで……」
イフ「うむ、千歳市Ｋ地区と言えば……
デスローグが贔屓にしている蕎麦屋のある地域ではないか。
そんな場所を完全破壊すれば……
デスローグがどれほど悲しむか、お前にも察しはつこう？」
ジャタール「……はぁ！？
やだもー魔王様、相変わらずデスローグには甘々なんですからぁ！」
イフ「とにかくだ、許可は出せんので、その作戦は即時中止。
白紙に戻して、何か別の手を考えるがよいぞ！」
ジャタール「……って、そりゃないですよぉ、魔王様！
私がこのために、どれだけの時間と予算を費やしたかッ。
デスローグにも、このさい私情は捨ててもらってですね……」
イフ「 厳 命 い た す っ ！！
異論は一切認めぬ、話は終わりじゃ。よいな！？」
ジャタール「（衝撃）……そ、それはないでショ～っ！？」
おお、かくして！
敢えなくペンディング（保留、実質的な中止）扱いとなってしまった
“地獄の”ジャタールによる、超プラトニウム爆弾作戦。
だが、そうは言われても……
自信満々で準備していた作戦だけに、立案者のジャタールとしては
どうにもこうにも、フラストレーションの持って行き場がない。
と、言うわけで……。
ズゴゴゴグワーンっ！
暗黒星雲から飛来し、地上に激突した赤い光球。
もうもうたる噴煙の中から現れたのは、もちろん……！
「ヒョーッホホホホ……！！」
ピグモン「あっ、おっきな宇宙人なの！」
落合さん「あのルックス、確かヒッポリト星の……」
宙マン「（頷き）ダークネスファイブ、“地獄の”ジャタールだな！？」
ジャタール「ああ、そうともさ、“地獄の”ジャタールだ！
私の華麗な作戦で、一気に地球を征服するはずだったのに……
いろいろあって、その企画案をボツにされてしまった」
ジャタール「だが、このままでは腹の虫がおさまらない……
一暴れして憂さ晴らしさせてもらうんで、ヨロシクぅ！」
ビーコン「どひ～っ、わっかりやすい八つ当たりっスねぇ！（汗）」
落合さん「分かりやすいですが、最っ低の理由ですわっ！」
ジャタール「うるさい、うるさい、これでもくらえ～っ！」
落合さん「きゃ、きゃあぁぁぁっ！？」
ビーコン「うわ、うわ、うわ～っス！」
おお、理由はどうあれ……またまた千歳の大ピンチ！
だが、この緊急事態に際して……
ヒッポリト星人の進撃を阻むべく、航空防衛隊の空の精鋭たちが
ビーコン「おおっ、航空防衛隊が来てくれたっスよ！」
落合さん「頼みますわよ～、皆様方。
これで毎回、けっこう本気で期待しているんですから！」
ピグモン「はうはう～、おじさんたち、頑張ってなの～！」
「ようし……全機、星人への一斉攻撃だ！」
戦闘機編隊、ロケット砲の一斉射撃！
その威力をもってしても、ジャタールの進撃は止まらない。
ジャタール「ヒョホホホ……戯け者どもが！」
「う、うわぁぁぁ～っ！？」
頭部の三本角をスパークさせ、破壊光線を放つジャタール！
その一閃にやられ、一機、また一機と撃墜されていく戦闘機。
ジャタール「ヒョホホホ……すっきりすっきり、気分爽快！
これで少しは気も晴れたわ、ヒョホホホ……！」
宙マン「おのれ、もう許さんぞ！
宙マン・ファイト・ゴー！！」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、ジャタールの前へと舞い降りる！
宙マン「トゥアーっ！ 宙マン、参上！
この無法星人め、もう好き勝手にはさせないぞ！」
ズ、ズーンっ！！
落合さん「あぁ、お殿様……今日も素敵です……♪（うっとり）」
ビーコン「もうホント、アニキだけが頼りっスよ！」
ピグモン「はうはう～、宙マン、がんばってなの～！」
ジャタール「ぐぬぬっ、邪魔をするなら許さんぞ、宙マン――
私はただ、仕事関連の腹いせで暴れているだけなのに！」
宙マン「……あぁ、そういうのが一番タチが悪いんだよね！」
ファイティングポーズとともに、敢然と身構える宙マン――
さぁ、今日もまた、世紀のスーパーバトル開幕だ！
ジャタール「ねーい、こうなったらついでだ、お前も叩きのめしてやる！」
宙マン「やれるものなら、やってみろ！」
激突、宙マン対“地獄の”ジャタール！
巨大な宇宙人二人による、パワー全開の凄まじい大格闘戦が
市街地狭しと展開されていく。
持ち前の残忍な奸智と猟奇性に加え、格闘戦のセンスも際立って高い……
歴代ウルトラ戦士をも苦戦させたヒッポリト星人ならではの優れた特徴は
ジャタールにもしっかり受け継がれ、更に洗練・増幅されていた。
だが、そこはそれ。
宙マンもまた、長年の経験によって育まれてきた技の冴えによって
ジャタールの猛攻に対し、一歩も退かず渡り合う！
宙マン「ヒッポリト星人、大人しく暗黒星雲に帰れ！」
ジャタール「黙れ黙れ、小癪な宙マンめ――」
「消し炭にしてやる、火炎地獄の威力を見よ！」
ジャタールの胸から迸る灼熱火炎光線！
だが宙マンは、慌てず騒がず……その攻撃を的確に見切って
得意の回転戦法により、ひらり、ひらりと回避していく。
ズガーン！ グワーンっ！
火炎光線の洗礼を受け、周囲に凄まじい爆発が生じるが……
肝心の獲物たる宙マンを捉えることはできない。
ジャタール「……うぐぐっ、ちょこまかと小賢しいっ！」
宙マン「どぉれ、今度は私から行かせてもらおうか――」
「デリャアぁぁーっ！
宙マン・ズーミング・キック！！」
鋼鉄の２０倍以上の固さを誇る、宙マンの爪先……
助走をつけて蹴りこめば、それは怪獣へのとどめの一撃として
充分以上の威力を発揮するものとなるのだ。
ジャタール「ぎょ、ギョボボボッ……効いたぁぁぁ……っ！」
必殺キックの痛烈な打撃に……
泡を吹き、白目を剥いて失神してしまった“地獄の”ジャタール。
やったぞ宙マン、大勝利！
ビーコン「いえっふ～、アニキがやってくれたっスよ！」
落合さん「流石はお殿様、こうじゃございませんと！」
ピグモン「はうはう～、宙マン、ありがとうなの～♪」
かくて宙マンの活躍により、ヒッポリト星人“地獄の”ジャタールは
その八つ当たりもろとも撃退され、平和が蘇ったのであった。
宙マン「やぁやぁ、みんな、お待たせお待たせ！」
落合さん「どうもお疲れ様でした、お殿様！」
ピグモン「はうはう～、今日もかっこよかったの～」
ビーコン「つーか、アニキ……腹、減ったっしょ！？」
宙マン「ああ、一戦交えた後は特に清々しく……ね！」
落合さん「では、帰る前に何か頂いていきましょうか？」
宙マン「う～ん、だったら今日はジンギスカン鍋の気分かなぁ。
よく吟味された羊肉を焼いて頬張り、熱い肉汁が口の中に溢れれば
それだけで気分がウキウキしてくるってものさ！」
ピグモン「ジンギスカンいいの～、ジンギスカンで賛成なの～☆」
ビーコン「ヒヒヒ、道民のソウルフードっスもんねぇ♪」
落合さん「えぇ、それじゃ……決まりですわね」
宙マン「ようし、ジンギスカン屋さんへレッツ・ゴーだ！」
戦い終わって、生ラム食べて……
今日も今日とて和気藹々、幸せ一杯の宙マンファミリー。
だが、その一方、それではおさまらないのが……。
イフ「ぐぬぬぬ……またしても、またしても宙マンめが！
だが、怪獣軍団はあくまで地球を諦めない決意じゃ。
この次こそは……目にもの見せてやるぞ～っ！！」
そんなこんなで、続いてゆく日常。
だから、次回も……
また『宙マン』にて、お会いしましょう！
