平和でのどかな北海道千歳市。
7月の太陽に照らされて、名実ともに季節は夏といった感じである。
だが、そんなうららかな陽気と平穏の裏側で……
恐るべき悪の企みは、また密かに進行し、その牙を研いでいたのである。
果たしてそれは、北海道に暮らす人々に何をもたらすのであろうか?
と言ったところで、今回も千歳市ほんわか町の『宙マンハウス』から物語を始めよう。
「ええっ、妖怪ですって!?」
と、開幕早々に素っ頓狂な驚きの声をあげたのは……
毎度お馴染み、『宙マンハウス』の敏腕(自称)メイドこと落合さん。
落合さん「熊澤様、いくらなんでもそれはちょっと……ねぇ、お殿様?」
宙マン「(頷き)うん、ちょっと俄かには信じ難い話だね」
熊澤さん「いやいやいや、ホントだよ、嘘じゃないってば宙マンさん!
今、この近辺の釣り人の間じゃ、その話題で持ちきりなんだからっ。
……苫小牧の御神楽沼に、妖怪が棲んでるんだって!」
その苫小牧から太平洋に至る、道央圏・石狩低地帯の一角を「勇払原野」といい
ウトナイ湖をはじめ、そこに存在する大小の沼地や湿地帯などの自然環境は
1991年のラムサール条約に基づき、貴重な動植物たちの楽園となっていた。
ここで熊澤さんの話に上った「御神楽沼」も、そんな苫小牧の湖沼群のひとつ。
豊かな自然と美しい水に恵まれたこの沼は、近隣の釣り師たちにとっても貴重な
釣り趣味の「穴場」として、人気の高い場所だったのだが……。
ビーコン「……その御神楽沼に、妖怪が出たって言うんスか!」
熊澤さん「……だからぁ、何度も言ってるじゃないかビーコンちゃん!
昼と言わず夜と言わず、御神楽沼に近づくと……
何とも言えない、すっごく不気味な泣き声が聞こえてくるんだって!」
宙マン「ほほう……泣き声が」
熊澤さん「おかげでみんな気味悪がって、誰もあそこにゃ寄り付かないよ。
挙句の果てに“啜り泣き沼”なんて呼び出す奴も出てくる始末でさ……」
みくるん「(びくっ)す……啜り泣き沼ぁ!?
……ちょ、やだぁっ熊澤さん、おどかさないで下さいよぉ!」
ビーコン「ぬ、沼地に妖怪……
ベタだけど、確かに似合いの取り合わせっスねぇ~(汗)」
ピグモン「はわわ、ピグちゃん怖いの~」
落合さん「確かに怖いお話ですわね……それが本当であるならば」
落合さん「実際のところ、いかがですの? ながもん様」
ビーコン「御神楽沼の妖怪なんて、そんなことありえるんスかねぇ?」
ながもん「私たちも……御先祖の代から、ずっと……北海道に、住んでるけど……
そういう、話や……伝承は……まるっきり……初耳」
ビーコン「ってことは、誰かのイタズラか成りすましって可能性もあるんスかね?」
熊澤さん「そう、そこなんだよ、そこっ!」
熊澤さん「とにかくこのままじゃ気味悪くて、落ち着いて釣りもできやしない。
で、こういう時に一番頼りになるのは宙マンさんだからね~。
御近所のよしみってことで、ひとつ力を貸してもらいたいんだけど……」
宙マン「いや、頼りにして下さるのは嬉しいんですがね……
普段から言ってるように、私は現役引退した隠居の身ですからねぇ。
公的機関に通報するか、妖怪ポストに手紙を入れたほうが確実かと――」
熊澤さん「そうですか……いやぁー、残念だなぁ」
熊澤さん「御神楽沼ではヘラブナがよく釣れましてね、しかも滅法旨いときてる。
この件が一段落したら、是非とも宙マンさんにもご馳走したかったんですが
そうですか……やっぱりお門違いでしたか……。
仕方ありませんね、それじゃアドバイス通りにに他を当たって……」
「全てこの私にお任せ下さい、熊澤さん!!」
宙マン「他ならぬ熊澤さんの要請ならば、私も黙っているわけにはいきませんっ。
地域住民のひとりとして、不安要素は一日も早い解決を図りましょう!」
熊澤さん「有難う、宙マンさんならそう言ってくれると思いましたよ!」
宙マン「はっはっはっはっ、まァ見ていて下さい!」
ビーコン「(呆れて)……あ~あ」
純粋なる義侠心の賜物か、それとも「食い気」の餌にまんまと釣られたか。
恐らくはその両方であろう――と、ここは好意的に解釈しておくこととして。
かくて我らが宙マン一行、問題の「御神楽沼」までやって来たわけである。
ビーコン「う~ん、ここが問題の御神楽沼っスか」
宙マン「見たところ、特に際立った変化がある風には見えないけどねぇ」
落合さん「えぇ、確かに……。
妖怪どころか、ほっと心が落ち着くオアシスのようですわ」
宙マン「ああ、本当に自然が豊かで素晴らしい場所だねぇ」
ピグモン「はうはう~、とってもきれいなところなの~♪」
みくるん「ってことはぁ……
妖怪がいるなんて話も、噂の独り歩きだったってことですね。
あー、よかったぁ♪」
ながもん「幽霊の……正体見たり……枯れ尾花?」
宙マン「……ということらしいですよ、熊澤さん。
どうか安心して釣りを楽しんで欲しいと、お仲間にも伝えてあげて下さい」
熊澤さん「う~ん、やっぱりそういう事になるのかなぁ?」
だが――その時である!
「ぐすっ……ぐすっ……えぐっ……」
おお、何と言うことであろう?
我らが宙マンをはじめ、そこにいる誰もの耳に、湿地帯の水底から湧き上がるように
どこか不気味な陰湿さを帯びた、啜り泣きの声が確かに聞こえたではないか!
みくるん「(怯えて)きゃっ!?……こ、この声……泣き声……!?」
ながもん「おおっ……確かに……聞こえる」
熊澤さん「(震えて)ガクガクブルブル…… これこれ、この声!
ね、ねっねっ、ホントだったでしょ!?」
ビーコン「どひ~っ、気のせいどころかマジもんじゃないっスかぁ!(汗)」
落合さん「まさか……本物の、妖怪……!?」
ピグモン「きゃああんっ、そんなのイヤ~んなの、おっかないの~(涙目)」
宙マン「(キッパり)いいや……そんなはずはない!」
落合さん「……えっ?」
宙マン「聞け、ニセお化け!
お前が妖怪ではないことなど、私にはちゃんと判っている――
私の透視力は、沼の底に潜んでいるお前の姿をしっかり捉えているぞ」
宙マン「お前がどこの誰で、何故こんなことをするのかは知らん。
……だが、悪ふざけの時間はここで終わりだ。
観念して、大人しく出てくるがいい! 人騒がせな奴め!」
「カッパッパッパ……流石は宙マン、銀河連邦の元・英雄だ。
……やはり、お前の目はごまかせんか!」
宙マン「(ハッと身構え)!?」
ながもん「あっ……あれは……!」
みくるん「(表情がこわばり)ちょ、やだ……まさか……っ!」
宙マンの呼びかけに、不気味な声が応えた次の瞬間……
「御神楽沼」の水面が青白いスパークを放ち、ぶくぶくと激しく泡立ち始める。
そして激しい水しぶきをあげ、沼底からぬっと立ち上がった者とは!?
「クェックェックェッ……
カパーっ、カッパッパぁぁ~っ!」
ピグモン「はわわわ、河童が出てきたの~!」
ながもん「(無表情に)これは、あくまで……河童っぽい……怪獣」
みくるん「ふぇぇん、そっちはそっちで怖いですぅ~!(涙目)」
水しぶきをあげ、沼底から立ち上がる巨体。
怪獣軍団の一員、カッパ怪獣テペトが上陸してきたのだ!
宙マン「そのテペト君とやらが、こんなところで何をしている!」
テペト「知れたことよ、俺の使命は地球侵略……
そのためのエネルギーを、この御神楽沼で蓄えていたのさ」
落合さん「なるほど、だからそのパワー補給を邪魔されないために……」
ビーコン「妖怪のフリして、近づく者を追っ払ってたんスね!」
宙マン「だが、決してお前の思い通りにはさせないぞ!」
テペト「カッパッパ~、ひと足遅かったなぁ、宙マン!」
テペト「この御神楽沼の素晴らしい環境で、思い切り英気を養い……
今やこの俺の全身には、破壊と殺戮のパワーが満ち満ちているのさ。
どれ、ここらで一発それを証明してやるとするか!」
宙マン「いいや、そうはいかんぞ! 宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、猛る怪獣テペトの前に舞い降りる!
宙マン「トゥアーッ! 宙マン、参上!
カッパ怪獣テペト、あくまでやる気なら容赦はしないぞ!」
ズ、ズーンっ!!
テペト「カッパッパ~、愚問だぜ宙マン!
ここまで来ちまったら、俺もお前もやる事ぁひとつだ!」
宙マン「いいだろう……正義の力、思い知らせてやる!」
ファイティングポーズを取り、敢然と身構える宙マン。
さぁ、今日もまた、世紀のスーパーバトルの幕開けだ!
ビーコン「っひょ~! シビレるっスねぇ、この圧倒的安心感!」
落合さん「当然ですわ、何と言っても私どものお殿様ですもの!」
みくるん「頑張って下さい、宙マンさん!」
熊澤さん「うお~い、私らもついてるよ~っ!」
テペト「カッパッパ~、捻り潰してやる~っ!」
宙マン「させるか! 宙マン・ブリットフィンガー!」
宙マンの右手から連射される、正義の曳光弾!
だが、ブリットフィンガーの火力をものともせず、怒りのテペトは
宙マンめがけて一直線に突進をかけてくる。
真っ向激突、宙マン対テペト!
宇宙の水怪と正義の超人、ふたつの巨体が北の大地を揺さぶる。
両手の鍵爪をきらめかせ、連続パンチ攻撃をかけてくるテペト。
その猛ラッシュをかいくぐりながら、宙マンも果敢に反撃していく。
テペト「カ、カパパパっ!?」
宙マン「どうだっ、まだ参らないか――これなら、どうだ!?」
唸る鉄拳、そしてキック!
宙マンの連続アクションの前に、さしものテペトも後退する。
宙マン「今一度言う、大人しく暗黒星雲に帰れ!」
テペト「カッパッパ~、てやんでぇ、まだまだ!
くらえ! 俺の必殺技――Dクロス・レーザー!」
テペトの頭頂部の皿から放たれる、強力無比の破壊光線……
その名も恐るべき“Dクロス・レーザー”が、宙マンへと炸裂!
「う、うわぁぁぁぁ……っ!!」
みくるん「ああっ、宙マンさん!」
ビーコン「流石に、デカいクチ叩くだけのこと刃あるっスねぇ!」
落合さん「感心してどうするんです、ビーコンさんっ!」
ピグモン「はわわわ、宙マン、負けちゃいや~んなの~!」
イフ「おおっ! よしよし、素晴らしいぞテペト!
それでこそ、ワシらにとっての「期待される怪獣像」じゃ。
このまま一気に叩き潰せ、奴に反撃の隙を与えるな!」
宙マン「(苦悶)ううっ……うう……!」
テペト「カッパッパ~、もう少し勿体つけたかったところだが……
魔王様からのご命令とありゃ、いたしかたねぇやな」
テペト「悪く思うな宙マン、死んでもらうぜ!」
宙マン「なんの……やられて、たまるかッ!」
宙マン、パワー全開!
残された気力を振り絞り、Dクロス・レーザーを躱して宙に舞う。
テペト「(驚き)か、カパっ!?」
宙マン「くらえ! 宙マン・アタックビーム!!」
空中高くジャンプし、敵の頭上から撃ちこむ強力破壊光弾……
宙マン・アタックビームが、テペト頭頂部の「皿」を直撃!
宙マン「――どうだっ!」
テペト「(悶絶)か、カパぱっ、かぱぱぱぁぁ……っ……」
テペト「……く、悔しいけど、こりゃタマラ~ンっ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
みくるん「宙マンさん、どうもありがとうですぅ!」
ながもん「やっぱり、いろいろ……任せて……安心」
ピグモン「はうはう~、宙マンが勝ってよかったの~♪」
イフ「おのれぇぇ……またしても、またしても宙マンめが!
だが、いい気になっているのも今のうちだけだぞ……
次こそは必殺の怪獣包囲陣で、必ずやお前の息の根を止めてやる!」
……などと言う、怪獣魔王のいつもの負け惜しみはさて置いて。
我らが宙マンの活躍により、カッパ怪獣テペトは撃退され……
事件の落着に伴って、苫小牧市の御神楽沼も“啜り泣き沼”などという
不名誉な別名から解き放たれたのであった。
落合さん「お殿様、どうもお疲れ様でした!」
ながもん「幽霊の、正体見たり……やっぱり、怪獣軍団……だった」
ビーコン「でもそれも、アニキのおかげで見事解決っス」
みくるん「これでもう、安心していつでも御神楽沼へ遊びに行けますね」
ピグモン「沼地の動物さんたちも、きっとすごく喜んでるの~♪」
宙マン「ああ、だとしたら私も嬉しいねぇ」
熊澤さん「いやーもう、少なくとも釣り師はみんな大喜びだよ!」
熊澤さん「てなわけで……楽しみにしててよね、宙マンさん。
安心してまた、御神楽沼で釣りが出来るようになったことだし……
うんと大物のヘラブナ釣って、お刺身ご馳走してあげますからねっ!」
宙マン「おおっ! それそれ、その言葉を待っていたんですよ!
いやぁ、今からホントに楽しみだなぁ♪」
ながもん「おお、宙マン、よだれよだれ……じゅるりっ」
みくるん「(苦笑)……ながもんもだよ?」
ビーコン「やー、いいっスねぇ、ヘラブナ料理!
それじゃオイラも負けずに、料理の腕を奮うとするっスかねぇ!」
落合さん「あらビーコンさん、あなたお料理なんて出来ますの?」
ビーコン「ヒヒヒ、そりゃもう!
毎晩のエロゲとエロ同人誌で、イメージトレーニングは常に万全。
あとは落合さんのカラダで、実技の実践するだけ……」
げ し っ !
落合さん「ねーいっ! およしなさい、そんな下品な比喩っ!!(怒)」
ビーコン「どひ~っ、セクハラの道は限りなく険しいっスねぇぇ~」
宙マン「はっはっはっはっ」
平和と正義と笑顔の花……
ぱぁっと咲かせる、ご町内のヒーロー。
宙マン、次回も地域の安全を頼んだぞ!