今年ももう、残りあとわずか……
気が付いてみれば、あっという間に１２月も半ば近く。
だが、ひとまずそれはそれとして、地球に生きる人々はそれぞれに
それぞれの日常を、淡々と過ごしていたのであった――
毎度お馴染みの物語の舞台、北海道千歳市・ほんわか町５丁目の
「宙マンハウス」に暮らす面々も、勿論その例外ではない。
落合さん「さぁさぁ、皆様！
支度が整いましたわよ、そろそろお昼ごはんに致しましょう！」
ピグモン「はうはう～、ホルモン焼きなの～！」
ビーコン「安くて美味くてガッツリ力つく、まさに庶民の味方っスね！」
みくるん「下処理も丁寧ですし、それにこの味噌ダレ……」
ながもん「もしや、これは……「東京」さん……風……？」
落合さん「ふふっ、流石はながもん様、お目が高うございますこと！」
落合さん「御推察通り、今回のこのホルモン焼きは、由仁町において
押しも押されぬ名店と知られるあのお店、「東京ホルモン」さんならではの
独特の焼き方と調理法を……」
ビーコン「ヒヒヒ、まんまとパクったわけっスね！」
落合さん「そうそう、首尾よくパク……って、ちょっ、ビーコンさんっ！
人聞きが悪いですから、せめて”リスペクト”と仰って下さいな！」
ビーコン「経緯はさておき、あの店の味準拠なら間違いなしっスよね。
おおう、食べる前から涎がでてきちまうっス！」
落合さん「ビーコンさん、くれぐれもお行儀よく……ですわよ！？」
ピグモン「はう～、でもピグちゃんも、ビーコンちゃんの気持ちわかるの～」
落合さん「（にっこり頷き）さぁさぁ、お喋りはそのくらいにして……
焼けたてアツアツのところを、みんなで頂いちゃいましょう！」
みくるん「わぁ、美味しそう、喉から手が出ちゃうそうですぅ！」
ながもん「宙マンも、早く……来れば、いいのに」
ピグモン「はう～、そういえば宙マン、どうしたの～？」
落合さん「お殿様は、ご用事があって出かけておられますけど……
ふふ、すぐに戻ってらっしゃることでしょう♪」
と、言うわけで。
落合さんたちがランチタイムの間、我らが宙マンは外出中。
では、その時、宙マンが何をしていたのかと言うと……
実はこの時、彼は抜き差しならない緊急事態の真っただ中にあった！
ゴゴゴゴ……グラグラグラグラッ！
大地を引き裂き、地中から勢いよく噴き出す煙。
緑色の毒々しい瘴気の中から、その姿を現した者とは！？
「デュフフフ……ブハハハ……っ！」
くわっ！
「それ」の巨大な一つ目が、異様なフラッシュを放つのと同時に……
たちまち、周囲に巻き起こる大爆発の渦！
アクマニヤ星人「デュフフフ……驚け、騒げ、地球人ども！
全宇宙を奮えあがらせた、由緒ある宇宙悪霊の末裔……
このアクマニヤ星人の力で、地球は怪獣軍団の物となるのだ！」
宙マン「なんの、そうはいくものか！」
ファイティングポーズとともに、敢然と身構える宙マン――
さぁ、今日も世紀のビッグファイト開幕だ！
イフ「やれ、徹底的にやるのだ、アクマニヤ星人！
宙マンさえ倒せば、地球はワシら怪獣軍団の物だ――
宇宙悪霊の実力で、奴めに目のにもの見せてやれ！」
アクマニヤ星人「デュフフフ、お任せ下され、魔王様！」
宙マン「行くぞ、アクマニヤ星人！」
アクマニヤ星人「ぶはははは～、捻り潰してくれるわッ！」
真っ向激突、宙マン対アクマニヤ星人！
巨大サイズの戦いが、千歳の大地を揺さぶるその間――
ビーコン「うひ～、腹減った、もうたまんねぇっスよ！」
ビーコン「ほらほら、落合さん、早く早くっス！」
落合さん「（苦笑）あらあらまぁまぁ、ビーコンさんったら。
慌てなくっても、ホルモン焼きは逃げたりしませんから！」
ピグモン「はうはう～、いただきま～す、なの～！」
落合さん「ふふ、たっぷりと召し上がれ♪」
みくるん「やっぱりねぇ、この味噌ダレがいいんですよねぇ」
ながもん「甘さ……しょっぱさ……酸味に、コク……
全ての、バランスが……絶に、して……妙（もぐもぐ）」
落合さん「そして、こちらのホルモンは……」
ビーコン「何たって、締めの麺が堪んないっスよねぇ～！
……あ、ちなみに落合さん、麺の方のスタンバイは……」
落合さん「（ニヤリ）ビーコンさん、私を誰だと思ってますの？
……抜かりはございませんわ、ほーらっ！」
ビーコン「どひ～っ、出たぁ！！ どうぞお助けっス～☆」
ながもん「内臓と……野菜と、タレ……」
みくるん「全部の旨味をツユごと吸い取って、鉄板の上でふやける
この頃合いが丁度、美味しすぎて橋が止まりませんよねぇ～♪」
ビーコン「いやぁ～、コレ、マジでいいっスね落合さん！」
落合さん「えぇ、私としても大いに手ごたえありましたし……
本メニュー、我が家の定番入り決定ですわね！」
ピグモン「はうはう～、ピグちゃんも異議なしなの～☆」
……と、「宙マンハウス」が楽しく盛り上がっているその頃。
「宙マンハウス」の世帯主たる超人はと言えば、アクマニヤ手に
思いのほかの苦戦を強いられていたのであった。
アクマニヤ星人「ぶははは、口ほどにもないのぉ、宙マン！？」
宙マン「なんの、だったらこれはどうだ！」
ジャンプ一閃、空中からキックを繰り出そうと試みたが……
そんな宙マンめがけて、アクマニヤ星人の巨眼から魔閃光！
「う、うわぁぁぁぁ……っ！」
直撃を受けてバランスを崩し、墜落した宙マンめがけて……
更に一片の容赦もない追い打ちが叩きこまれていく。
これぞ宇宙悪霊の持つサイコパワー、アクマニヤ妖力波！
その波動をまともに浴び、苦しみ悶えるより術のない宙マンである。
「デュフフフ……ブハハハ……っ！」
必死にもがく宙マンだが、文字通りの「魔手」から逃れる術はない。
その巨体が軽々と空中に持ち上げられ、翻弄される！
金縛りのまま翻弄された挙句、勢いよく地上に叩きつけられる宙マン。
その体に受けたダメージの大きさたるや、もはや想像もつかぬほど――
ああ、我らのヒーローも、今度ばかりはこれまでか！？
ながもん「おおっ……ナンタルチヤ……！」
帰りの遅い宙マンを、ながもんが呼びに来てみれば。
……我らがヒーローは、ご覧の通りの酷い有様なのであった。
いつものポーカーフェイスのまま、すたすたと……
倒れ伏して動かない宙マンの前に、一人歩み寄っていくながもん。
ながもん「宙マン……聞こえる？
聞こえているなら……そのままで……聞いて」
ながもん「あなたが、ここでやられても……私は、責めない。
でも、もう一度……立ち上がって、くれるなら……
それは、なるべく……早い……ほうがいい」
ながもん「そうでないと、私たちは……あなたの、分まで……
ホルモン焼き、全部……食べて……しまうから！」
どこか、見当はずれのようにも思えるこの言葉だが……
倒れ伏した宙マンに対して、思いがけないほどの効果をもたらした！
宙マン「（わなわなと）……な、何っ……！？
私抜きで、美味しいものを食べつくしてしまおうだなんて！」
宙マン「そんな……そんなの……
あまりにも、薄情じゃないか～っ！！」
おお、見よ！
持ち前の食い意地が、魂の奥底に眠る闘志にも再び火をつけて……
全身の気力をふりしぼり、再びすっくと立ち上がる宙マンの雄姿！
アクマニヤ星人「えぇいっ……ナメておるのか、宙マンめ！？」
宙マン「問答無用だ、これでもくらえ！」
宙マンの胸から周囲に迸る、太陽光のごときまばゆい閃光！
生命と正義を象徴するその輝きに、宇宙悪霊の目がくらむ。
アクマニヤ星人「（苦悶）ぐ、グモモモ……っ！」
宙マン「よし、今だ！」
宇宙悪霊が怯んだ隙に、すかさずスーパー剣を抜き放つ宙マン。
刀身にエネルギーを集中させ、一気に叩きこむ技の名は――
「とどめだ――秘剣・スーパー大波崩し！！」
ズバァァッ！
スーパー剣の刀身にエネルギーを集中させ……
怒涛のような突進の勢いに乗り、斜め一文字にひるがえる光の刃！
宙マンの「大波崩し」が、アクマニヤ星人を見事に切り払った。
アクマニヤ星人「ぎょえぇぇ……な、なんたる屈辱ぅぅ～っ！？」
やったぞ宙マン、大勝利！
イフ「おのれおのれ、またしても……宙マンめ、よくも！
だが、覚えておれよ、この借りはきっと返してやるぞ。
今度こそ、次こそは必ず息の根を止めてやる！」
……などと言う、怪獣魔王のいつもの負け惜しみはさて置いて。
宇宙回帰悪霊アクマニヤの猛攻を、正義の気合と食い意地とで退け
ながもん共々、大慌てで家に戻った宙マンであった。
落合さん「あら、お帰りなさいませ、お殿様！」
ピグモン「はうはう～、ながもんちゃんもご苦労様なの～」
ながもん「宙マンの、用事も……無事、片付いた」
宙マン「そうそう、そんなわけでね、落合さん。
新メニューのホルモン焼き、私にひとつ頂かせてもらいたいな！」
落合さん「あぁ、それでしたら、お殿様……」
ビーコン「今さっき、みんなで完食しちまったっスよ～☆」
宙マン「（愕然）……な、何だってぇ！？」
宙マン「あぁ、それが楽しみで……
怪獣退治も、一気に片付けて来たって言うのに！
そんな殺生な……そりゃ、ないんじゃないかなぁ……！？」
みくるん「ああ……宙マンさん、そんなに落ちこまなくっても……（汗）」
宙マン「これが……これが落ち込まずにいられるかね！？」
ビーコン「（苦笑しつつ）まぁまぁ、アニキ……
ハナシは最後まで、しっかり聞いてくんなきゃ困るっス」
落合さん「えぇ、そうですとも。……
お殿様の分のグラタンは、改めて今、焼いている最中ですわ」
ピグモン「ホルモンは、焼けたてのアツアツが一番おいしいの～」
宙マン「（安堵）おお……そうか、そうだったのかぁ！」
ピグモン「はうはう～、宙マンは食いしんぼさんなの～」
宙マン「（照れ臭そうに）……たっはっはっはっ♪」
毎日の美味しい食事と、仲間たちの笑顔……
現役を引退して久しい宙マンが、今なおヒーローとして戦い続ける
唯一無二の理由が、そこには確かにあった。
そんな宙マンは、次回も勿論大活躍。
みんな、バッチリ応援してくれよ、ナッ！
