徐々に、徐々にではあるものの……
積もった雪もじんわり溶けてきて、新たな季節のかすかな足音が
確実に近づいてきている北海道。
北国の春は、もうすぐそこである――
と言う前提のもと、今日もまた『宙マン』の物語を始めよう。
みくるん「ごめん下さい、いらっしゃいますかぁ~?」
ながもん「(ボソッと)……こんにちは」
宙マン「やぁやぁ、いらっしゃい、こんにちは!」
ビーコン「いえっふ~、いらっしゃい、ようこそっス!」
落合さん「ここ数日は、本当に良い日和が続いておりまして……」
ながもん「雪解けも……一気に、進んで……」
みくるん「本当に、春はもうすぐそこって感じですよねぇ」
ビーコン「なんだかんだで、気持ちがウキウキしてくるっスねぇ。
家の中に閉じこもってねーで、パーッと気分転換を!」
ピグモン「はうはう~、お出かけ嬉しいの~、大賛成なの~」
宙マン「そうなると、出先の美味しいものにも期待大だねぇ。
いやね、揚げ物に定評のある例の定食屋さん……
あそこが最近、新メニューを始めたって言うんだよ」
ながもん「おお……早くも、評判……アナゴフライ、定食」
宙マン「(頷き)流石だねぇ、やっぱり知ってたか!」
みくるん「夏場のかばやき、ってイメージが強いんですけど……
洋風のフライやソースがよく合うんですよね、アナゴって!」
宙マン「いやぁ、話を聞いてるだけで腹が減ってくるねぇ!
よし、今日のお昼はそれで決まりだな!」
ビーコン「……ん~。
“決まりだな”はいいんスけどね、アニキ?」
落合さん「あら、お殿様の決定に何か不服でも?」
ビーコン「や、別に不服ってわけじゃないんスけどね。
あちこち飯食いに行くってなァ、せっかく春になったってのに
あまりにも変わり映えしないかなー、って……」
宙マン「(頭かきかき)たっはっはっはっ、確かにねぇ!」
宙マン「でもね、私はこうも思いたいんだよね。
何にも代わり映えのない日常と、そんな中での営みこそが
真の意味での得難い宝物なんじゃないかな、って」
みくるん「えぇ、その通りですよね、宙マンさん!」
落合さん「あぁ、何て説得力、流石はお殿様です♪」
ピグモン「はうはう~、ピグちゃんも大賛成なの~♪」
「ギシャシャシャシャ……
素晴らしいよねェ、変わりなき日常!」
みくるん「(表情がこわばり)……へっ!?」
ながもん「おお……声はすれども……姿は、見えず」
ピグモン「えう~、何か生臭いニオイもしてきたの~」
ビーコン「ちょ、落合さん、この流れ……」
落合さん「変わりなき日常ってことで、こうですと……」
ビーコン「またまた、いつも通りに……っスか~!?(汗)」
「ギシャシャシャシャ、その通りっ!」
ゴゴゴゴ……グラグラグラグラっ!
落合さん「あ、あらあらあらっ!?」
ビーコン「うわ、うわ、うわ~っス!(汗)」
大地が揺れ、めきめきと音を立てて道路が割れ裂ける。
そして、巨大な水の柱を立ち上げて……
濛々たる蒸気の中から、姿を現わした異形の巨体とは!?
「ギシャシャぁぁ~っ!!」
みくるん「ああっ! やっぱりです、やっぱりぃ!(涙目)」
ピグモン「はわわ、おっきなお魚みたいなの~!」
ながもん「あれは、ボーズ星人……宇宙の、半魚人」
怪獣軍団の一員、見るからに不気味な半魚人・ボーズ星人。
今、千歳のど真ん中に、大胆不敵の殴りこみだ!
宙マン「……全く、迷惑な話だよ!」
ボーズ星人「ギシャシャシャ、まァそう言うなって!
変わりない日常こそ宝、お前ら自身がそう言ったばかりだろ?
だから俺らも変わりなく、普段通りにやってやるぜィ!」
ビーコン「どひ~っ、居直りやがったっス!」
落合さん「(呆れて)……最低最悪ですわねっ!」
イフ「わはは! それでよい、それでよいのだボーズ星人!
お前の成さねばならぬ事は、ただひとつ――
地球侵略の大使命、今こそ見事に果たすのだ!」
ボーズ星人「ギシャシャ~、お任せ下さい、魔王様!」
怪獣魔王の命を受け、猛然と進撃開始するボーズ星人!
迫り来る巨体を前に、悲鳴をあげて逃げ惑う千歳の人々である。
ビーコン「どひ~っ、結局今度もこうなっちまうっスか!?」
落合さん「何度体験しても、慣れたくない流れですわねぇ!」
みくるん「ふぇぇん、ボヤいてる場合じゃないですよ~!」
おお、僕らの街……北海道千歳市が、またまた大変だ!
だが、そんなボーズ星人の暴虐を阻まんものと……
ビーコン「おおっ、今日も今日とて防衛隊のお歴々っス!」
落合さん「毎度のお仕事ぶり、本当に頭が下がりますっ。
(ボソッと)……後はもう少し、成果を上げていただければ……」
ピグモン「はうはう~、おじさんたち、ファイトなの~!」
「ようし……怪獣めがけて、攻撃開始っ!」
戦闘機隊、ボーズ星人めがけて一斉攻撃を開始!
無数のロケット弾が、凄まじい勢いで叩きこまれるが……
星人は傷つくどころか、怯む様子さえも見せない。
ボーズ星人「ギシャ~、怪獣じゃなくて「星人」だ! 忘れんなッ!」
「ど、どわぁぁぁ~っ!?」
ボーズ星人の鞭が唸りを上げる!
その打撃にかかっては、戦闘機などひとたまりもない。
みくるん「ああっ、やられちゃったですぅ!」
ながもん「これも、また……日常?」
みくるん「あぁんっ、それはもういいからっ!(汗)」
……などと、言ってる間にも。
右手の鞭を縦横に奮い、大暴れするボーズ星人!
今や千歳の運命は、風前の灯と言ってよかった。
ボーズ星人「ギシャシャ、ど~んなもんだィッ!」
落合さん「いけませんわ……この状況は、かなり!」
ビーコン「どひ~っ、このままじゃマジで千歳がおしまいっス!」
ピグモン「はわわ……宙マン、宙マン、なんとかしてなの~」
宙マン「(頷き)おのれ、もう許さんぞ! 宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、ボーズ星人めがけて躍りかかる!
宙マン「トゥアーッ! 宙マン、参上!
ボーズ星人、これ以上の乱暴狼藉は見過ごせないぞ!」
ボーズ星人「ぐ、ぐはぁぁっ!?」
先制攻撃、空中からのミラクル・キック!
星人がぶっ倒れたところへ、宙マンが着地を決めた。
ズ、ズーンっ!!
ビーコン「いえっふ~、頼んだっスよアニキぃ~!!」
落合さん「今日も今日とて、お殿様だけが頼りです!」
ピグモン「はうはう~、宙マン、がんばってなの~!」
ボーズ星人「……や、野郎っ、よくもやってくれたな!」
宙マン「怖気づいたなら、いつでも帰ってくれていいんだよ?
……そのつもりもなさそうだから、毎度私も面倒なんだけどね!」
ファイティングポーズとともに、敢然と身構える宙マン――
さぁ、今日もまた、世紀のスーパーバトル開幕だ!
ボーズ星人「ギシャシャ~っ、誰が怖気づくか!
宙マン、その軽口を一生後悔させてやるぜ!」
宙マン「さぁ来い、とことん相手になってやる!」
真っ向激突、宙マン対ボーズ星人!
落合さんたちが見守る中、両者の攻防戦が火花を散らす。
太く、強靭な右腕のムチ。
生まれながらの凶器で、猛然と殴りかかってくるボーズ星人!
だが、そこは宙マンもさるもの……
その軌道を冷静にかいくぐりながら、果敢に接近戦を挑む。
宙マン「そぉれっ、隙ありだ!」
宙マンの繰り出すストレート・キック!
その一撃が炸裂すれば、ボーズ星人も怯まざるを得ない。
ながもん「(頷いて)……お見事っ」
みくるん「もうこうなったら、宙マンさんのペースですよね!」
落合さん「頑張って下さいませ、お殿様!」
ビーコン「いえっふ~、アニキ! 勝利は目の前っスよ!」
ボーズ星人「ギシャシャシャ……甘く見るなよ、宙マン!」
びゅうんっ!
風を切って繰り出されるボーズ鞭の一閃!
宙マンめがけて、容赦なく叩きつけられる。
ボーズ星人「それっ、もういっちょう!」
よろめいた宙マンめがけて、更に容赦のない一撃。
これぞボーズ星人の得意技、縦横無尽に繰り出される怒濤の鞭さばき――
かつてウルトラマンレオをも大いに手こずらせた、変幻自在の攻撃だ!
宙マン「う、うわぁぁぁぁ……ッ!」
ズ、ズーンっ!
みくるん「ああっ、宙マンさんが!」
ビーコン「ああ、そうだったっス……
あの宇宙人は、あの鞭さばきが曲者なんスよねぇ!」
ながもん「あれを、何度も受けたら……さすがに、まずい」
ピグモン「はわわ、宙マン、負けちゃいや~んなの~!」
落合さん「大丈夫。……お殿様は、負けはしません!」
宙マン「(苦悶)うう……うっ……!」
ボーズ星人「ギシャシャシャ、くたばれ宙マン!」
「なんの、負けて……たまるかっ!
エイヤァァーッ! 宙マン・ショット!」
起死回生の一撃、気合と共に放つ不可視の衝撃波!
宙マン・ショットを喰らい、半魚人の動きが鈍ったところへ――
宙マン「せいやぁぁーっ!
宙マン・バーニング・パンチ!!」
エネルギーを集中させ、真っ赤に燃え上がった右の拳で繰り出す必殺パンチ!
そのあまりの破壊力ゆえに、炸裂した熱い鉄拳にこめられた膨大なエネルギーが
星人のボディを一気に貫通、火花となって背に抜けるほど。
ボーズ星人「ギシャシャシャぁぁ~、アラやだ全く……
またまた今度も、こうなっちゃうのねぇぇ~っ!」
火花を散らして崩れ落ち、吹っ飛ぶボーズ星人の巨体。
やったぞ宙マン、大勝利!
ピグモン「はうはう~、やったのやったの、宙マンの勝ちなの~!」
みくるん「よかったです、これでまた平和な千歳の街ですぅ!」
ながもん「さすが、宙マン……まかせて、安心」
ビーコン「やんややんや! アニキ~、サイコーっスよ~!」
イフ「うぬぬ、ぐぐぐぐっ……宙マンめ、よくもやってくれたな!
だが今に見ておれよ、必ず吠え面かかせてやるわ!
怪獣軍団には、まだまだ強豪が控えておるからの……!」
……などと言う、毎度毎度の負け惜しみはさておいて。
かくして宙マンの活躍によって、恐怖の半魚人・ボーズ星人は倒され
怪獣軍団の野望は、またも見事に出鼻を挫かれたのであった。
みくるん「宙マンさん、お疲れ様でしたぁ!」
ながもん「(ボソッと)今日も、また一段と…………グッジョヴ」
ピグモン「はうはう~、やっぱり宙マンに任せておけば安心なの~♪」
宙マン「や~、お待たせ、お待たせ!
怪獣退治も済んだことだし、それじゃ改めて……」
落合さん「(頷き)アナゴフライ定食、食べに参りましょう!」
ビーコン「ヒヒヒ、そして食後のデザートよりも甘いキス……
オイラとの蜜月が待ってるっスよ~、落合さん!
そう、それもまたオイラたちの変わりなき日常……」
げ し っ !
落合さん「ねーい、全く、このエロ怪獣っ!!(怒)」
ビーコン「どひ~っ、いつもの定番オチ、ごっつぁんっスぅぅ~」
宙マン「はっはっはっはっ」
浮世の春より、ひと足早く……
すこぶるホットな、宙マンファミリー。
さて、次回はどんな活躍を見せてくれるかな?