街を吹き抜けていく空っ風の冷たさが、ひときわ身に染みわたる……
気が付いてみればもう、今年・2023年も残りあとわずか。
そんな中でも人々の営みは、ややせわしなくも淡々と続けられており
世はすべて、こともなし……と、行きたいところだが、なかなかそう上手く
平穏のうちに物事は運ばない、と言うのが本シリーズの辛いトコロ。
ほらほら、ちょっと耳を澄ませてみれば……
貴方にも聞こえてくるはずだ、この甲高くも切実な少女の声が!
「ふぇぇん……宙マンさん、宙マンさ~んっ!」
宙マン「やぁやぁ、みくるんちゃんにながもんちゃん!」
落合さん「いつもピグモンちゃんと仲良くして下さって、有難うございます♪」
落合さん「それにしても、今日はお早いお帰りでしたのね?」
ビーコン「無理ないっスよ~、落合さん。
この12月の寒さじゃ、いつまでも外にゃいられねっス!」
落合さん「なるほど、確かにビーコンさんの仰る通りですわ。
それでは何か体が温まる、美味しいおやつをご用意いたしましょうか」
みくるん「あ、ハイ、そのお心遣いは有難いんですけどぉ……」
ながもん「まず、その前に……伝えたい、ことが」
宙マン「ん、何かあったのかね?」
ながもん「……(こくこくっと頷き)」
みくるん「ええっと、話せば長いんですけどぉ……」
落合さん「……えっ?」
ビーコン「怪事件勃発、たぁ穏やかじゃないっスね~」
みくるん「だから私たち、宙マンさんにご相談に来たんですぅ」
宙マン「ふむ……詳しく聞かせてもらえるかな?」
てなわけで、仲良しトリオの証言に曰く――
この日みくるん・ながもん・ピグモンは、ちょっとした散策がてら
冬枯れの山中へ足を踏み入れていたのだが、その寒々しい光景の中に
彼女らは「見た」のだと言う――
ピグモン「はわわわ、そうなの、ピグちゃんたち確かに見たの!」
みくるん「(頷き)鬼火って言うか、人魂って言いますかぁ……」
ながもん「緑色の、炎が……山の、中に……ゆ~らゆら」
ピグモン「なの~!」
落合さん「そんな、この真冬に鬼火か人魂だなんて……」
ビーコン「怪談ネタだとしても、ちょっと季節外れじゃないっスかねぇ」
みくるん「確かに信じられないと思いますけど、でも……」
ピグモン「信じてくれたら、ピグちゃんすっごくうれしいの~」
ながもん「……(こくこくっと頷き)」
落合さん「……お殿様はどう思われます?」
宙マン「(思案顔で)色んな意味で……きな臭い案件だね、こりゃあ」
にわかには信じがたい、真冬の山での鬼火騒動。
だが、読者諸氏よ、結論から言おう。
みくるんたちの証言は、完全なる事実であったのだ――
そして例によってまた、これにも怪獣軍団が一枚噛んでいたのだ。
千歳の山の中、にわかにその濃度を増してきた「危険な気配」とともに
今、その姿を現したのは!?
「あぎゃぎゃぎゃぁぁ~んっ!!」
千歳の原生林を、我が物顔で歩き回る異形。
怪獣軍団の送り込んだ新たな使者、燐光怪獣グラナダスだ!
イフ「よいかグラナダスよ、千歳の山には誰一人として近づけてはならんぞ。
ワシら怪獣軍団が幾度となく夢見、そして果たせずにきた悲願……」
イフ「そう、ワシら怪獣軍団の前線基地建設だ!」
グラナダス「あぎゃぎゃぎゃ、お任せ下さいダス、魔王様!」
イフ「改めて念を押すまでもないが……
この計画は誰にも気取られず、秘密裡に進められなければならん。
承知しておるな、グラナダス?」
グラナダス「もっちのろんダスよぉ!」
グラナダス「前線基地の完成まで、誰一人として山には近づけないようにする。
そりゃもう抜かりなしダスよぉ!」
イフ「うむうむっ、頼もしいことよ!」
グラナダス「ついさっきも、ちびっこ二人を鬼火で脅かしてやったところダス。
この調子で噂が広がれば、千歳の山には誰も寄りつかなくなって……」
スライ「だーっ!! いけませんいけません、逆効果ですっ!」
スライ「鬼火騒ぎだの、お化け騒ぎだの……
そんな目立つことをやらかせば、我々が山の中で怪しいことをしている、と
却って大声で宣伝してるようなものですからしてっ!」
グラナダス「げげーっ、そうだったんダスかぁ!?」
グラナダス「で、でも、あれダスよね?
別に今からでも軌道修正すれば、作戦は滞りなく順調に……」
「はっはっはっはっ……
残念ながら、気付くのが遅かったねぇ!」
高らかな声とともに、大空から舞い降りて来る雄姿。
それは勿論ご町内のヒーロー、我らが宙マン・その人だ!
グラナダス「げげぇっ、貴様は宙マン……ダスか!?」
宙マン「ああ、その通りだとも、宙マン参上ダス!
……っと、いけないいけない、伝染っちゃった(赤面)」
スライ「だーっ、もう! 全くもう、グラナダス君はほんとにもう!
だ~からですよっ、だから言わないことじゃない!(汗)」
イフ「うぬぬっ、宙マンめが……毎度毎度、出しゃばりおってからに!
……こうなったらグラナダスよ、戦え!
戦って宙マンに勝ち、この失態を帳消しにしてみせろ!」
グラナダス「ム~ん、それ以外の選択肢はなさそうダスねぇ!」
宙マン「山の恵みはみんなのものだ。
その山を荒らす前線基地建設など、断じて許してはおけん!」
グラナダス「仕事の邪魔をする気なら、オラも黙っちゃいないダス!」
宙マン「やむを得ん……勝負だ!」
ファイティングポーズで、グラナダスに対し敢然と身構える宙マン。
さぁ、今日もまた、スーパーバトルの幕開けだ!
じりじりと、相手の出方を伺いながら距離を詰め……
そして両雄、ついに相打つ!
両手の爪を打ち振り、宙マンめがけて殴りかかってくるグラナダス。
宙マンもまた、パンチ攻撃によってこれを真っ向から受けて立つ。
グラナダス「どうだ、コンニャロ、これでもダスか!?」
宙マン「なんの!」
殴ったら殴り返す、気合と体力に物を言わせた拳の応酬。
そんな激しい死闘の中、宙マンの鉄拳が遂にグラナダスの頬を捉えた。
赤い閃光とともに、勢いよく炸裂するストレート・パンチ!
まともに受けて、強靭無比な燐光怪獣も大きく後退させられる。
宙マン「どうだ、参ったか!?」
グラナダス「あぎゃぎゃ! 誰が参るか、これでもくらえダス!」
グラナダスの口から、断続的に吐き出される火炎弾!
凄まじい爆発と衝撃が、宙マンの体を大きくよろめかす。
「う、うわぁぁぁぁ……っ!!」
この機を逃さず、更に畳み掛けていくグラナダス。
鋭く大きな爪の一撃が、宙マンのスーパーボディを捉えた!
度重なる連続攻撃に、さしもの宙マンも足元がふらつき……
そのままドドーッと地面に倒れこんでしまった。
宙マン「(苦悶)……う……うう……っ!」
グラナダス「あぎゃぎゃぎゃ、ザマァないダスね宙マン!
……さぁ、今度と言う今度こそ、これで終わりにしてやるダス!」
勝利を確信し、ゆっくりと迫り来るグラナダス。
だが、宙マンはその瞬間を待っていた――
グラナダスの油断の隙をついて、宙マンの超能力が今、炸裂する!
「怒れ稲妻! 宙マン・ボルトサンダー!」
ピカッ、ゴロゴロドドーンっ!
宙マンの気合とともに、空が一転して黒雲に覆われ……
一条の稲妻がグラナダスを直撃、その全身にダメージを与えた!
グラナダス「(悶絶)あ、あびゃびゃびゃびゃっ……!?」
宙マン「よし、今だ!」
宙マン「エイヤぁぁぁーっ!
宙マン・ミラクル・キック!」
出た、電光石火の必殺キック!
グラナダスが蹴り倒され、ごろりと倒れこんだところへ――
宙マン「どりゃあーっ! 宙マン・ショット!!」
気合とともに、不可視の破壊衝撃波を放つ宙マン!
腹部に炸裂したその一閃が、グラナダスへの決定打となった。
グラナダス「あぎゃぎゃぎゃっ、こ、こりゃたまらんダス~っ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
みくるん「わぁっ、やりましたぁ、宙マンさんの勝ちですぅ!」
ビーコン「いえっふ~、さっすがアニキ、そうこなくっちゃっス!」
落合さん「お見事でしたわ、お殿様!」
ピグモン「はうはう~、宙マン、かっこよかったの~♪」
ながもん「……グッジョヴ」
イフ「お、おのれおのれっ、宙マンめ……
またしても、ワシらの夢を砕いてくれおってからに!
今に見ておれ宙マン、次こそ目にもの見せてくれるわ……!」
……などと言う、怪獣魔王のいつもの負け惜しみはさて置いて。
かくして宙マンの活躍により、燐光怪獣グラナダスは撃退され……
千歳の山は、再び冬ならではの静寂を取り戻したのであった。
落合さん「どうもお疲れさまでした、お殿様!」
ビーコン「これで、千歳の山もやれやれっスね!」
ピグモン「はうはう~、ピグちゃんたちも安心なの~♪」
宙マン「はっはっはっはっ、これにて一件落着だね!」
宙マン「それにしても、流石に12月だけあって風が冷たいねぇ。
さぁ、そろそろ家に帰ってあったまろうか!」
みくるん「(笑顔で)はいですぅ!」
落合さん「それでは、温かいおやつと飲み物も用意致しませんとね」
ながもん「(ボソッと)……おぉ、想像しただけで……ジュルリッ」
宙マン「はっはっはっはっ」
今日もほんとに有難う、宙マン!
さて、次回はどんな活躍を見せてくれるかな?