全宇宙の怪獣たちの中でも、屈指の名門として名を馳せる強豪……
宇宙恐竜・ゼットンの一族。
無敵の強さを誇るM78星雲の宇宙警備隊員、通称「ウルトラマン」を
初めて打ち破ってみせたことによって、一躍怪獣界での勇名を轟かせた
ゼットン一族の強さ……パワーと超能力とをバランスよく、ハイレベルで
共存させた華麗な戦いぶりは、全宇宙の様々な悪の勢力から高く評価され
幾度となく宇宙に恐怖と破壊を振りまいてきたのである。
そして、そんなゼットンの戦いの歴史の中には……
本シリーズの主人公、元「銀河連邦」の英雄たるプラネット星の戦士、
ご存じ宙マンとの戦いも含まれていることは言うまでもないだろう。
と言う前置きとともに、幕を開ける『宙マン』のお話。
今回はここ、暗黒星雲の奥深くにある怪獣軍団の本拠地、その大広間で
しみじみと回想に浸っている怪獣魔王・イフの様子から物語を始めよう。
イフ「おお! そうとも、そうだとも――」
イフ「あの宙マンと互角以上に渡り合い、奴めを追い詰めてみせた
お前の素晴らしくも洗練された戦いぶり、ワシは今でもはっきりと
鮮明に思い出すことが出来るぞ、ゼットンよ」
イフ「真っ向からぶつかり合って動じず、超能力の応酬で退かず、
宙マン得意の必殺光線にも怯まない不敵な戦いぶり。
お前こそ正に、輪が怪獣軍団の鑑と言ってよいだろう!」
イフ「そんなお前の実力が、今こそ必要とされる時なのだ。
にっくき宙マンを倒し、ワシら怪獣軍団が地球を征服するそのために!」
イフ「怪獣の中の怪獣、比類なき勇者、宇宙恐竜ゼットンよ!
今こそ来たれ、我が前に!」
「参じましたよ、魔王様っ!」
ゼットン「過分なお言葉を賜り、恐悦至極に存じますッ。
数多ある怪獣たちの中でも屈指の名門、宇宙最強と謳われた
誇り高き宇宙恐竜・ゼットン一族のひとりである私にかかればですな、
我が軍団の悲願たる地球征服などはいともたやすく……」
ゼットン「……っと、もしも~し? どうかなさいましたかぁ、魔王様?」
イフ「(悶絶)う、うぐぐぐぐっ……!」
こんな感じで、怪獣魔王が思わずズッコケたのも無理はない。
そもそも、読者諸氏も既にご承知の通り……
宇宙恐竜ゼットンは、かの初代ウルトラマンを倒した名門一族の出身という
華麗なる出自に加えて、怪獣名士の名に見合うだけの様々な超能力をも備え
かつ美しく締まったプロポーションが売りの伊達男だったのだが、そんな彼が
何をどう間違ったものか、かつてのスマートさは見る影もなく消え失せて
まるまる太った肥満体怪獣になっていたのだから。
ゼットン「ホ~ントに、冬場の「脂」は食欲を煽りますよねぇ!
おかげさまで毎日、白いご飯が進むこと、進むこと――
不肖ゼットン、秋ならぬ“食欲の冬”を現在進行形で満喫中でっす!」
イフ「(わなわな)……で、食い道楽の挙句がその体型。
もっちもちのポヨンポヨン、というわけか」
ゼットン「……あ、魔王様、出撃のご命令なら慎んで賜りますが……
ちょ~ッとその前に、少しご猶予を頂ければ嬉しく思いますねっ。
なんせこれから、ピザと焼肉と中華をはしごする予定でして……」
……ぷ ち っ !
「……ええい、この大馬鹿者めが~っ!!」
イフ「運動もせず食ってばかりいるから、そんなだらしない体になるのだ!
ダイエットがてら、ちょっと地球でも侵略して来いッ!!」
ゼットン「(慌てて)ひょえぇ~っ、たっ、直ちにぃぃ~っ!」
怪獣魔王に一喝されて、慌てて暗黒星雲を飛びたっていく太っちょゼットン。
その経過と理由はどうあれ……嗚呼、またしても迫り来る地球の危機!
が、一方、そんなこととは露知らぬ地球では……。
こちらは、宙マン一家のホームグラウンドである北海道千歳市。
“冬場の旨味”満喫中なのは、何もゼットンだけに限った話ではない。
てなわけで、毎度おなじみ宙マンファミリーとコロポックル姉妹。
今日はみんなで連れ立って、千歳市の中心部へと買い物に訪れていたぞ。
落合さん「さて、と!
お買い物の方も、ひととおり無事に済みましたことですし……」
ビーコン「おっしゃ、そろそろメシ行くっスよ、メ・シ!」
ながもん「そろそろ、昼どき……ジャスト・タイミング」
ピグモン「はうはう~、今日のお昼は何にするの~?」
落合さん「アギラ様の「来々軒」で、いつもの炒麺はいかがでしょう?」
ビーコン「ん~、今日は炒麺って気分じゃないっスね~。
オイラ的には、ちょっと新しい味の開拓をテーアンしたいっス」
落合さん「……簡単に言って下さいますわねぇ、ビーコンさん。
新しい味の開拓と言っても、この近辺のお店は既にあらかた……」
宙マン「……いや、そういう事なら……
実は一軒、ちょっと行ってみたかった店があるんだけどな」
落合さん「まぁ、どちらですの、お殿様?」
宙マン「イタリアンの店なんだ――」
宙マン「そこのイチ推し、特製の手打ち生パスタをスープにつけて食べる
“つけスパ”ってのが、先月末のオープン早々たいした評判でね!
しかもトマトスープの中にチキンレッグが丸ごと一本だよ、丸ごとッ」
ビーコン「うおおっ、そりゃマジモンで旨そうっスねぇ!」
落合さん「異議なしですわ、お殿様っ」
みくるん「……はぁ、イタリアン、ですかぁ……」
ピグモン「はう? みくるんちゃん、パスタ嫌いだったの?」
宙マン「そういうことなら、また別のお店を考えるけど……」
みくるん「ああ、いえっ、そういう事じゃないんですけどぉ……」
みくるん「ほら、冬場って、こってり系の食べ物が美味しいじゃないですかぁ?
だから、私……その……ついつい、食べ過ぎちゃって。
そろそろ、ダイエットも考えたほうがいいかな~……なんて」
落合さん「ははぁ、なるほど……そのお気持ち、痛いほどよく判りますわっ」
ながもん「問題ない……みくるん。
世の中には、ちゃんと……そういう、需要も……あるから」
みくるん「(涙目)ふぇぇん、ながもん、そういう問題じゃないってばぁ~」
ビーコン「つーか、そう言うながもんちゃんはどうなんスか?」
ながもん「私は、その辺……気にしない。
よく食べる……よく肥える……まったく、問題ない」
ビーコン「ほへ~、それはそれでまた見上げた心構えっスね~」
落合さん「(頷き)……そこまでいくと、一種の悟りの域ですわ」
ながもん「(無表情)ども。……で、それはそれとして……」
宙マン「……うん?」
「……なんか、来た」
みくるん「(驚いて)ふえっ!?」
ながもんの言葉に、宙マンたちもハッと空を見上げてみれば――
大空の彼方から、地上めがけて降り注いでくる巨大な赤い光球が。
ズゴゴゴグワーンっ!
地上に激突し、大爆発を起こす赤い光球。
立ちのぼる土煙の中で、むっくりとその巨体を起こしたのは……
「ピュポポポポ、ははははは……
ゼットン、ゼット~ン!」
みくるん「ああっ、またまた怪獣ですぅ!」
ながもん「アレは……宇宙恐竜・ゼットン」
ビーコン「でも……
それにしちゃあ、なんか様子がヘンじゃないっスか?」
宙マン「確かに……そう言われてみれば」
落合さん「なにかこう、至るところが劣化ぎみと申しましょうか……」
ピグモン「はうはう~、今度のゼットンさんはおデブちゃんなの~☆」
ゼットン「うぐぐぐっ、こいつら、言いたい放題ぬかしおって!」
ゼットン「ちょっとばかり太っても、私の強さは変わらず健在!
数多ある怪獣たちの中でも屈指の名門、宇宙最強と謳われた
誇り高き宇宙恐竜・ゼットン一族のひとりである私にかかれば……
こんな星、ダイエットがてら一気に侵略・制圧してくれるッ!」
ビーコン「うげげっ!
ゼットンの奴、マジでなんかやらかす気っスよ!?」
落合さん「ああ、もうっ……なんてはた迷惑な!」
イフ「わははは……何とでもほざくがいい、地球人ども!
さぁ行けゼットン、今こそお前の力を存分に奮え!」
ゼットン「ぶもももも……お任せ下さい、魔王様!」
かくして進撃開始、破壊活動に転じるゼットン。
……いや、彼にとってはあくまでも「ダイエット運動」の一環。
が、動機はどうあれ、千歳市民にとっての脅威なのには変わりない。
怪力でビルを破壊、巨大な足で民家や自動車を踏み潰し……
更に右手の指先から、ゼットン・ナパームを放っての猛攻撃。
平和な千歳の街が炎に包まれ、大パニックに陥っていく!
みくるん「ふぇぇ、ダイエットで人様に迷惑かけちゃダメですよ~(涙目)」
ビーコン「無駄っスよ、言って素直に聞くタマじゃないっス!」
ながもん「宙マン。……ここは、あなたの……出番?」
宙マン「ようし、行かせてもらおうじゃないか!
宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、荒れ狂うゼットンの前に舞い降りる!
宙マン「トゥアーッ! 宙マン、参上!
宇宙恐竜ゼットン、もうこれ以上はのさばらせないぞ!」
ズ、ズーンっ!!
ビーコン「おおっ、出た出た、アニキの十八番っス!」
落合さん「えぇ、この頼りがいのあるお姿……♪(うっとり)」
ピグモン「はうはう~、宙マン、がんばってなの~!」
ゼットン「飛んで火に入る夏の虫……いや、冬の宙マン!
数多ある怪獣たちの中でも屈指の名門、宇宙最強と謳われた
誇り高き宇宙恐竜・ゼットン一族のひとりである私が今度こそ……」
宙マン「行くぞゼットン、さァ勝負だ!」
ゼットン「……ちょ、最後まで聞いてくれてもいいじゃんよ~!?(泣)」
お構いなしでファイティングポーズとともに、身構える宙マン――
さぁ、今日もまた、世紀のスーパーバトル開幕だ!
激闘、宙マン対ゼットン!
千歳市民の声援受けて、正義の味方が宇宙恐竜に立ち向かっていき
市内狭しとばかりに、大地を揺るがす大格闘を繰り広げる。
ゼットン「うぉりゃああ~っ! こんにゃろ、コンニャロメッ!」
宙マン「うぬッ、なんの!」
手足を、頭をぶんぶん振り回して、猛然と攻めたてるゼットン――
なにしろダイエットも兼ねているものだから、いろいろ必死である。
嵐のような猛攻に、互角以上に渡り合ってみせる宙マンではあったが。
ゼットン「食らえッ!」
シュバババババッ!
右手の指先から迸るゼットン・ナパームの一閃!
周囲に凄まじい爆発が巻き起こり、宙マンを大きくよろめかせる。
みくるん「ああっ、宙マンさんが!」
ビーコン「だーっ、汚いっスねぇ! さすが宇宙恐竜、汚いっス!」
落合さん「名門のご出身なら、それらしく堂々と戦いなさいませっ!(怒)」
ピグモン「はわわわ、宙マン、まけないでなの~」
スライ「んー、ふふふ、素晴らしいですねぇゼットン君!
ダイエットという具体的目標がある分、本気の度合いも段違いですなぁ――
勝利の暁には、是非とも「侵略ダイエット」で一冊出版致しましょう。
そしてその印税で、またガッツリと食べ歩きを!」
イフ「馬鹿者、それでは元の木阿弥じゃわい!
……だが、いいぞゼットン、それでよいのじゃ!
その調子で宙マンを倒して、ついでにダイエットの方も成功させるのだ!」
ゼットン「そ~れ、それそれ、どんどんいくぞ~っ!」
調子に乗って、ゼットン・ナパームを乱射する宇宙恐竜。
だが宙マンも、いつまでもいいようにやられっぱなしではいない――
華麗なる回転戦法によって、ナパーム弾を片っ端から回避していく。
ゼットン「やるな、こうなったら奥の手だ!」
最強の武器、ゼットン火球を放つ宇宙恐竜。
だが、宙マンは素早くスーパー剣を抜き放って火球を受け止めるや
気合一発、逆にゼットンめがけて火球を弾き返した!
ゼットン「う、うそっ……そんなのアリぃ~!?」
慌てるゼットンだが、時すでに遅し――
自身の武器をまともに食らい、大ダメージを受けてぶっ倒れる。
宙マン「正義の刃、受けてみろ!
秘剣・スーパー滝落とし!!」
ザシュウッ!!
スーパー剣を抜き放ち、刀身にエネルギーを集中させ……
豪快な空中回転とともに、真っ向から振り降ろされる光の刃!
宙マンの「滝落とし」が、ゼットンを唐竹割りに切り裂いた。
ゼットン「ぐハァァァッ……み、身も細る思いのこの威力~ッ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
みくるん「わぁっ、やったです、宙マンさんの大逆転ですぅ!」
ながもん「(ボソッと)オウ……やっぱり、宙マン……ワンダフル」
ピグモン「はうはう~、宙マン、ありがとうなの~♪」
イフ「うぐぐぐっ……おのれ、よくもよくも、またしても宙マンめ!
だが覚えておれよ、怪獣軍団に「諦め」の文字はないのだ――
次こそは必ず、ワシらの力を思い知らせてやるからな!?」
……などと言う、怪獣魔王のいつもの負け惜しみはさて置いて。
宙マンの活躍により、宇宙恐竜ゼットンはダイエットの夢もろとも敗れ
千歳の街に、再び平和が蘇ったのであった。
ピグモン「はうはう~、宙マン、おつかれさまなの~♪」
宙マン「いやぁ、ひと汗かいたらお腹ペコペコだ――
早いトコお昼にしようじゃないか、お昼に」
みくるん「うふふっ……それじゃ、生パスタのお店で決まりですね、宙マンさん」
宙マン「おお、そうしてくれると私は有難いんだけど……
でも、いいのかい、みくるんちゃん?」
みくるん「はいっ♪」
みくるん「無茶なダイエットは、危険でおっかないんですよね~。
さっきの怪獣さんを見てて、それがよく判ったんですぅ――
だから私も、無理しないでマイペースでいくことにしましたぁ!」
宙マン「はははっ、なるほどね~」
ながもん「……目的地は、決まり」
ピグモン「はうはう~、パスタのお店にレッツ・ゴーなの~♪」
ビーコン「ヒヒヒ……いやぁ、楽しみっスねぇ、生パスタ!
でも、本命の“つけスパ”を堪能する前に、まずは軽く前菜をば……」
むにゅん、ふにふにっ
落合さん「(赤面)……きゃ、きゃあああああっ!?」
げ し っ !
落合さん「ねーい、どうして隙あらばいやらしいんですっ!(怒)」
ビーコン「どひ~っ、鉄拳がすきっ腹に堪えるっスぅぅ~」
宙マン「はっはっはっはっ」
おいしい街の、おいしいヒーロー。
我らが宙マン、次回もおいしく大活躍だよ~!