8月も早や半ば、とは言え夏はまだまだその盛り――
千歳市の重要観光スポットのひとつ、日本一の水質透明度を誇る
国立公園「支笏湖」も、またその例外ではない。
……いや、「なかった」と過去形にするべきだろうか?
そう、その通り。
恐るべき異変は、正にここから始まろうとしていたのだから!
おお、我々の恐れていた事態が遂に……
湖底に潜む配下の怪獣に向け、怪獣魔王・イフの檄が飛ぶ。
またしても侵略の嵐が、北海道に吹き荒れるのだ!
イフ「ワシら怪獣軍団の大目的、地球征服の大いなる野望。
今こそ、その悲願を現実のものとする時がきたのだ――
さぁ出でよ! 勇猛果敢なる怪獣軍団の戦士よ!」
俄かに妖しく波立ち、ボコボコと激しい泡が噴き上がる水面。
沸き立つ気泡とともに、湖底から浮かび上がってきたのは!?
「あんぎゃあぁぁ~っ!!」
甲高い叫び声とともに、湖底から姿を見せた巨躯!
「光の国」や「銀河連邦」のブラックリストに、幾度も記載がなされた
“宇宙の平和を乱す、悪魔のような”怪獣。
その名も恐るべき、宇宙怪獣ベムラーの眷属だ!
「あんぎゃあぁ~っ、お呼びでしょうか、魔王様!
貴方の忠実なる配下、宇宙怪獣ベムラーめはこれに!」
イフ「おお、相変わらずいい返事よの、ベムラー。
して、体の調子の方はどうじゃ?」
おかげさまでゆっくり骨休めしつつ、そのエネルギーをも
しっかり全身に蓄えることが出来ましたよ」
イフ「うむっ、ならばよし!
ではさっそく、お前の力を思い切り奮ってもらおうか!」
イフ「地球征服の第一歩、前線基地を築くためには……
まず、地球人どもの街を徹底的に片付けなくてはならん。
燃やし、壊し、跡形もない更地に変えよ!
これぞ名づけて、怪獣軍団のファイヤー・アタック作戦!」
イフ「お前の使命は重いぞ、宇宙怪獣ベムラー。
……だが、やってくれるな!?」
ベムラー「あんぎゃあぁ~、何をいまさら分かりきったことを!
大船に乗った気でドーンとお任せ下さい、魔王様。
この俺にかかりゃ、千歳なんてチンケな街は瞬く間に……」
「さぁて、それはどうだろうねぇ?」
ベムラー「ややっ! だ、誰だっ!?」
不意に聞こえてきた呑気な声に、ベムラーが振り向けば……。
ベムラー「げげぇっ! ちゅ、宙マン!?」
ビーコン「……と、女子中高生の間で人気爆発!
ベリーフェーマス・モンスター、ビーコンちゃんっスよ~☆」
落合さん「ご近所で評判の美人メイド、この落合もお忘れなく♪」
ピグモン「はうはう~、ピグちゃんもいるの~!」
宙マン「……と言う訳だよ、よろしくね!」
ベムラー「えーいっ、そんな自己紹介はどうでもいい!
……何だってお前らが、こんなとこにいるんだ!?」
宙マン「いやいや、何だってもかんだっても……」
ビーコン「要はオイラたち、メシ食いに来てたんスよね」
ベムラー「……メシだぁ……!?」
落合さん「支笏湖方面の国道沿いに、美味しい鶏肉料理ひとすじの
多くの方々に愛され続けてきた老舗がありまして……
私どもも、そこで美味しく頂いて参りましたのよ」
ピグモン「はうはう~、鶏の黄金焼きなの~♪」
ベムラー「……こ、こがね……やき……」
宙マン「味付けは塩味のみ、絶妙にしてシンプルそのもの!」
ビーコン「ほいだからして、ごまかしがきかない分……
国産鶏本来の旨味をぎゅっと閉じ込めた、素性の良さってのが
バッチリ際立つって寸法っス!」
落合さん「えぇ、えぇ、柔らかくってジューシーで!」
ピグモン「さっき、あんなにお腹いっぱい食べたばっかりなのに……
何だかピグちゃん、また食べたくなっちゃったの~」
ベムラー「ぐ、ぐぐっ……旨そうじゃねぇか……!」
宙マン「ああ、旨かったねぇ、折り紙つきさ――」
宙マン「……だからこそ、この味の余韻を壊したくなくってねぇ。
だからね、君――
悪いことは言わないから、大人しく帰ってくれないかな?」
ぶ ち っ !
ベムラー「っがー、こっちが真面目にやってるってのに……
なんだ、そのナメくさった態度は~!?」
宙マンファミリーの「通常営業」に、怒り心頭!
口から青色の破壊光線を吐いて襲い掛かってくるベムラー。
ベムラー「こうなったら、お前らから血祭にあげてやる~!」
ビーコン「ど、どひ~っ、めっちゃキレてるっスよ~!」
宙マン「ううむっ、平和的に解決したかったんだが……」
落合さん「却って、神経を逆なでしてしまいましたわねぇ!(汗)」
ビーコン「とにかく、このままじゃオイラたちが激ヤバっス!」
ピグモン「はわわわ……宙マン、宙マン、何とかしてなの~」
宙マン「(頷き)ああ、やるとも! 宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、荒れ狂うベムラーの前に舞い降りる!
宙マン「トゥアーッ! 宙マン、参上!
宇宙怪獣ベムラー、お前の野望はここで行き止まりだ!」
ズ、ズーンっ!!
落合さん「お殿様、今日もますます素敵です……♪(うっとり)」
ビーコン「いえっふ~、コレを待ってたんスよ~、アニキ!」
ピグモン「はうはう~、宙マン、がんばってなの~!」
ベムラー「あんぎゃあぁ~、やろうってか、宙マン。
……俺をナメた代償、悪いが高くつくぜェ……!?」
宙マン「さぁて、「高い買い物」につくのはどちらかな……!?」
ファイティングポーズとともに、敢然と身構える宙マン――
さぁ、今日もまた、世紀のスーパーバトル開幕だ。
ベムラー「あんぎゃあぁ~! ブッ潰れろ、宙マン!」
宙マン「どこからでもかかって来い、ベムラー!」
同時に駆け寄り、真っ向からの大激突!
かくして開幕、宙マン対ベムラーの凄絶なる巨大戦!
まずは一発、宙マンの空手チョップ!
ベムラーの脳天に炸裂した打撃が宇宙怪獣を怯ませたところへ
更なる攻撃を矢継ぎ早やに叩きこんでいく。
ベムラー「ぬおっ、こんにゃろ、やりやがるな!?」
宙マン「まだまだ、お次はこれさ!」
宙マンの鋭い跳び蹴りが、怪獣めがけて正確にヒット!
これにはたまらず、ベムラーもズズッと後退だ。
ベムラー「ぐ、ぐおおおっ……」
宙マン「よし、今だ!」
よろめくベムラーに駆け寄り……
持ち前の超怪力で、怪獣の巨体を軽々と持ち上げる宙マン。
伝家の宝刀、宙マン・リフターである。
宙マン「そぉれっ!」
地上めがけて、一気に投げ落とす豪快なパワー技!
したたかに地面に叩きつけられ、さしもの大怪獣もフラフラ。
ビーコン「っしゃ! 上手いっスよ、アニキ!」
落合さん「流石ですわ、お殿様!」
ピグモン「宙マン、がんばってなの、ファイトなの~!」
宙マン「さぁ、どうだい、まだやるつもりかね!?」
判り切ったこと、聞くんじゃねぇぇ~っ!!」
口から破壊光線を吐き出すベムラー。
だが宙マンは、冷静な判断でその一閃をかわし、ジャンプ!
ベムラー「ぬ、ぬおおおっ!?」
宙マン「くらえ――宙マン・閃光波!」
ピッキュイィィーン!
高らかな音とともに、宙マンの手にストロボ状の発光が生じ……
次の瞬間、ベムラーのボディで激しい爆発が起こる。
宙マン「――どうだっ!?」
ベムラー「あぎゃあぁぁっ、ま、参ったぁぁ~っ!」
火花を散らして崩れ落ち、大爆発とともに吹っ飛ぶベムラー。
やったぞ宙マン、大勝利!
ピグモン「やったのやったの、宙マンの勝ちなの~!」
ビーコン「やっぱアニキは「裏切らない」っスねぇ、色々と!」
落合さん「当然ですわ、私たちのお殿様ですもの!」
イフ「おのれぇぇ……またしても、またしても宙マンめが!
だが、これしきで地球を諦めるワシではないぞ……
怪獣軍団の真の恐怖、次こそ思い知らせてくれる!」
……などと言う、毎度毎度の負け惜しみはさて置いて。
我らが宙マンの活躍により、怪獣軍団のファイヤー・アタック作戦は
実行者の宇宙怪獣ベムラーもろとも粉砕されたのであった。
宙マン「やぁ、みんな……お待たせ、お待たせ!」
落合さん「お殿様、どうもお疲れ様でした!」
ピグモン「はうはう~、宙マン、かっこよかったの~♪」
宙マン「やー、今日もどうにか勝てたのは……
あの美味しい黄金焼きが、力を与えてくれたからだろうねぇ。
うん、改めて、日々の食事は本当に大事だよ!」
ビーコン「ヒヒヒ、アニキってばご謙遜、ご謙遜♪」
落合さん「いえいえ、そこもお殿様の素敵なところですわ」
ビーコン「よーし、そいじゃ、アニキと同じ鶏料理食ったオイラも……
アニキを見習って、その栄養分を有効活用するっスよ!」
落合さん「あらあら、ビーコンさんらしからぬ殊勝な台詞……。
自らの生き様を省みて、悔い改めて下さいましたのね?」
ビーコン「そこはっスね、口先よりも行動で証明してみせるっス」
落合さん「まぁっ、ますます頼もしいですこと!」
ビーコン「よ~し、ほんじゃさっそく行くっスよ~!
飯の後でももたれない、オイラのセクハラフルコース……」
さわっ、さわさわっ
落合さん「(赤面)……きゃ、きゃああああっ!?」
げ し っ !
落合さん「ねーいっ、前言撤回!
やっぱり、ビーコンさんはビーコンさんでしたのねっ!!(怒)」
ビーコン「どひ~っ、変わらないのが人気の秘訣っスぅぅ~」
宙マン「はっはっはっはっ」
北の自然と、この平和……
それを乱す者は、許しちゃおかぬ。
僕らの宙マン、次回も頼んだぞ!