無限に広がる大宇宙、暗黒星雲の奥深くから……
あくなき執念で地球を狙い続けているのは、泣く子も黙る怪獣軍団。
当然そこに集う怪獣たちも、血の気の多い暴れ者揃い。
てなわけで、今日もまた……。
「ギュゴゴボぉぉ~ンっ!!」
「ガウガウガァァ~ッ!!」
片や甲虫怪獣タガヌラー、片や……
……などと、呑気に紹介している暇もあらばこそ。
喧嘩だ喧嘩、またまた怪獣同士の大ゲンカ!
と、そんな血なまぐさい修羅場からの幕開けとなった今回の『宙マン』。
地球から遥か彼方、我々には全く未知の惑星。
荒涼たる大地を揺さぶり、響き渡る激闘の打撃と二大怪獣の咆哮!
鋭い刃が、爪が、野太い腕が唸りをあげて幾度となく交錯。
いつ果てるとも知れない、怪獣同士の一大決戦である。
両者ともに、そのパワーはほぼ互角。
だが、戦いの中で生じた一瞬の隙を突くかたちで……
ドリルビットのように鋭利な三本角が、タガヌラーの胸板に炸裂!!
ド ガ ァ ァ ァ ッ !
「ぎゅ。ギュゴゴボぉ……っ!」
これにはたまらず、大きく吹っ飛んで倒れた甲虫怪獣である。
タガヌラー「(目を回して)ハンニャラ、ヒ~っ……」
「おうっ! どうだこのヤロー、参ったか!?」
タガヌラー「ま、参ったぁ……ギブ! ギブギブっ!」
「おう、余計な手間とらせやがって!
てめぇ、二度とさっきみたいな事を抜かしてみやがれ――
次はこんなもんじゃ済まさねぇからな~!? 判ったか!」
何やら両者間の他愛ない会話からの口論が、この激闘に繋がった模様。
そしてその騒ぎは、当然のように怪獣魔王の耳にも届いていた。
イフ「えぇい、この馬鹿者めが!
身内の仲間同士で、無駄に潰し合っている場合か!」
「いや、ですけどねぇ魔王様!
そうは仰いますけど、あんなこと言われてバカにされた日にゃ
いくら温厚なこの俺だって、さすがにカチンと……」
イフ「そんなに元気が有り余っているのなら……
喧嘩などしている暇に、地球ででもひと暴れしてこんかっ!」
「ふにゃ~いっ、かしこまりィ~」
何やら「子どもは風の子、外で遊んでらっしゃい」とでも言うような
どうにも緊迫感のないやりとりだが……
この流れによって、また新たな脅威が放たれたのは厳然たる事実。
ああ、地球危うし、千歳危うし!
が、ひとまずそれはそれとして――
毎度おなじみ北海道千歳市、ほんわか町5丁目の「宙マンハウス」。
そんな危険が、すぐ間近に迫っているとは露知らず……。
ビーコン「ぐぅ~むむむむ……むむぅっス~」
何とも形容しがたい唸り声とともに、のそのそ部屋から出てきたビーコン。
落合さん「あらあら、どうなさったんです、ビーコンさんったら……
イボ痔か切れ痔の治療でしたら、よいお薬をお教えしますわよ?」
ビーコン「いやぁ、そんなんじゃナイッスよ~、落合さん。
オイラ今、もっと深刻で複雑な怪獣人生の悩みに直面してるトコなんス」
落合さん「おほほ、またまたまたぁ~
。 どうせビーコンさんのことですもの、例によって……」
ビーコン「あ~っ、もう、あんまりイライラさせないで欲しいっス!
とにかく今のオイラに必要なのは、この悩みと真っ向から向き合うための
静かなるシンキング・タイムっス……
てなワケで、落合さんの相手してるヒマなんてねっスよ~」
落合さん「……んーまっ、仰いましたわねっ!?」
……などと憤る落合さんには目もくれず。
いつものセクハラ攻勢なんかも一切なしで、ブツブツ呟きながら
その場を後にしていくビーコンなのであった。
宙マン「う~ん、これはちょっとアレだねぇ」
落合さん「ああ、お殿様もそうお思いになられます?」
何しろ普段が普段だけに、たまにこういう真面目っぽい素振りを見せられると
周囲としては猛烈に座りの悪い、ミョーな気分になってしまう。
果たしてビーコンの「悩み」とは?
……だが、その時である!
ゴゴゴゴ……グラグラグラグラッ!
すわ何事と、慌てて家を飛び出した宙マンたちの目の前で……
局地地震により倒壊していく市内のビルディング。
めきめきと音を立てて割れ裂ける大地。
土砂を激しく巻き上げ、地上にその姿を現したのは……
そう、勿論こいつだ!
「ガウガウガァァ~ッ!!」
おお、見よ!それまでの空気を全く読まず、人の迷惑顧みず……
恐怖の大怪獣、北海道千歳市に出現!
「ガァァ~っ、恐れおののけ、北海道の田舎者ども!
俺の名はマグラー、地底怪獣のマグラー様だ~!」
「はうっ、そんなの嘘なの~!」
意外なところで意外な横槍を入れたのは、これまた意外にも……
宙マンファミリーのマスコット、友好珍獣ピグモン。
ピグモン「んーとね、ピグちゃん、怪獣図鑑で読んだから知ってるの~。
マグラーさんってのはね~、もっと黒くて、とげとげがいっぱいあって、
そんで、四本足で歩き回る怪獣さんのことなの~!」
ビーコン「……ああ、言われてみれば確かにっス!」
落合さん「なるほど……
いわゆるひとつのパチモンというものですかしらっ!」
……ぷ ち っ !
マグラー「てっ、てめぇらぁぁぁ……(ワナワナ)
テメーらまでが、それを言うかぁぁ~!?」
怒り狂って、角からビームを放つマグラー!
マグラー「ガウガウガァァ~、ちきしょーチキショー!
どいつもこいつも、マイナー怪獣だからって馬鹿にしやがって……
俺は俺だ、断じてパチモンなんかじゃねぇぇ~!!」
怪獣マグラー、まさに魂の絶叫。
なまじ名前が似ているために、何かと「地底怪獣マグラ」と混同され、比較され、
時にはこうして不当なパチモン呼ばわりまでされてしまう、という……
それこそがマグラー唯一にして最大の悩みであり、何かとその名をイジられるたび
他の怪獣との喧嘩が絶えないのも結局、それがゆえだったのだ。
イフ「そうだ、だからこそ……
その怒りのエネルギーは有効に使い、役立てねばならん!
大いにやるのだマグラーよ、ここなら誰も文句は言わんぞ!」
マグラー「ガウガウ~、こうなりゃとことん行きますぜ、魔王様!」
怪獣魔王の命を受け、進撃開始するマグラー!
迫り来る巨体を前に、悲鳴をあげて逃げ惑う千歳の人々。
ビーコン「う~ん……何か、悪いこと言っちゃったっスねぇ!?」
ピグモン「……えうぅ、なんだかごめんなさいなの~」
落合さん「だからって、このまま捨て置くわけにも参りませんわ!」
と、言うわけで。
航空防衛隊の戦闘機隊が、直ちに緊急発進して飛びたった。
ピグモン「あ、防衛隊のおじさんたちが来てくれたの!」
ビーコン「頑張ってくれっス、頼むっスよ~!」
落合さん「どうか、どうか、私たちの街を守って下さいませ!」
「ようし、やるぞ――一斉攻撃、開始っ!」
戦闘機の機首砲座から、鋭く迸るレーザー光線!
だが、その猛攻撃をまともに受けてなお、地底怪獣の猛りは止まらない。
マグラー「ガウガウ~、しゃら臭ぇってんだよっ!」
「ど、どわぁぁぁ~っ!?」
マグラーの三本角がスパークし、空へと放たれる破壊光線!
勇戦空しく、戦闘機隊はその一閃で次々に撃ち落とされていく。
マグラー「ガウガウガァァ~ッ、どんなもんだい!」
爆発! 炎上!
人々の悲鳴が幾重にも交錯し、今や平和な街は大混乱!
宙マン「ああ、確かに落合さんの言う通りだ。……
千歳の一市民として、これを黙って見ているわけにはいかないよ!」
ビーコン「おおっ、アニキ、やるっスか!」
宙マン「おう、やらいでかっ!
宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
さぁ、今日もまた正義の味方のお出ましだ!
宙マン「トゥアーっ! 宙マン、参上!
地底怪獣マグラーよ、悪ふざけもそこまでにしておけ!」
ビーコン「いえっふ~、出たっス、アニキの十八番!」
落合さん「ああ、やっぱり頼れるのはお殿様ですわねぇ!」
ピグモン「はうはう~、宙マン、がんばってなの~!」
宙マン「繰り返して言う――もうよすんだ、マグラー!
これ以上やるなら、私が相手になるぞ!」
マグラー「ガウガウガァァ~、上等じゃコラァ!」
宙マン「聞く耳持たずか……ならば、仕方がない!」
ファイティングポーズを取り、敢然と身構える宙マン。
さぁ、今日もまたビッグファイトの幕開けだ!
マグラー「ガウガウガァァ~、そのどてっ腹に風穴あけてやるぜ!」
宙マン「さぁ来い、マグラー!」
激突、宙マン対マグラー!
千歳の人々が固唾を呑んで見守る中、豪快に華開く巨大戦。
感情の昂ぶりに任せて、荒々しく襲いかかっていくマグラー!
その突進に対し、宙マンもパワー全開で立ち向かう。
宙マン「えいっ、どうだ! これでもか!」
マグラー「なんでぇ、こんにゃろっ!」
パワーと勢いだけならば、マグラーの猛攻撃は相当なもの。
だが、宙マンにはそれらの要素に加え……
幾多の戦いと経験を通じて磨き揚げられた技の冴えがあるのだ。
マグラー「な、何っ!?」
宙マン「そぉりゃッ、これでもくらえ!」
流石だ、宙マン!
マグラーの猛攻の中に生じた、ほんの一瞬の隙を逃すことなく……
鋭い正面跳び蹴りが、地底怪獣の腹部へと炸裂した!
宙マン「思い知ったか、正義のキックの威力!」
マグラー「ガァァ~ッ!
マイナーで悪いか、ピープロ怪獣なめんなよ!?」
マグラーの怒りそのもののように、角から迸る破壊光線!
その威力が、宙マンの周囲に凄まじい爆発を生じさせる。
グワーン! ズガガガガーンっ!
「う、うわぁぁぁぁ……っ!!」
ビーコン「どひ~っ……あ、アニキっ!?(汗)」
落合さん「いけませんわ、完全に怒りで我を失ってます……
えてしてですね、ああいう相手が一番タチが悪いんです!」
ピグモン「はわわわ……宙マン、まけないでなの~!」
宙マン「(苦悶)う……うう……っ!」
マグラー「この俺が引導渡してやるぜ! 潰れろ、宙マン!!」
とどめの一撃を叩きこむべく、猛然と突進してくるマグラー!
だが、宙マンもまた……
そうはさせじと立ち上がり、起死回生の一撃を繰り出した!
宙マン「くらえ! 宙マン・フラッシュボンバー!」
シ ュ ッ パ ァ ァ ー ン ッ !!
右手に集中させた闘気を、裏拳とともに勢いよく解き放ち……
赤いエネルギー弾として、敵めがけて叩きこむ荒技。
フラッシュボンバーの一撃が、マグラーに大炸裂!!
宙マン「よし、とどめだッ――正義の刃、受けてみろ!
秘剣・スーパー大波崩し!!」
ズバァァッ!
スーパー剣の刀身にエネルギーを集中させ……
怒涛のような突進の勢いに乗り、斜め一文字にひるがえる光の刃!
宙マンの「大波崩し」が、マグラーの巨体を見事に切り払った。
やったぞ宙マン、大勝利!
ビーコン「いえっふ~、さっすがアニキっス!」
落合さん「お見事でしたわ、お殿様!」
ピグモン「はうはう~、宙マン、かっこよかったの~♪」
人々の笑顔と歓声が、宙マンの勝利を讃える――
立ちつくす巨体はどこまでも雄々しく、逞しかった。
イフ「ぐぬぬぬっ……またしても、またしても宙マンめが!
だが覚えておれよ、この怪獣軍団に群れなす怪獣たちの……
そしてこのワシの怒りが、次こそ貴様を地獄へ叩きこむぞ!」
……などと言う、怪獣魔王のいつもの負け惜しみはさて置いて。
我らが宙マンの活躍によって、理不尽な憤りをぶつけにやって来た
地底怪獣マグラーは撃退され、千歳に再び平和が蘇ったのであった。
ピグモン「はうはう~、さすが宙マンなの~♪」
宙マン「はっはっはっはっ、一時はどうなるかと思ったけどねぇ」
落合さん「怪獣さんは怪獣さんなりに……
それぞれいろいろとお悩みもある、という事ですわねぇ」
宙マン「うん、何とも示唆に富んだ話さ」
ピグモン「……なの~」
落合さん「……あ、そうそう、忘れないうちに聞いておきたいんですけど……
結局、ビーコンさんの方のお悩みって何だったんですの?」
ビーコン「いやぁ、よくぞ聞いてくれたっス、落合さん!
ちょうどアニキが戦ってる間に、オイラの悩みはめでたく氷解っス♪」
ビーコン「や、あのっスね、チュッ〇チャ〇スってあるじゃないスか」
ピグモン「はうはう、ピグちゃんも大好物なの~♪」
落合さん「その棒つきキャンディーが、どうかなさいましたの?」
ビーコン「アレを舐めてる時の音に、何かこう言い知れないデジャブーを感じ
それがなんなのか、今朝からずーっと気になってたんスけど…
ようやく、ストンと腑に落ちたっス~」
ビーコン「ヒヒヒ、
ぶっちゃけアレってフェ●音にクリソツっスよねぇ!?」
げ し っ !
ビーコン「ハンニャラ、ヒ~っ……
き、聞かれたから答えただけじゃないっスかぁぁ~」
落合さん「ねーい、お黙りんこっ、このエロ怪獣っ!」
宙マン「はっはっはっはっ、まぁ、これはこれでよかったじゃないか。
ビーコンはいつも通りのビーコンだった、って事だしねぇ♪」
ああ、世にお悩みの種はつきまじ……。