気候も穏やかになり、食べ物もまた美味しく……
この日の北海道千歳市は、抜けるように青い秋晴れであった。
宙マン「いやぁ~、いい天気になってくれたねぇ!」
ピグモン「はうはう~、風もすっごく気持ちいいの~」
落合さん「思い切って遠出するもよし、近場を散策するもよし……」
ビーコン「それもこれも、何事もなく平和だからこそっスよね!」
みくるん「ですね~、平和が一番!
じゃ、そんな平和な毎日をどう過ごすか、みんなで話し合いません?」
ながもん「のんびり、ご飯でも……食べながら」
宙マン「うんうん、良いねぇ、全く異論はないよ!
それじゃ、ナシゴレンが美味しいと評判の例の喫茶店にでもお邪魔して……」
「……と、その前に……ちょっと、待って?」
みくるん「ほにゃ、どうしたの、ながもん?」
ビーコン「まさか、今日も今日とてまたまた……」
落合さん「怪獣軍団の怪獣さんがお見えになりましたのかしら!?(汗)」
ながもん「……(無言で、空の一方を指差し)」
ながもんが指し示した千歳の空、そこに見えたものとは――
ピグモン「はうはう、何かがお空を飛んでるの~」
ビーコン「鳥っスか?」
落合さん「飛行機でしょうか!?」
みくるん「それとも……ロケット?」
宙マン「いやいや、そのどれでもないね。……
ああ、間違いないよ、あれはジャンボーグAだ!」
ピグモン「(きょとんと首を傾げて)じゃんぼ^-ぐ……えぇすぅ?」
みくるん「お知り合いさんですか、宙マンさんの?」
宙マン「(頷き)現役時代に何度か、力を合わせて一緒に戦ったり……
私がピンチのところを助けてもらったりしてね。
彼もまた、地球が誇る素晴らしいスーパーヒーローの一人だよ」
ながもん「合言葉は……ジャン・ファイト」
宙マン「そうとも、流石にながもんちゃんは詳しいねぇ!」
「ジャンボーグA(エース)」!
それは銀河連邦の一員、「地球の兄弟星」を自認する遥かなエメラルド星から
地球防衛のために贈られた巨大サイボーグのことである。
その唯一の操縦者として認められたのは、血気盛んな地球の若者、
民間航空会社のセスナパイロットである立花ナオキ。
ナオキの闘志とエメラルド星の科学が一体になり、ジャンボーグAは
地球を狙う邪悪な侵略者・グロース星人相手に幾多の戦いを繰り広げ
その野望をことごとく打ち砕いてきたのであった。
ビーコン「ひゃ~、アニキは色々、カオ広いんスねぇ!」
落合さん「それはそうですわ、何と言ってもお殿様は……
銀河連邦の英雄の一人として、讃えられたほどのお方ですもの!」
宙マン「懐かしい顔を見たら、久々に世間話でもしたくなっちゃったな。
済まないが落合さん、お茶の支度をお願いできるかな?」
落合さん「お任せ下さい、お殿様!」
ジャンボーグAの雄姿を見て、宙マンたちの空気が和みかけていた時。
……そう、事態が一変したのは、正にその時であった!
ズゴゴゴグワーンっ!!
おお、何と言うことであろう。
上空のジャンボーグAが、いきなり……何の事前警告もないままに
地上めがけて破壊光線を発射したではないか!?
ながもん「ジャンボーグAの、操縦者は……気が荒いって……聞くけれど」
ビーコン「どひ~っ、でもこれは、ちょっちヤンチャ過ぎじゃないっスかねぇ!(汗)」
落合さん「お殿様、これは一体どうなっているんでしょう!?(汗)」
宙マン「ううむっ、私にも何が何だかさっぱり……!?」
ピグモン「あっ、ジャンボーグが降りてきたの!」
宙マン「何だって!?」
ドっスぅぅーンっ!!
みくるん「ああんっ、これじゃ正義のヒーローさんって言うよりも……」
ピグモン「悪い怪獣と、やってるコト何にも変わらないの~!(涙目)」
ながもん「(ボソッと)この展開は……辛い……いろんな、意味で」
ビーコン「え~っと、操縦者さぁん……確か立花ナオキさん、ったっスよね。
何か急に、暴れたくなる深刻な理由でもあったっスか~!?」
落合さん「まずは穏便に話し合いましょう、ねっ。
私たちでよければ、愚痴ぐらいは聞くこともできますし……
その上で、何かお力になれるやもしれませんから!」
「…………(無言)」
宙マン「やはり様子が変だな。……ようし!」
眼前のジャンボーグへ向けて、プラネット星人の超能力のひとつ……
両目から放つ特殊スペクトルでの透視能力を発動させる宙マン。
宙マン「ううむっ、むむむ……そうか、やはりそうか!」
ビーコン「どうかしたんスか、アニキ?」
宙マン「ジャンボーグAの操縦席は目の奥なんだ。
……なのに、いま透視をしてみたら、目の奥には誰も乗っていなかった――」
落合さん「(ハッと気づいて)……ということは、お殿様っ!?」
宙マン「(頷き)……このジャンボーグAは、真っ赤な偽物だ!!」
ビーコン「どひ~っ、にせジャンボーグAってワケっスか!」
ピグモン「はわわ、言われなきゃ全然わかんなかったの~(汗)」
と、ここで一度場面は変わって。
暗黒星雲の奥深く、怪獣軍団の本拠地において……
そんな地球での様子を楽しそうに見ていたのは、もちろん怪獣魔王。
イフ「わははは……愉快、愉快!
偽物のヒーローを出現させて、地球人どもを不安と混乱に陥れつつ
物理的な破壊も行う二段構えの戦法で仕掛けるとはな。
流石はゾネンゲ博士だ、それでこそ我が軍団の大幹部……」
「はい? 今、私をお呼びになりましたか、魔王様?」
イフ「おお、噂をすれば何とやら、来たかゾネンゲ博士!
ちょうど今、そなたのにせジャンボーグA作戦を褒め称えて……」
ゾネンゲ博士「(首を傾げて)にせジャンボーグA? この私の?
……はて、失礼ながら魔王様、一体何を仰っておいででしょうか?」
イフ「(ニヤニヤ)またまたぁ、今更とぼけずともよいのだぞ?」
ゾネンゲ博士「いえ、魔王様、本当に身に覚えのないことなのですよ!
と言いますか、そもそも私は本日・非番でありますゆえ……
朝からのんびり、ドラマ鑑賞三昧でございましたよ!」
イフ「何っ……それは真か、ゾネンゲ博士?」
ゾネンゲ博士「(頷き)むしろ、魔王様を偽る理由が見当たりません」
ゾネンゲ博士「……と申しますか、魔王様、これは何気に大問題では!?」
イフ「えぇい、おのれ……どこのどいつだ!
このワシ・怪獣魔王イフの縄張りで、好き勝手な真似をする奴は!?」
……などと、遠く暗黒星雲にまで困惑が波及していたその間にも!
巨体にものを言わせ、傍若無人に進撃するにせジャンボーグA!
迫り来る銀色の威容を前に、人々はただ逃げ惑うより他に術がない。
ビーコン「ひぇぇ、えらいこっちゃ、えらいこっちゃっス!」
みくるん「せっかくみんなで、平和にのんびり出来ると思ってたのに~!」
落合さん「お気持ちは分かりますが、とにかく今は逃げの一手ですわ!」
北海道千歳市、またまた洒落にならない大ピンチ!
偽物ヒーローの暴虐、もはや断じて許すまじ。
千歳の平和を守るべく、航空防衛隊が直ちに出撃した。
ビーコン「おおっ、航空防衛隊のお歴々っスよ!」
落合さん「タイミング「は」、いつも良いんですけど……(汗)」
ピグモン「はうはう~、おじさんたち、しっかりなの~!」
「ようし……全機、にせヒーローに一斉攻撃だっ!」
にせジャンボーグAめがけて、一斉に攻撃をかける戦闘機!
だが、その凄まじい弾着も、巨大サイボーグを怯ませるには至らない。
にせジャンボーグA「(唸り声)グルルルゥゥ……ッ!」
「う、うわぁぁぁぁ……っ!!」
にせジャンボーグAが撃ち出すフィンガー・ミサイル!
その洗礼を受け、一機、また一機と撃ち落されていく戦闘機。
みくるん「ああっ、やられちゃったぁ!」
ながもん「さすが、偽物でも……ジャンボーグ、A。
なかなか……一筋縄では……いかせて、くれない」
ピグモン「えう~、ながもんちゃん、感心してる場合じゃないの~!」
ビーコン「どひ~っ、このままじゃ……
さっきまでの平和と、一番縁遠い事態になっちまうっす~!(汗)」
落合さん「お殿様、何とかなりませんでしょうか!?」
宙マン「(頷き)ようし、やってみよう! 宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、にせジャンボーグAの前に舞い降りる!
宙マン「トゥアーッ! 宙マン、参上!
身勝手きわまる悪行三昧、もうそのくらいにしておくがいい!」
ズ、ズーンっ!!
みくるん「わぁっ、宙マンさん得意の巨大化ですぅ!」
ながもん「よかった……千歳に、宙マンが……いて、くれて」
ビーコン「アニキ~、頼んだっス!」
ピグモン「はうはう~、ピグちゃんも応援してるの~!」
にせジャンボーグA「グルルルッ……!」
宙マン「お前が何故ジャンボーグAの姿を借り、名を偽るのかは分からん。
だが、ただひとつだけ確かなことは……
この千歳の街で暴力を振るう者を、私は決して許しておかぬと言うことさ!」
全身にみなぎる怒りを力に変え……
ファイティングポーズをとって、敢然と身構える宙マン。
にせジャンボーグA「グルルルッ……グロロロロッ……!」
宙マン「さぁ来い、勝負だ、にせジャンボーグ!」
激突、宙マン対にせジャンボーグA!
落合さんたちが見守る中、今日もビッグファイトの幕が開く。
完全な人型タイプならではの長所をフルに活かし……
持ち前のパワーに加え、本物のジャンボーグA同様の素早さで
連続パンチ攻撃を仕掛けてくる偽造サイボーグ。
油断していると、どのタイミングで蹴りやパンチが飛び出してくるのか
予測がしづらいだけに、宙マンも全く気が抜けない。
にせジャンボーグA「グロロロロッ!」
宙マン「なんの、まだまだ、これでもくらえ!」
掴みかかってきた偽造サイボーグの両腕をかわし……
その際に生じた一瞬のすきを突いて、鋭い宙マンのストレートキックが
にせジャンボーグAの肩口に炸裂!
ドッシィィーンっ!
これにはたまらず、大地に倒れこんでしまった偽物Aである。
ながもん「よしゃっ。……さすが、宙マン……巧いっ」
みくるん「この調子なら、もう宙マンさんの勝ちに決まってますぅ!」
ビーコン「いえっふ~、ギャラリー的にも一安心っス♪」
宙マン「どうだ偽物め、正義のパワーに怖れをなしたか!?」
にせジャンボーグA「ガロ、ロロロッ……」
両手をついて「ごめんなさい」するのか……と、思いきや!?
「う、うわぁぁぁぁ……っ!!」
おおっと、これは汚い! これは卑怯!
宙マンの緊張が緩んだ隙を突き、謝るふりをしておもむろに腹部から放った
火炎弾の連続発射が、宙マンの巨体を吹っ飛ばしたではないか。
みくるん「ああっ、宙マンさんが!」
ビーコン「っがー、ヒーローのナリして、何つーコスい真似っスか!?」
落合さん「ですが、威力は本物です……悔しいですが、かなり効いてますわ!」
ピグモン「はわわ、このままじゃ宙マンが負けちゃうかもなの~(涙)」
ながもん「(ボソッと)……宙マン。……ガンバレ……!」
全身にダメージを受け、すぐには立ち上がれない宙マン。
そんな彼にとどめを刺すべく、にせジャンボーグAが迫って来る!
にせジャンボーグA「グルルルッ……!」
「なんの、これしき……真の勝負は、ここからだッ!」
宙マンにとどめを刺すべく、にせジャンボーグAの放ったフィンガーミサイル。
だが宙マンは、残された最後の気力とパワーを振り絞り……
バネのように跳ね起きるや、その攻撃を回転戦法で回避していく!
ズガーン! グワーンっ!
にせジャンボーグA「グルルルッ……グロロロロッ……!」
怒り、苛立つかのように、にせジャンボーグAが放つ火炎弾。
だが宙マンは、同じ手は二度と喰わぬとばかりに……
その攻撃をジャンプでかわして、大空高く舞い上がる!
宙マン「エイヤァァーッ!
宙マン・アサルトヒール!!」
右足にエネルギーを集中させ、正義の鉄槌のごとく振り下ろされた
踵落としの一閃が、にせAの眉間を叩き割るように炸裂!!
にせジャンボーグA「が、が、ガロロッ……」
宙マン「とどめだ! 宙マン・エクシードフラッシュ!!」
全身のエネルギーを極限まで凝縮して放つ、虹色の必殺光線……
エクシードフラッシュの一閃が、にせジャンボーグAを直撃!!
にせジャンボーグA「ゴォ、オ、オ……おおおお……っ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
木っ端微塵に粉砕され、無数の残骸と化した偽造サイボーグ。
だが、噴き上がる爆炎の中に宙マンは見た――
「ふふふふ……はははははは……!」
宙マン「(驚愕)……お、お前はっ!?」
驚き、駆け寄ろうとした宙マン。
……だが、炎の中に得体のしれない「気配」を感じたのもつかの間、
それは一瞬にして消え去ったのであった。
宙マン(一体なんだったんだ……今、私が感じたこの「気配」は……?)
ビーコン「お~い、アニキ、どしたっスかぁ~?」
落合さん「ジャンボーグAさんの偽物騒動も一段落したことですし……
改めてこれから、何か美味しいものでも食べに参りません?」
ピグモン「はうはう~、ピグちゃん、おなかぺっこぺこなの~」
みくるん「って言うか宙マンさん、ちょっと様子が変ですけど……」
ながもん「何か……気になる、ことでも……あった?」
宙マン「(慌てて笑顔を作り)え?……いやぁ、大丈夫だよ、心配ない。
なんでもない、なんでもない、はっはっはっはっ!」
宙マン(なぁに、気のせい。単なる私の取り越し苦労さ――)
……だが、果たして本当にそうなのであろうか?
今は語るまい。
「何か」がいるのか、「何か」が来るのか。
そして、それは……
平和な千歳市と宙マンに、何をもたらすであろうか?