秋から冬へ、そして年の瀬へ……
街を吹き抜けて行く風も、日に日に冷たさが増しつつある北海道。
だが、そんな空っ風に晒されながらも、北国に生きる人々はと言えば
明るく、呑気に、それぞれの変わらぬ日常を満喫中であった。
と言うわけで、今回もいつも通りに幕を開ける『飛び出せ! 宙マン』。
「いつも通り」を謳うからには、物語の始まりも当然、例によって例のごとく
北海道千歳市から、ということになる。
ゴゴゴゴ……グラグラグラグラっ!
11月の、ある日。
平穏そのものの時間を破るかのように、突如として……
局地地震が、千歳の大地を揺さぶった。
ビーコン「お、おろろろろろっ!?(汗)」
落合さん「あらまぁ、何だかいきなり来ましたわね、今回は!」
激しい震動によって、大地がメキメキ音を立てて割れ裂ける。
そして地中から、大量の土砂を巻き上げて立ち上がった者とは!?
「グルルル……グモモモモ~ッ!!」
みくるん「やだっ、やっぱりまた何か出てきたよ!?」
ながもん「(眼鏡をくいっと上げて)あれは……原始怪獣・スフェノドン。
ジュラ紀に、栄えた……大トカゲの……一種」
宙マン「……いやはや、怪獣軍団の「層の厚さ」には恐れ入るね!」
ピグモン「えう~、なんでもいいけど、とにかく怖いの~」
ビーコン「で、そのスフェノドンさんとやらが……
今日は一体、どんな用件でいらしたんスかね!?」
スフェノドン「(咆哮)グモモモ……ガルルゥゥ~っ!」
落合さん「あら嫌だ、話し合い自体が成立しないタイプですの!?」
と、千歳の人々が怖がったり困惑したりしている一方で……
そんなスフェノドンの姿に満足げなのは、怪獣軍団の魔王イフ。
イフ「ううむっ、素晴らしいぞスフェノドン、お前は偉いっ!
ワシの命令なくとも、こうして自主的に地球侵略のために動いてくれるとは。
まさにそなたこそ、我が怪獣軍団の「期待される怪獣像」……」
ゾネンゲ博士「(慌てて)ま、魔王様! 魔王様っ!!」
イフ「おお、ゾネンゲ博士よ、いいところへ参ったな!
ちょうど今、スフェノドンの自主性を大いに褒め称えて……」
ゾネンゲ博士「それ、そのスフェノドンの事なのでございます。
何度も奴に呼びかけておるのですが、全く応答がありませぬ!」
イフ「(驚き)何っ!?」
イフ「これっ! スフェノドンよ、一体どうしたと言うのじゃ――
ワシだ、ワシ! 怪獣魔王の呼びかけに、何故お前は応えぬ!
……返事をせい、応答しろと言うに!」
スフェノドン「(咆哮)グモモモ~っ!」
怪獣魔王の呼びかけなど、まるで聞こえていないかのように……
凄まじい咆哮をあげ、猛然と進撃を開始するスフェノドン!
ビーコン「どひ~、えらいこっちゃ、えらいこっちゃっス!」
みくるん「いつもの流れって言えば、いつも通りなんですけどぉ……」
ながもん「こういうのは……いつまで、経っても……慣れない」
落合さん「あぁ、こんな時はとにかく逃げの一手ですわ!(汗)」
怪獣スフェノドンの進撃で、早くも大パニックの千歳市!
これ以上の大暴れは許すまじと、直ちに航空防衛隊がスクランブル。
ロケット弾の連続射撃が、矢継ぎ早やに怪獣へ叩きこまれる!
だが、そんな必死の応戦でさえも……
タガが外れたような原始怪獣の勢いを、全く止められない。
スフェノドン「グモモモ……ガルルルゥゥ~ッ!」
みくるん「ああっ、やっぱり……効いてない!?」
ながもん「しーっ。……それは、言わない……お約束」
ピグモン「……とか言ってたら、どんどんこっちに来てるの~!(汗)」
怒濤の進撃、原始怪獣スフェノドン!
……だが、次の瞬間、街のど真ん中でその動きがぴたりと止まった。
ビーコン「……あっれぇ!?」
落合さん「油断は禁物ですわ、次なる攻撃の予備動作かもしれません」
ビーコン「な~る、有りえない話じゃないっスね。……
……っと、ありゃりゃっ?」
落合さん「どうしましたの、ビーコンさん?」
ビーコン「や、アイツ、何か小声で言ってるような――」
スフェノドン「(口の中で)……ら、が……は……ら……がぁぁっ……」
「……は、は、腹がイタ~イッ!!」
苦しそうに、その場で身悶えし……
次の瞬間、ドドーッと倒れ伏してしまうスフェノドンの巨体。
ビーコン「……しょ、しょ、しょ~もなッ!(呆)」
ビーコン「何が理由で、あんな暴れ方してんのかと思ったら……」
落合さん「まさか、腹痛が理由でいらしたなんて!」
宙マン「いやいや、急な腹痛はなかなかに深刻な問題だよ?」
……などと、人々が口々に言い合っている間に。
ピグモン「ああっ、みんな、アレ見てなの! アレ!」
ながもん「これまた……尋常じゃない……事態の……予感」
白目を剥いて失神したスフェノドンの口より、もくもく噴きだす煙。
その中でみるみる巨大化し、今また新たに姿を見せたのは!?
「びゅぶっ、びゅびびぃぃ~んっ!!」
ピグモン「ああっ、また何か出てきたの!」
みくるん「怪獣の、お腹の中から……また、怪獣?」
ながもん「(首を振り)あれは……さぼてん超獣・サボテンダー」
ビーコン「……ってコトは、また異次元人ヤプールの差し金っスか!(汗)」
宙マン「それにしても、このタイミングでわざわざ出て来るなんて……」
落合さん「サボテンと言うより、野暮天そのものですわねっ!」
サボテンダー「バーロー、全然上手くねェからなっ!(嘲笑)」
サボテンダー「びゅびびぃぃ~ん、まぁ、そんな話はどうでもいい!
こうして俺が出てきたからにゃあ、芸術的レベルの大暴れによって
千歳を、北海道を、地球の全てを破壊しつくしてやる――
この通り、エネルギーも満タンになったことだし、な!」
宙マン「エネルギー、だって?」
落合さん「(ハッと思い当たり)あっ、もしかして……」
サボテンダー「びゅびび~、察しがいいな、その通りだ。
荒野のサボテンに姿を変えて、この間抜けな原始怪獣にわざと俺を食わせ……
野郎の体内から、エネルギーをたっぷり補給させてもらったのよ!」
ビーコン「どひ~っ、サラッと言ってるけどエグいっスねぇ!(汗)」
サボテンダー「原始怪獣スフェノドン、お前の役目は終わった。
……ここから先は、このサボテンダー様の花道だ!
千歳の街を地獄に変える、ヤプール超獣の鮮やかな手際を見せてやる!」
宙マン「ぬううっ……この外道め!」
落合さん「そういうところは、いかにもヤプール印ですわね!」
サボテンダー「びゅびびび、何とでも喚け!」
「ははははは……行け、超獣サボテンダー!
全身にエネルギーを蓄えた、今のお前は無敵だ――
大いに暴れ、破壊して、人間どもの絶望と恐怖を捧げよ!」
サボテンダー「びゅびびび~、創造主様、ただちに!」
突き進んでくる異形の巨体を前に、悲鳴をあげて逃げ惑う人々。
サボテンダー「びゅぶぶ……驚けセニョール、おののけセニョリータ!」
サボテンとハリネズミを合成して作り出された超獣サボテンダー。
その口から連射されるのは、一撃でビルをも粉砕する棘針ミサイルである。
直撃を受けた建物が次々に破壊され、みるみる炎に包まれていく千歳の街!
ビーコン「ど、ど、どひ~っ、お助けっス~!(汗)」
サボテンダー「びゅぶぶぶ……
ビバ・超獣! ビバ・サボテンダー! オレ最高~っ!」
ビーコン「どひ~っ、なんか踊っちゃってるっスよ、あの超獣!?」
落合さん「あらやだ、早くも勝利確信しちゃってますの!?」
ながもん「ここは、一発……あなたの、出番……お願い、宙マン」
宙マン「(頷き)おのれ、もう許さんぞ! 宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、荒れ狂うサボテンダーの前に舞い降りる!
宙マン「トゥアーッ! 宙マン、参上!
超獣サボテンダー、お前の野望はここで行き止まりだ!」
ズ、ズーンっ!!
みくるん「宙マンさん……!」
ビーコン「アニキ~、今日も頼りにしてるっスよ~!」
ピグモン「だいじょーぶ、宙マンはぜったい負けないの~!」
サボテンダー「出て来たか、宙マン……わざわざ捻り潰されにな!?」
宙マン「いいや、捻り潰されるのは貴様の方だ!」
ファイティングポーズとともに、敢然と身構える宙マン――
さぁ、今日もまた、世紀のビッグファイト開幕だ!
宙マン「サボテンダー、そう簡単にやられる私じゃないぞ!」
サボテンダー「びゅぶぶぶ、どこからでもかかって来やがれ!」
真っ向激突、宙マン対サボテンダー!
落合さんたちが見守る中、超人と超獣が戦いの火花を散らす。
棘だらけの両腕で、猛然たるパンチ攻撃を仕掛けるサボテンダー。
異次元人の生物兵器・超獣ならではのパワーと相まって、その一発ごとに
「必殺」の言葉が相応しい凄絶な威力が秘められている。
サボテンダー「びゃるるる~、どうしたどうした!
もう少しは強いトコ見せてみろ、骨のあるトコ見せてみろ!」
宙マン「(ニヤリ)いいだろう――リクエストならば、是非もあるまい!」
サボテンダーの連続パンチを受け流し、再びバッと離れる宙マン。
再度、間合いをとって――
宙マン「そぉれっ、これでもくらえ!」
宙マンのストレートキックが、サボテンダーの胸板に命中!
充分に体重が乗ったその威力に、ずずっと後退する超獣。
サボテンダー「(咳こみ)ぐフッ、ゲボッ……!」
宙マン「どうだサボテンダー、正義のキックに怖れをなしたか!」
サボテンダー「びゃるるる……まだだ、まだまだッ!」
サボテンダーの口から吐き出される棘針ミサイル!
連続的に巻き起こる爆発が、宙マンの巨体を大きくよろめかせる。
ズガーン! グワーンっ!
サボテンダー「そおりゃッ! 隙ありだぜ、宙マン!」
「ぐ、ぐわぁぁぁぁ……っ!!」
ヒーローが怯んだ隙を突き、サボテンダーのパンチが炸裂!
その威力に吹っ飛び、ドドーッと倒れ伏してしまった宙マンである。
みくるん「ああっ、宙マンさん!?」
ながもん「これが、超獣……全身、武器の……集合体」
ビーコン「まずいっスよ、これは色々まずいっス!」
落合さん「そんな武器を何度も受けては、いくらお殿様でも……!」
ピグモン「はわわわ、宙マン、まけないでなの~!」
宙マン「(苦悶)う、うう……っ!」
サボテンダー「びゃるるる、最期だ宙マン――
サボテンの花粉みたいに、細かく砕けて風に散れィ!」
「なんの……負けて、なるもの、かァッ!」
宙マン、パワー全開!
サボテンダーの棘針ミサイルを、ジャンプでひらりとかわして大空に舞う。
サボテンダー「(驚き)びゃ、びゃるるるっ!?」
宙マン「行くぞ、サボテンダー!」
「デリャァァーッ!
宙マン・火輪カッター!!」
熱エネルギーを身にまといながら、空中で高速回転し……
自らを炎の刃と化して、敵めがけて突撃する宙マンの荒技。
火輪カッターが、サボテンダーに炸裂!!
サボテンダー「びゅ、ぶぶぶっ……あ、あ、アディオ~スっ!!」
やったぞ宙マン、大勝利!
ビーコン「いえっふ~、さっすがアニキっスねぇ!」
落合さん「今日もお見事でしたわ、お殿様!」
ピグモン「はうはう~、宙マン、かっこよかったの~♪」
ながもん「やっぱり、宙マン……二重丸。……ヴイっ」
みくるん「宙マンさん、ありがとうございました……!」
人々の歓声と勝利が、ヒーローの勝利を讃える一方で――
超獣サボテンダーのエネルギー源として利用され、さんざんな目にあった
原始怪獣スフェノドンはと言えば、宙マンVSサボテンダーのどさくさに紛れて
ほうほうの体で、暗黒星雲まで逃げ帰っていたのであった。
イフ「えぇいっ、スフェノドン、何たる様だ……この粗忽者めが!」
イフ「超獣ごときに利用される失態もさることながら……
ワシや皆にどれだけ心配をかけたか、分かっておるのか!?」
スフェノドン「(ひたすら平伏)グモモモ……申し訳ございませんです、魔王様。
誠にもって、申し開きのしようも……」
イフ「……まぁよい、とにかく今後はこのような事のなきよう……
食い意地に任せて、何でも拾い食いせぬようにするのだぞ。
しっかり胃薬を飲んで、今はゆっくり休むがよい!」
スフェノドン「は、ははァーッ! 有難き幸せ!」
イフ「ぐぬぬ、それにしても……
宙マンもさることながら、許し難いのはあのヤプールよ。
ワシらの神経を逆なでするような、小賢しい立ち回りばかりしおって――
今に貴様にも、目にもの見せてやらねばなるまいて!」
……と、そんな怪獣軍団内でのやり取りはさておいて。
かくして我らが宙マンの活躍により、恐怖の超獣サボテンダーは倒され
千歳市は、再び秋の平穏を取り戻したのであった。
落合さん「改めて……お疲れ様でした、お殿様!」
宙マン「いやぁ、一戦終えてほっとしたら、例によって……」
ながもん「おなか、すいて……きちゃった?」
みくるん「わかりますぅ、実は私たちもなんですよね」
ピグモン「宙マンを応援して、はらはら・どきどきしてたら……
ピグちゃんたちも、つられておなかペコペコなの~」
落合さん「(頷き)でしたら、少し早目に夕飯の支度を致しませんとね。
腕によりをかけまして、お殿様に美味しいクリームシチューをば!」
ビーコン「うひょひょ、シチューいいっスよねぇ、クリームシチュー!
濃厚で、とろっとして、ついでに白濁してて……
ヒヒヒ、オイラのとどっちが旨いっスかねぇ?~」
落合さん「…………!(ぶ ち っ)」
げ し っ !
落合さん「仰っている意味はさっぱり判りませんけれど……
とにもかくにもお仕置きです、断固お仕置きっ!!(怒)」」
ビーコン「どひ~っ、何と言うカマトトっスかぁぁ~!?」
宙マン「はっはっはっはっ」
怪獣・怪人・異次元人、敵はいろいろ多いけど……
この平穏こそが、宙マンにとっての「栄光」。
さて、次回はどんな活躍を見せてくれるかな?