光あるところに、影がある。
宇宙でも、我々の住む地球でも、それは変わらない。
宇宙に漂う無数の星々・その輝きの影では、大小さまざまな「悪」の存在が
今この瞬間にも、己が胸中に秘めた恐るべき野望を現実のものにしようと
不気味な胎動を繰り返し続けているのだ。
そんな「悪」のひとつ……
本シリーズの読者諸氏には、もはや説明不要であろう怪獣軍団。
彼らは毎度毎度、宙マンに配下の怪獣を返り討ちにされる一方で
地図にも載らぬ孤島に、秘密の地下工場を築いていたのであった。
そして、その秘密工場において――
地球侵略の切り札とも言うべき、恐るべき超兵器が完成し
密かに出撃の時を待っていたのであった!
イフ「さぁ、今こそ時は来た!
ワシら怪獣軍団が、地球の支配者として君臨するときは遂に来たぞ!」
不気味な緊張感を湛えた、秘密工場の施設内。
響き渡る声はもちろん、暗黒星雲の怪獣魔王・イフのものだ。
イフ「我が怪獣軍団の栄えある幹部候補生、バルタン星人Jrよ……
そのための支度は、既に整っていると言う解釈でよいのだな!?」
「無論でございますとも、魔王様!」
怪獣魔王からの問いに、自信満々の口調で答えたのは……
若きエリートとして将来を嘱望される、怪獣軍団の幹部候補生。
そしてこの秘密工場の総指揮者、バルタン星人Jrである。
バルタン星人Jr「フォッフォッ……
この僕・バルタン星人Jrの持てる科学力と技術力の全てを結集した破壊の申し子、
地球侵略の……まさに、決定版です!」
イフ「うむっ、何とも頼もしいことよ――」
イフ「これまでの貯金を崩し、今夏・今冬の特別賞与を返上してまでも
此度の超兵器開発に全てを賭け、取り組んできたお前の執念。
……それが今、まさに実を結んだわけだな」
バルタン星人Jr「(頷き)宙マンの奴には幾度も煮え湯を呑まされました。
もはや、恨みは骨髄にまで達しております――」
バルタン星人Jr「そして、その恨みをまとめて叩き返す……
その手段もこうしてここに整いました以上、僕の第一の攻撃目標とすべきは
北海道の空の玄関・千歳市をおいて他にはございません!」
イフ「ううむっ、よくぞ申した、その通りじゃ!」
イフ「そしてそれも、今のワシらにとっては容易いことじゃ。
バルタン星人Jr、お前の頭脳と執念の結晶……
この素晴らしい新兵器があるからには、な!」
バルタン星人Jr「フォッフォッフォッ……!」
バルタン星人Jr「我が新兵器の威力、暗黒星雲よりご照覧あれ――
その上で、輝かしい吉報をお待ちください、魔王様!」
イフ「うむっ、勇んで行くがよい、我が栄えある幹部候補生よ!」
ああ、またしても千歳に迫る魔の手。
バルタン星人Jrの新兵器は、これからどんな騒動を巻き起こすであろうか!?
が、ひとまずそれはそれとして――。
場面変わってこちらはお馴染み、北海道千歳市。
怪獣軍団の恐ろしい毒牙が、すぐそこまで迫っているとは露知らぬこの街は
12月のこの時期に相応しい、賑やかなクリスマスムード一色に染まっていた。
寒いながらも華やいで賑やかな、そんな千歳の街へ買い出しに来ていたのは
これまたお馴染みコロポックル姉妹と、落合さん&ビーコンの極楽コンビ。
みくるん「うふふっ、これで必要なものはぜ~んぶ揃ったね~。
あとは帰ってから、お料理の準備と飾りつけ!」」
ながもん「今夜が、本番……大いに……張り切るべし」
みくるん「きっと……ううん絶対、今年も楽しいパーティになるよね!」
ながもん「……(頷く)」
ビーコン「あー、ちょっと待ったっス、お二人さん。
まだひとつ、いちばん大事な買い物を忘れてるじゃないっスか!」
みくるん「ほにゃっ、まだ何かありましったっけ?」
ながもん「特に……買い忘れは……なかった、はず」
ビーコン「チチチ、まだ手に入ってないっスよ、一番大事なモンが!
ズバリそれはっスね、本日発売の「2021年ギャルゲー大鑑」……」
落合さん「はいはーい、ビーコンさんの戯言は例によってサラリと流しまして。
さぁ皆様、急いで帰ってパーティの準備を進めましょう!」
ビーコン「ちょっ、落合さん、なんたる暴言っスか!
そんなにオイラのことが嫌いっスか、信用できないんスか!?」
落合さん「(鼻で嗤い)クックックッ、判り切ったこと聞かないで下さいな♪」
ビーコン「あーっ、なんたる嘲笑! オイラめっちゃ傷ついたっスよ!?
こうなったら精神的慰謝料代わりに、落合さんへのセクハラ権を主張……」
げ し っ !
落合さん「ねーい! 却下です、速攻却下っ!(怒)」
ビーコン「どひ~っ、宇宙最高裁もびっくりのスピード判決っスね~!?
……どっこい、オイラはそれしきでは諦めねっス!」
落合さん「んまぁっ、往生際の悪い! まだやるおつもりですの!?」
ビーコン「ヒヒヒ、そうじゃなきゃ読者のよい子ちゃんたちが納得しないっス~☆」
落合さん「このエロ怪獣はっ、いけしゃあしゃあとよくもまあ!
だったら私も、「殺る気」全開で対抗するまでです!」
ビーコン「なんの! だったらオイラだって――」
「…………あのー」
ビーコン「……うン? なんか言ったっスか、ながもんちゃん?」
落合さん「ながもん様、申し訳ありませんが後にして頂けませんか。
今は何より、目の前のこの障害を片付けないことには――」
ながもんそっちのけで、極楽コンビがとことん不毛な口論に戻ろうとした時。
そう、まさにその時である!
ズゴゴゴグワーンっ!!
おお、見よ! 驚愕せよ!
何の前触れもなしに突如、落合さんたちの背後に上がった巨大な火の手!
落合さん「きゃ、きゃあああっ!?」
ビーコン「ひぇぇ~っ、ど、どうなってんスかぁ!?」
ながもん「だから……そう言おうと……してたんだけど。
何か、飛んできたから……気をつけて……って」
ビーコン「(涙目)もう遅いっスよ~!」
みくるん「た、大変ですぅ! 早く宙マンさんに知らせなくちゃ……」
「それには及ばないよ。私ならここだ!」
息せき切って駆けつけてきたのは、ご存じ我らが宙マンとピグモン。
時ならぬこの騒ぎに、落合さんたちの安否を気遣って家を飛び出してきたのだ。
落合さん「ああっ、良いタイミングでいらして下さいました、お殿様!
ご説明の必要……は、どうやらなさそうですわね」
ビーコン「あーもう、見ての通りっスよ、アニキ!(汗)」
ピグモン「はわわわ、大変なことになっちゃってるの~」
宙マン「ううむ、これは一体……!?」
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ……
顔を見合わせた宙マンたちの頭上から……
突如として響き渡ってくる、耳をつんざくような爆音!
ながもん「(ボソッと)……あっ。……あれ……」
みくるん「ふぇぇ、なんかこっちへ飛んできたですぅ!(涙目)」
ビーコン「どひ~っ、なんか来ちまったっスよぉ、バカでかいのが!(汗)」
落合さん「飛行機……」
宙マン「……いや、ロボットか!?」
千歳市の上空に、突如として顕現した巨機は――
まさに「顔のある爆撃機」としか形容しようのない異形のメカニック。
「フォッフォッフォッフォッ……
名付けて爆撃獣・グロイザーEXE!」
そう、これこそ怪獣軍団の超兵器。
幹部候補生・バルタン星人Jrの総力をあげて秘密工場で建造された
破壊と殺戮の申し子、「爆撃獣」ことグロイザーEXE(エグゼ)であった!
バルタン星人Jr「千歳市民よ……そして全ての地球人たちよ、聞くがいい!
今日までの無駄な抵抗、ご苦労だったね――だが、それも今日限りだ。
この僕の科学力の結晶、爆撃獣グロイザーEXEの素晴らしい威力をもって
地球制圧の手始めに、まずはこの千歳を焼け野原に変えてやろう!」
次の瞬間、グロイザーの胴体下面ハッチが開き、そこから地上へ向けて
無数の爆弾が投下されていった!
次々に巻き起こる爆炎! 次々に砕け散る高層ビル!
グロイザーEXEの恐るべき空襲に晒され、なすすべもなく逃げ惑う人々。
ビーコン「どひ~っ、なんたる勝手な言い草、強引な行動っスか!?」
落合さん「らしいと言えばらしいですけどね。悪党の常套ですわ!(呆)」
みくるん「そんなコト言ってる場合じゃないですぅ、早く逃げなきゃ!(汗)」
飛来早々、いきなり絶対的パワーを見せつける爆撃獣グロイザー。
その猛威を阻まんものと、航空防衛隊が果敢にスクランブルをかけた。
「ようし……全機、一斉攻撃開始っ!」
雨あられと叩きこまれる、戦闘機隊のロケット砲攻撃!
それらの直撃を受けても、全くびくともしないグロイザーEXEの超重装甲。
バルタン星人Jr「フォッフォッフォッ……無駄なあがきって言うのはこの事さ。
格の違いを教えてあげよう、タキオン光線発射!」
「……う、うわぁぁぁ~っ!」
グロイザーEXE頭部の二本角から、まばゆく迸るタキオン光線!
その強大な破壊力の前に、一機、また一機と撃墜され……
航空防衛隊の戦闘機編隊も、またたく間に全滅させられてしまう。
ピグモン「ああっ、防衛隊のヒコーキがやられちゃったの!」
ビーコン「とんでもないっスよ、力の差が圧倒的すぎるっス!(汗)」
宙マン「……むうっ、なんていう奴だ!」
次は地上へと向けて、タキオン光線を連射するグロイザーEXE。
その直撃を受けた地上の建物が、次々に破壊され、消し飛んでいく。
爆発! 炎上!
燃え盛る炎の向こう側に、悪魔のごとき爆撃獣の威容がゆらめいている。
みくるん「ふぇぇ、これじゃホントに、クリスマスどころじゃなくなっちゃいますぅ~」
ながもん「こんなとき……頼りになるのは……あなた、だけ」
ピグモン「宙マン、宙マン、なんとかしてなの~(涙目)」
宙マン「おのれ、もう許さんぞ! 宙マン・ファイト・ゴー!!」
まばゆい閃光を放って、みるみるうちに巨大化する宙マン。
巨大なる頭上の脅威、グロイザーEXEへと向けて敢然と顔を上げる!
バルタン星人Jr「フォッフォッ……出たな、宙マン。
この僕のグロイザーEXEを怖れない、命知らずの大馬鹿者!」
宙マン「黙れ、バルタン星人Jr!」
宙マン「みんなの迷惑を顧みず、危ないおもちゃを振り回す……
どうやら今日と言う今日は、うんとキツいお灸が必要なようだな!」
バルタン星人Jr「フォッフォッ、遺言として聞いておいてやる!」
ビーコン「ああっ、アニキ……大丈夫っスかねぇ!?」
落合さん「信じましょう。……お殿様が、決して負けるはずありませんわ!」
ピグモン「宙マ~ン、がんばってなの~!」
宙マン「ああ、判っているとも――
千歳のみんなのクリスマスを、あんな悪党に踏みにじらせはしないッ!」
怪獣軍団の幹部候補生、バルタン星人Jr……
その科学力の粋、爆撃獣グロイザーEXE!
我らが宙マン、いかに打ち勝つか!?