宙マン「トゥアーッ! 宙マン、参上!
千歳の平和を乱す怪獣め、それ以上やるなら容赦しないぞ!」
みんなの笑顔を守るため、今日も戦う我らが宙マン。
今日の相手は、宇宙時代の「鵺」とも言うべき奇怪なスタイルの
液体怪獣・タイガンだ!
タイガン「ごんぐぉぉ~っ、大口など叩きゃあがって……
まさか、このタイガン様に勝てるつもりじゃあるめぇな!?」
宙マン「ああ、勝てる戦いから逃げる理由はどこにもないからね!」
タイガン「(歯噛みして)……ぐぬぬっ、抜かせや!」
ファイティングポーズとともに、敢然と身構える宙マン――
さぁ、今日も世紀のビッグファイト開幕だ!
かくして、ここに……
真っ向から激突する、宙マンと液体怪獣タイガン!
力と技と超能力、巨体に秘められたポテンシャルをフルに動員して
千歳の大地を揺るがす戦いが、ダイナミックに展開される。
そんな激闘……死闘……超人戦の果て……
宙マン「くらえ! 宙マン・エクシードフラッシュ!!」
全身のエネルギーを極限まで凝縮して放つ、虹色の必殺光線……
エクシードフラッシュの一閃が、タイガンを直撃!!
タイガン「ごんぐぉぉ~っ、結局こうなっちゃうのねぇぇ~っ!?」
ボヤキにも似た絶叫とともに、吹っ飛ぶタイガン。
正邪の戦いを制したのは、やはりヒーローの超パワーであった。
やったぞ宙マン、大勝利!
が――
とりあえずそれは、今回のお話とは何の関係もない。
我らの宙マンが、液体怪獣タイガンを下してから三日後。
数百万光年の距離を、空間転送によって一瞬のうちに飛び越えて
暗黒星雲の彼方から、また一人の宇宙人が地球にやって来た。
「グロロロロ……っ♪」
一瞬のうちに空間を跳躍し、札幌市の中心部へ忽然と姿を現した
怪獣軍団の幹部候補生たる「ダークネスファイブ」の和み枠……
デスレ星雲人、“炎上の”デスローグ。
地球侵略の任務ではなく、あくまでプライベートでの飛来と言うことで
いつもの彼の唸り声にも、どこかウキウキとした響きが感じられるのは
果たして筆者の考え過ぎであろうか?
……否、そうではないことは、ここからすぐ明らかになる。
「……あ、いたいた。
デスローグさぁ~ん、どうもこんにちは~!」
デスローグ「(嬉しそうに)ごっ、ごっ……♪」
デスローグの到着から少し遅れて現れたのは、彼が休暇のたび
足しげく通い詰めている、手打ちそばとかき揚げに定評のある
千歳の蕎麦屋の看板娘。
あぁ、もうこれ以上の説明は不要であろう――
今日はこの二人、札幌にてデートの約束をしていたのである。
「無料講演会の先生のお話が、予定より長引いちゃって……
ごめんなさい、お待たせしちゃったでしょう?」
デスローグ「(首を横に振って)ごっ、ごっ」
「ありがとう。相変わらずお優しいんですね、デスローグさん」
デスローグ「グロロ、グロロロっ」
「はい。……それじゃ、行きましょうか!」
二人並んで、仲睦まじく……
札幌の街を歩き出していく、デスローグと蕎麦屋の娘。
そして、そんな彼らの様子を――
二人に気付かれないよう一定の距離をとりながら、空中に浮かび
撮影・中継している、不気味な小型監視メカの存在があった。
監視メカからの映像に目を光らせている「黒幕」とはいかに!?
「んー、ふふふふ……快調、快調!」
……と言う笑い声だけで、もはや答え合わせは不要であろう。
怪獣軍団の幹部候補生たる「ダークネスファイブ」のリーダー格、
メフィラス星人“魔導の”スライである。
ジャタール「おいおい、スライよ……
これはお前、いくらなんでもやり過ぎじゃないのかぁ?」
イフ「そうだぞスライ、休暇中のデスローグを尾行するなど……
仲間内の信頼にも関わってくるとは思わんのか!」
スライ「んー、ふふふ、何を仰いますやら、魔王様!」
スライ「デスローグが休暇の度、千歳市内の蕎麦屋に足を運ぶのは
ただ単に評判の手打ちそばとかき揚げを味わうためのみならず
他の理由があること、既に明明白白!」
イフ「それが、あの娘だと……?」
スライ「流石は魔王様、ご明察」
スライ「今はまだ、中高生男女レベルの清い交際に見えますが……
仮にこの娘がとんでもないアバズレで、爛れた男女関係に発展したり
純粋なデスローグを誑かして遺産相続を狙っているとしましたらば
デスローグばかりか、軍団の屋台骨をも揺るがしかねません」
ヴィラニアス「おいおい、穏やかじゃなくなってきたな……!」
スライ「故にこそ、他でもない怪獣軍団のため……
あの娘がデスローグに相応しいかどうか、公平な第三者の目で
しかと見極めておく必要があるのです。
ま、言うなれば親心ですな、親心!」
イフ「むむっ、道理と言えば道理だが……」
グロッケン「……何か、上手く誤魔化されてる気もするなぁ!?」
スライ「んー、ふふふふ、気にしない気にしない。
とにかく大いに楽しみ……もとい、しっかり監視しましょう。
……おやおや、あの二人、狸小路へ行くようですよ!」
イフ「(身を乗り出し)おおっ、あの有名な!?」
……などと、暗黒星雲の懲りない面々が、監視メカの映像を肴に
楽しく盛り上がっているとは露知らず。
のんびり、そぞろ歩きを楽しんでいる最中であった。
足の向くまま、気の向くまま……
季節の風を肌に感じながら、札幌の街をぶらぶら歩いて回る。
折しも札幌・狸小路商店街では、アーケードを華やかに彩った
“狸まつり”の真っ最中であった。
鮮やかな装飾が目に楽しい綺麗なアーケードを往きつつ……
道の両端に軒を連ねる店舗を、あちこち見て回るのも一興。
気のおけない同士であるならば、その楽しさもひとしおである。
デスローグ「……グロロロッ?」
「あ、ランチですか……いいですね。
実は私、お昼ごはんがまだだったので……
ちょうど、お腹すいてたところだったんです♪」
デスローグ「(優しく頷き)グロロ、グロロロっ」
そんなわけで、適当な店に入り……
ランチメニューに舌鼓を打つのも、またデートコースの大定番。
羽毛布団のように柔らかく、じゅわりと肉汁が滴る和牛ハンバーグと
ざっくり力強くもとろけるような噛みごたえの和牛ステーキ。
今回二人が味わったのは、その二つを一度に味わえてしまうという
何ともゴージャスな丼ものであった。
「食感が違うから、食べ比べって言うのも楽しいですよね。
あー、美味しかった、ごちそうさまですデスローグさん!」
デスローグ「……」
デスローグ「ごっ、ごっ」
「……えっ?」
「おかしなデスローグさん……急にそんなこと仰るなんて」
デスローグ「……ごごっ」
「楽しませてもらってます、楽しくないわけないじゃないですか。
だって、デスローグさんがわざわざ誘ってくれて……
デスローグさんと一緒の、札幌歩きなんですから」
「(ぎゅっ)うふふっ、ほら……ねっ?」
デスローグ「(嬉しそうに)ぐろ、グロロロッ……♪」
「っがー、なんじゃありゃ! 青春か! 青春なのか!?」
「ラブラブ過ぎて、ハチミツの海で溺れちまいそうだぜ!」
「(身悶えして)あーもう、初々しい、初々しいッ!」
とまぁ、そんな感じの楽しい札幌デートであったのだが。
楽しい時間ほど、過ぎてゆくのはあまりにも早く……
同時に男女の逢瀬には、ひとまずの別れがあるのも世の定め。
「デスローグさん、もう……
もう、お帰りになっちゃうんですか……?」
デスローグ「(静かに頷き)……グロロッ」
「そんな、もう少しゆっくりしていっても……」
デスローグ「ごっ、ごっ」
「(苦笑)そっか、そうですよね……
ごめんなさい、急にワガママ言ったりして。
今日は本当に楽しかったです、ありがとうございました!」
デスローグ「グロロロッ……♪」
蕎麦屋の娘に、優しく手を振って……
空間転送で、夕焼けの街へ溶け込むように消えて行くデスローグの姿。
「はいっ、またね、です。……
またいつも通りにお店で待ってます、デスローグさん!」
「っか~、全く……アテられっぱなしだったぜェ!」
「でもまァ、アレだ。
デスローグさんの「お相手」が、イイ子でホントによかったぜ」
「清く正しい交際じゃねェの。なァ、スライの旦那?」
スライ「んー、ふふふ、それならそれで大いに結構!
ですが……
我々のささやかな娯楽と、日々における一服の清涼剤として
これからも監視と尾行は定期継続する方向でひとつ……」
ヴィラニアス「だーっ、コイツ! とうとう本音出しゃがった!」
ジャタール「尤もらしい理由つけて、要は覗き見と出歯亀かよっ!」
イフ「こらこらスライよ、それは度が過ぎるぞ!?
それ以上は、流石にワシも黙って見過ごすわけには……」
「……グ ロ ロ ロ ロ ッ」
スライ「……へ?
“いえいえ、魔王様のお手を煩わすまでもありません”と。
(気づいて)……って言うか、そ、その声は~っ!?」
デスローグ「……(ジト目)」
スライ「ま……待って待って、どうぞお待ちを!
デスローグ君、まずは冷静にね、穏やかに話し合いを……」
デスローグ「……グロロロロぉぉーっ!!」
シュバババババーンっ!
話せば分かる?……否、否、もはや問答無用!
デスローグの発火念力が、スライの胸板めがけて炸裂した。
スライ「(目を回し)ハンニャラ、ヒ~っ……」
デスローグ「(プリプリ怒って)グロロ、グロロロ……っ!」
自業自得とはいえど……とりあえずは、合掌。
笑顔の絶えない、明るい職場。
がんばれ怪獣軍団、勝利は目の前だ!!
……たぶん……おそらく……いや、きっと。