地球から遠く離れた大宇宙、渦巻く暗黒星雲の奥深く……
そこに、恐るべき怪獣軍団の本拠地はある。
今、その怪獣軍団本拠にて、ズラリと揃った配下の怪獣・宇宙人を前に
怪獣魔王・イフの訓示がなされようとしていた。
イフ「皆の者、よく聞くがよい!
今年もまた、この時が訪れた――」
イフ「そう、毎年恒例!
我が怪獣軍団のクリスマスパーティである!!」
と、そんなわけで……
今回の『宙マン』は、クリスマスにまつわるお話。
毎年この時期、怪獣軍団では忘年会も兼ねてのクリスマスパーティーを催して
飲めや食えや、歌えや騒げやの大変な賑わいぶりを見せるのであった。
……と言うのは、本シリーズの読者諸氏ならば既にご承知おきの通り。
イフ「ワシらの悲願、地球征服の野望を達成するためにも……
今夜はひとつパーッと騒いで、一年の憂さを綺麗に吹き飛ばしてしまうのだ。
我が精鋭なる怪獣どもよ、既に全員揃っておろうな!?」
「はい、魔王様! 発言してもいいですか~?」
イフ「うン? どうした?」
「はい、実は……ギエロン星獣の姿が、どこにも見当たらないンですよねぇ~」
イフ「……なンだと!?」
イフ「我が軍団のクリスマス会は全員参加が原則……
欠席するなら事前に届け出るようにと、あれほど言っておいたではないか!
これからパーティーの準備で忙しいと言うに、奴はどこへ行った!?」
「い、いや、俺たちに言われても……(汗)」
まさか準備をサボって、ご馳走だけ食べる魂胆ではあるまいな!?」
怪獣どころか猫の手も借りたいほどの、パーティー準備の忙しさ……
にも関わらず配下が一匹姿を見せないことで、すっかりおかんむりの怪獣魔王。
では、姿の見えないその配下……ギエロン星獣は、一体どこへ行ったのか?
今まさにギエロン星獣は、暗黒星雲を飛びたち宇宙空間を突き進んでいた。
その目指す先は――我々の住む太陽系第三惑星、美しい水の星「地球」だ!
地球を目指し、一直線に宇宙を飛んでいくギエロン星獣。
猛禽類を思わせるその巨体は、果たして何をもたらすであろうか!?
……と、まぁ、ひとまずそれはそれとして。
怪獣軍団がそうなのだから、地球だってどこもかしこもクリスマスムード。
もちろんここ、北海道千歳市も例外ではない。
あちこちから聞こえてくるのは、この時期ならではのクリスマスソング。
きらびやかなデコレーションに彩られ、街全体がウキウキ楽しく弾んで見える。
そんな千歳市の一角・ほんわか町5丁目、毎度お馴染み「宙マンハウス」でも
例年同様、クリスマスパーティーの準備が慌しく行われていたのであった。
みくるん「さぁ、焼けましたよぉー!」
ながもん「おお、ミートパイ……美味しそう……じゅるりっ」
宙マン「いやぁ、私は毎年みくるんちゃんの作ってくれるコレが楽しみでね!」
みくるん「ちょっ、ダメですよぉ、つまみ食いは!(汗)」
熊澤さん「そうそう、食べていいのはパーティー本番になってから!」
宙マン「はっはっはっ、いやぁごもっとも」
こんな感じで慌しくも賑々しく、パーティーの準備は進んでいく。
そしてちょうど今、「買い出し班」として街に出かけていた落合さんとビーコンの
お馴染み「極楽コンビ」が、用事を済ませて家に戻ろうかと言うところであった。
落合さん「さぁ、主だった物の手配は完了致しましたわ。
あとはこの落合が、厨房にて心おきなく料理の腕を奮うばかり――」
落合さん「と言うわけで、急いで帰りますわよビーコンさん!」
ビーコン「おっと待った! まだ肝心なトコロをひとつ忘れてるっスよ!」
落合さん「あら、何処ですの?
ナムプラーもライスペーパーも紙コップも、全部購入済みですのに」
ビーコン「ヒヒヒ、玩具屋っスよ、お・も・ちゃ・や!」
落合さん「……はぁ!?」
ビーコン「大手のチェーン店だろうと、個人経営の小さな店だろうと……
しっかりマメに探せば、まだまだ掘り出し物は見つかるものっスよ。
それを安く買い叩いて、ネットで高く転売してボロ儲け……
……って落合さぁん! なんで一人で行っちゃおうとするっスか!?」
落合さん「(バッサリ)聞くだけ無駄な案件ですから!」
ビーコン「いやいやいや~、そいつァ早計ってもんスよ、落合さん。
儲けが出たら、ちゃんと落合さんにも何%分かの分け前くらいは……」
落合さん「(呆)そういう事を言ってるんじゃありませんっ!……」
宙マン「……やれやれ。
帰りが遅いから見に来たら、あの二人は案の定あの調子かね!」
ピグモン「はうはう~、仲のいい証拠なの~。
あれは日課みたいなものだから、黙ってほっとくのが一番いいの~」
宙マン「(苦笑)……ま、それしかないだろうねぇ」
宙マンとピグモンさえ、とっくに収拾を諦めて久しい極楽コンビの痴話喧嘩。
このまま実のない悪罵と戯言の応酬が、際限なく続くかと思われた時……
全く予期せぬところからの「ツッコミ」が、場の空気を一気にひっくり返した!
ズゴゴゴグワーンっ!!
おお、何と言うことだろう!?
何の前触れもなく突然、落合さんたちの背後で大爆発が起こる。
しかも大爆発はそれだけにとどまらず、街のあちこちで連鎖的に……!
ビーコン「ど、ど、どひ~っ!!」
落合さん「い、一体何がどうなってますの!?」
宙マン「ううむッ、これは只事じゃないぞ!」
ピグモン「はわわわ、ピグちゃんおっかないの~(涙目)」
ながもん「きっと……恐らく……アレの、せい」
みくるん「アレ?……ねぇ、アレって一体――」
ビーコン「……そ、空からっスか!?」
「グワッガァァ~ッ!!」
耳をつんざく咆哮とともに、千歳上空に飛来してきた巨体。
それは宇宙を一瞬で飛び、暗黒星雲から地球へと到達したギエロン星獣だ!
みくるん「(怯えて)か、怪獣っ!」
ながもん「(頷き)あれは……再生怪獣・ギエロン星獣」
宙マン「故郷の星を失った流れ者が、怪獣軍団の仲間入りってわけか……!」
ズ、ズーンッ!
天空から舞い降り、一面の銀世界となった地上に立つギエロン星獣。
その衝撃と重量が、凄まじい地響きとともに分厚い雪を四方に飛び散らせる。
みくるん「(涙目)ふぇぇん、来たぁ、来ちゃったですぅ!」
ピグモン「どうしようなの、クリスマスがめちゃくちゃになっちゃうの~」
宙マン「……まさか、その為にわざわざ暗黒星雲から来たと言うのか!?」
ギエロン星獣「グワッガァァ~、まさかも何も、そのものズバリよ!
今日を限りに、みんなが浮かれ騒ぐクリスマスは永久終了だ――
俺はその事を告げるために、宇宙からやって来た地獄の使者だぜ!」
ビーコン「く、クリスマス終了の……お知らせ……!?」
落合さん「間抜けと言えばよいのか、それとも普通に怖がってよいのやら……」
宙マン「ギエロン星獣よ!
クリスマスは、みんなが楽しみにしている年に一度のイベントなんだ。
なのにどうして、そんな酷いことをしようとするんだ!?」
ギエロン星獣「……えぇい、お前っ! 俺の口からそれを言わせたいのか!?」
宙マン「いや、聞かなきゃ事情が分からないもんで……」
ギエロン星獣「……あぁ、いいだろう、だったら聞かせてやる!
あれは三日前のこと、年末の合コンでメチャ可愛い女の子と親しくなって
ようやくデートの約束まで取り付けられるか、と思った矢先……」
「えっ、ギエロンさんって“星獣”だったんですか?
それにしては……
ギンガマンのお仲間と違って、全然カッコよくないんですね。ぷぷっ♪」
ギエロン星獣「……なーんて鼻で笑われて、淡い恋が淡いままで潰えたときの
あの悔しさ、みじめさ、やりきれなさっ!(泣)
お前に、お前らに、俺の切ない胸の内が分かるっていうのか!?」
宙マン「ううむっ、どこかで聞いたような展開……」
落合さん「(頷き)……どこかで聞いたシチュエーション、ですわね!」
ギエロン星獣「うるせーうるせー、バッキャロー!
とにかくクリスマスは、今年で俺が永久に終了させてやる――
俺がこんなにも切ないのに、どいつもこいつも無駄に浮かれやがって!」
宙マン「おいっ、こらこら、ちょっと待……うわわっ!?」
ピグモン「はわわわ、こっち来てるの~!」
ビーコン「ど、どひ~っ!
理由はセコいのに、威力が無駄に大きくて困るっスね~!」
落合さん「いいから、この場は早く逃げるんですっ!(汗)」
悲鳴をあげて逃げ惑う千歳の人々を追い散らし、憎悪と嫉妬に身を委ね
切れ長の目をギラギラと血走らせながら進撃を開始するギエロン星獣。
両手の爪がスパークし、リング状の破壊光線が発射された!
見よ! ギエロン破壊光線、その怖るべき威力を!
直撃を受けたビルディングが、一撃のうちに粉砕されて四散したではないか。
落合さん「……って、変な煽り方なさらないで下さい、ナレーターの方っ!」
ビーコン「ひぇぇ、これマジでシャレんなんないっスよ~!(汗)」
ゾネンゲ博士「魔王様! ギエロン星獣の行方が判りました――地球です!
もっか、北海道の千歳市で大暴れしている真っ最中でございます!」
イフ「うゥヌッ、あやつめ……どこまでも勝手な真似を!」
爆発! 炎上!
紅蓮の焦熱地獄と化した街の中で、憎々しくも楽しそうなのはギエロン星獣。
ギエロン星獣「ピンポン、パンポ~ンッ! 全世界の皆様にお知らせします。
楽しいクリスマスは、今年を最後に終了する事が決まりました~!」
ビーコン「どひ~、あんなコト言ってるっスよ、アイツ!」
ながもん「でも、このままじゃ……ほんとに……そうなる」
ピグモン「はわわ……宙マン、宙マン、なんとかしてなの~」
宙マン「おのれ、もう許さんぞ! 宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、荒れ狂うギエロン星獣の前に舞い降りる!
宙マン「トゥアーッ! 宙マン、参上!
それ以上みんなに迷惑をかけるなら、この私が黙ってはいないぞ!」
ズ、ズーンっ!!
ギエロン星獣「グワッガァァ~ッ、出やがったな宙マン!」
宙マン「いい年をして自制が効かず、みんなに迷惑をかけて恥じない無法者。
クリスマスを守るためにも、お前のような奴は打ち倒してやる!」
ギエロン星獣「グワッガァァ~ッ、ほざくな!」
ファイティングポーズを取り、敢然と身構える宙マン。
さぁ、今日もまた、世紀のスーパーバトルの幕開けだ!
宙マン「行くぞっ!」
ギエロン星獣「しゃら臭ェッ!!」
激突、宙マン対ギエロン星獣!
落合さんたちがハラハラと見守る中、またしても凄絶なる巨大戦。
カッターのように鋭利な二枚の羽を打ち振り、接近戦を挑んでくるギエロン。
その切っ先をかいくぐりながら、宙マンもギエロン星獣の内懐に入り込んでいき
有効打のダメージを叩きこむべく、果敢に挑みかかっていく。
宙マン「どうにかして、奴のボディに一撃入れることさえできれば……」
ギエロン星獣「グワッガァァ~、バァカ! そんな隙をくれてやるもんかよ!」
バシッ! バシバシバシッ!
鋭利に磨き抜かれた両翼に、太陽光を反射させるギエロン星獣。
カメラのストロボを思わせるその閃光に、思わず目がくらむ宙マン――
そこに生じた隙を逃さず、ギエロンの口から黄色い霧が勢いよく吐き出された!
ピグモン「ああんっ、宙マン!」
落合さん「あれは、まさか……」
ビーコン「ど、毒ガスっスかぁ!?」
ながもん「(頷き)宇宙の……有害成分が……いっぱい」
宙マン「(苦悶)ゲホ、ゴホッ……うう……うっ……!」
ギエロン星獣「グワッガァァ~ッ、俺の威力を思い知ったか!?」
恐るべきはギエロン星獣の嫉妬パワー。
果たして今年のクリスマスパーティーは?
そして、窮地に立たされた宙マンの運命は!?