山を砕き、海を蹴散らし、地鳴りとともにやって来る……
怪獣、怪獣、大怪獣。
だが、怪獣軍団の真の恐怖は、圧倒的な破壊力だけではない。
時にひっそりと市井の中に身を潜め、何食わぬ顔をしながら
攻撃の機会を伺う抜け目のないずる賢さもまた、我々の平和を
根底から脅かさずにはおかないのだ。
そして、ここにもまた……
怪獣軍団の恐るべき使者が既に潜伏していたのであった。
北海道千歳市郊外の、とある廃屋の中……
もはや誰も気に留めず、足を運ぶ者とていない場所。
だが、中に一歩足を踏み入れると、まるで時が止まったような
不可思議な空間が広がっていたのである。
ある意味では好事家垂涎と言えなくもない骨董屋あと。
その膨大にして雑然たる所蔵物……全国から収集したのであろう
年代物のこけしが飾られた一角に、彼は「いた」。
彼はもう、かれこれ一年半も前から北海道千歳市への潜入を果たし
こけしの姿になって、この骨董屋あとの廃屋に身を隠しながら
来たる指令の時を待っていた。
そう……ずっと、ずっと。
ずっと我慢強く、その時を待ち続けていた……のであったが。
「ぐ、うぐぐぐぐっ……
流石にそれも、限界だぁぁ~っ!!」
「グヒュヒュヒュ~っ!」
こけしの眼が不気味に光り……
次の瞬間のメタモルフォーゼとともに、その正体を現す。
そう、彼こそは人形怪獣・キンダーであったのだ!
ピグモン「あっ、なんか出てきたの――怪獣なの!」
ビーコン「う~ん、めっちゃ唐突に出てきたっスね~!」
落合さん「まぁ、唐突なのは毎度のことですけれど……(汗)」
キンダー「……グヒュヒュヒュ、どうだ~、この迫力!
俺は怪獣軍団の一員、人形怪獣キンダー様だぞ!」
宙マン「ううむっ、そしてやっぱり……怪獣軍団か!」
「あれっ、アイツ、久々に見た気がするなぁ――」
「って言うか、マジで久しぶりじゃねぇ!?」
……と、言う具合に。
キンダー出現でざわついたのは、怪獣軍団もまた同様であった。
イフ「うむっ、確かに皆の言う通りじゃ。
……キンダーよ、今までどこで何をしておった!?」
キンダー「グヒュ~、どうもこうもないですよ、魔王様!」
キンダー「そもそもは“魔導の”スライの旦那の指示で……
宙マンをやっつける必殺の罠をかけるから、協力しろって
話をもちかけられたのが、かれこれ……そう、一年半前」
キンダー「んで、指示通りにこけしに変身して廃屋に隠れてたら……
それから今日までずーっと、何の音沙汰もありゃしない!
で、流石にしびれが切れて……」
イフ「……出てきてしまった、と言うわけだったのだな。
これ、その辺りはどうなのだ、“魔導の”スライよ――
まさか、コロッと忘れていたわけではあるまいな!?」
スライ「(明らかに狼狽)……ん、んなっ!?
なななな、何をお、おっしゃいますやら、まま魔王様っ!
ド忘れだなんて、わ、私に限ってそんなことは――」
イフ「(呆れ)……図星かっ!!」
キンダー「チキショー、分かりやすいなぁ!?(涙目)」
キンダー「グヒュヒュ~、畜生、こうなりゃヤケだ!
思いっきり暴れて、何もかもブッ壊すしかないっ!」
ビーコン「ちょ……ちょ、ちょいタンマっス!(汗)」
落合さん「この流れでその結論、少々乱暴すぎでは!?(汗)」
イフ「わははは……いやいや、怪獣たるもの、それでよいのだ!
お前の憤り、千歳の街に叩きつけるがよいぞ!
さぁ、思い切り暴れろ! 破壊するのだキンダー!」
キンダー「グヒュヒュ~、やっちゃりますとも、魔王様!」
怪獣魔王の命を受け、猛然と進撃開始するキンダー!
迫り来る巨体を前に、人々は逃げ惑うより他に術がない。
ビーコン「どひ~っ、何つーか、いつにも増して……」
落合さん「今回の流れは、色々ヒドすぎますわねぇ!」
ピグモン「はわわ、二人とも、ボヤいてる場合じゃないの~!」
宙マン「こっちへ逃げるんだ、みんな早く!」
怪獣キンダーの出現により、たちまち大パニックの千歳市!
だが、こんな緊急事態を、航空防衛隊は放置などしない。
直ちに空の精鋭たちが、最新鋭の戦闘機でスクランブル!
ビーコン「いよっしゃ、また絶妙なタイミングで!」
ピグモン「防衛隊のおじさんたち、しっかりなの~!」
落合さん「……毎度、割と本気で期待してますのよ!?」
「ようし……全機、一斉攻撃開始っ!」
高火力のロケット弾が、矢継ぎ早やに叩きこまれる――
だが、戦闘機隊の奮戦にも、全く動じる様子を見せない怪獣。
キンダー「グヒュヒュヒュ、引っ込んどれ~いッ!」
「……ど、どひゃあぁぁ~っ!?」
キンダーの両目から迸る恐怖のレーザーショット!
その洗礼を受け、一機、また一機と撃墜されていく戦闘機。
ピグモン「ああっ、やられちゃったの!」
ビーコン「う~ん、毎度のこととは言え……」
落合さん「これもまた、何度見ても慣れない光景ですわねぇ!(汗)」
……などと、落合さんたちがボヤいているその間にも。
キンダーの大暴れによって、街は混乱の巷と化していた!
ピグモン「はわわ、街がたいへんなの~!」
落合さん「こうなると、もう頼れるのはお殿様だけですわ!」
ビーコン「アニキ~、ひとつ今度もお願いするっスよ~!」
宙マン「ああ、やるとも! 宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、怪獣キンダーの前へと舞い降りる!
宙マン「トゥアーっ! 宙マン、参上!
「影の星」の侵略者め、悪ふざけもそこまでだ!」
ズ、ズーンっ!!
ビーコン「いよっ、アニキの十八番っス!」
落合さん「ああ、この圧倒的安心感ときましたら!」
ピグモン「はうはう~、宙マン、がんばってなの~!」
キンダー「グヒュヒュヒュ、出たなァ……宙マンめ!」
宙マン「あぁ、この状況はさすがに見過ごせないのでね!」
全身にみなぎる怒りを力に変え……
ファイティングポーズをとって、敢然と身構える宙マン。
宙マン「人形怪獣キンダー、ここがお前の野望の終点だ!」
キンダー「グヒュヒュヒュ、抜かせ!」
宙マン「タァーッ!」
キンダー「グヒュヒュヒュ~、死んでもらうぞ宙マン!」
空中で巨体を交錯させ、お互いの立ち位置を入れ替え……
再び同時に駆け寄って、真っ向から激突するふたつの巨体。
宙マン対キンダー、世紀の一本勝負!
人々の見守る中、ふたつの巨体が戦いの火花を散らせる。
両手の鋭利な爪を奮い、猛然と襲いかかってくるキンダー。
その激しい刺突のラッシュをかいくぐりながら、宙マンもまた
油断なく、そして勇猛果敢に接近戦を挑んでいく。
キンダー「グヒュヒュ~、えぇいっ、チョコマカと!」
宙マン「おおっと、隙ありだ!」
キンダーに生じた、一瞬の隙を見逃さず……
怪獣の腹部めがけて、宙マンの鋭いストレートキックが炸裂!
その威力に、さしものキンダーも大きくよろめいた。
キンダー「グヒュ……っ!」
宙マン「どうだ、参ったか!?」
キンダー「グヒュヒュ~、参ってたまるかッ!」
キンダーの触角から連射されるロケット弾!
この凄まじい射撃の雨を、宙マンは得意の回転戦法によって
ひらり、ひらりと華麗に回避していく。
ズガーン! グワーンっ!
キンダー「グヒュヒュ、だったらこれはどうだ!?」
宙マン「なんの!」
防御技、宙マン・プロテクション発動!
空間そのものを湾曲させて形成する防御壁で、レーザーショットは
完全に受け止められ、無力化される。
キンダー「(狼狽)ぬ、ぬおっ!?」
宙マン「さぁて、今度はこっちがお返しさせてもらうぞ!」
「デリャアぁぁーっ!
宙マン・ズーミング・キック!!」
鋼鉄の20倍以上の固さを誇る、宙マンの爪先……
助走をつけて蹴りこめば、それは敵の戦意を削ぐ一撃として
充分以上の威力を発揮するものとなるのだ。
宙マン「とどめだ!
宙マン・フラッシュボンバー!!」
シ ュ ッ パ ァ ァ ー ン ッ !!
右手に集中させた闘気を、裏拳とともに勢いよく解き放ち……
赤いエネルギー弾として、怪獣めがけて叩きこむ荒技。
フラッシュボンバーの一撃が、キンダーを直撃!!
キンダー「グヒュうぅ~っ、今後ともキンダーをお忘れなくぅぅ~っ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
ビーコン「いよっしゃあ! アニキ、さすがっスねぇ!」
落合さん「そりゃそうですわ、なんたって……」
ピグモン「ピグちゃんたちの、宙マンだもの! なの~♪」
イフ「ぐぬぬぬっ……またも、またしても宙マンめが!
だが覚えておれよ、怪獣軍団は決して諦めんぞ。
次こそ必ず、貴様を泣きっ面にしてくれるわ……!」
……などと言う負け惜しみは、いつも通りサラリと聞き流して。
かくて、我らが宙マンの活躍で、恐怖の怪獣キンダーは撃退され
千歳の街には再び平和が蘇ったのであった。
ピグモン「はうはう~、宙マン、おつかれさまなの~!」
宙マン「やれやれ、突然出てきて暴れられてエラい事になったけど……
これでどうやら、ゆっくりできそうだねぇ」
落合さん「えぇ、平穏無事が一番ですわねぇ!」
ピグモン「はうはう~、ピグちゃんもそう思うの~♪」
ビーコン「ヒヒヒ、でもでも……
適度な刺激は、毎日を活き活きとさせてもくれるっスよね。
まずは落合さんの唇に、オイラの唇を重ねるところから――」
落合さん「……(ぷ ち っ !)」
げ し っ !
落合さん「ねーい、そんな刺激なんて願い下げですっ!!」
ビーコン「ひぇぇ~っ、刺激を通り越して痛撃っスぅぅ~」
宙マン「はっはっはっはっ」
希望を呼んで、未来に燃えて……
今日も行く行く、地域の味方。
ありがとう宙マン、次回も頼んだぞ!