秋深し、隣は何をする人ぞ。
読書、スポーツ、芸術に行楽……
皆さんにも、きっとそれぞれの「秋」がおありのことだろう。
こちらは暗黒星雲の奥深く、怪獣軍団の本拠地。
根っからの荒くれどもが揃った怪獣たちの「秋」はと言えば――
イフ「えぇい、おのれおのれ……
不愉快だ、はなはだ不愉快だぞっ!」
毎度毎度プリプリ怒ってばかりいる怪獣魔王だが……
今日はのっけから、普段のそれに輪をかけての激昂ぶり。
はてさて、いったい何がどうしたと言うのだろう?
「何だ何だ、どうしたってんだ!?」
「魔王様、今日はえらくご機嫌斜めじゃねぇか」
「何かと怒りっぽいのは、いつもの事とは言え……」
「ここまでおかんむりってのは、よっぽどだぜ!」
ヴィラニアス「おいおい、叔父貴はどうしちまったんだ――
誰か、詳しい事情を知ってる奴ぁいないのか!?」
スライ「いやはや、事情も何も……例のアレですよ、アレ!」
ヴィラニアス「……アレ?」
スライ「(ため息交じりに頷き)左様で」
ゾネンゲ博士「いいえ、魔王様、なりませんったらなりません!」
イフ「うぐぐぐっ、お前も強情な奴だな、ゾネンゲ博士!
一年のうちで最も食い物の美味い“食欲の秋”なるぞ――
好きなものを好きに食って、何が悪いと!?」
ゾネンゲ博士「(きっぱりと)悪いですっ!」
ゾネンゲ博士「先日の宇宙健康診断の結果、もうお忘れですか――
最近また血圧が上昇気味ですので、意識して食事の節制を、と
医者から注意されたばかりではないですか!」
イフ「ふん、医者が怖くて怪獣魔王がやってられるか!
だいたいワシの体だぞ、ワシの好きなように――」
ゾネンゲ博士「いいえ!
尊きそのお体、もはや魔王様だけのものではありません。
……なればこそ、なおのこと御自重を願います。
でなければ、配下の怪獣どもにも示しがつきませんので」」
イフ「う、うぐ……ぐぐぐぐっ……!」
ヴィラニアス「(納得)……ああ、なるほど。そういう事か!」
ジャタール「魔王様も、食い意地が張っておられるからなぁ……」
グロッケン「好きに飲み食いできなけりゃ、ストレスも溜まろうぜ」
デスローグ「(頷きながら)ごっ、ごっ」
ヴィラニアス「とにかくだ、今のままじゃ……
叔父貴の癇癪玉が、こっちにまで飛び火しかねんぞ!」
スライ「(頷き)我々へのとばっちりだけは、絶対に避けねばなりません。
誰でもいいです、手すきの方は急ぎ、地球へ――
徹底破壊と侵略で、魔王様のご機嫌をとらねば!」
おお、何ということであろう?
完全な八つ当たりととばっちりで、我々の故郷・この青い惑星に
またまた巨大な危機が迫りつつあったとは。
危うし地球、危うし人類!
が、ひとまずそれはそれとして――。
こんち、お馴染み宙マンファミリー。
そんな事とは露知らず、のんびり街を散策中であった。
落合さん「あぁ、今日も今日とて……
清々しい秋晴れの、本当に良いお天気ですわね!」
ビーコン「ヒヒヒ、ほんと、ほんとっスよね。
暑過ぎもせず、寒過ぎもせず過ごしやすくって……」
ピグモン「はうはう~、歩いてるだけで風が気持ちいいの~」
宙マン「そして、そんな気持ちの良い秋風が吹きぬけて行くこの時期は……
実に気持ちよく、お腹がすいてくるものだよね!」
ビーコン「どはっ、さすがアニキ、流れるようにメシ話!」
落合さん「今の季節は、やはり新蕎麦ですかしら?」
宙マン「これから道産の質の良い蕎麦粉が出回るようになって
どのお店も、腕の奮い甲斐があるだろうからねぇ」
ビーコン「いやいや、蕎麦もいいけど鶏の半身揚げも絶品スよ!
香ばしい身を噛みしめりゃ、じゅわっと肉汁が溢れ出て……」
落合さん「でしたら、中華料理も選択肢からは外したくないですわね。
何しろ今は収穫期、どの食材もとびきり美味しい季節……」
宙マン「う~ん、こうして話してるだけでも堪らんねぇ!」
宙マン「よーし、それじゃ何か食べに行こうか!」
ビーコン「いえっふ~、異議なしっス!」
皆が連れ立って、どこか適当な店に入ろうとした時……
ふと、ピグモンの足がぴたりと止まった。
落合さん「あら、どうしましたの、ピグモンちゃん?」
ピグモン「(一方を指し)……あ、あれ……何!?」
落合さん「(訝しんで)……あらあら、まぁまぁ!」
ビーコン「どう見ても、ただの煙じゃないっスよ!」
もうもうと立ち昇る赤い煙……尋常なものであるはずもない。
むくむくと、巨大な塔のように膨れ上がり、そびえ……
……そして、その中から姿を現した異形とは!?
「ひ~ら、ひらひらぁぁ~っ!」
煙の中から忽然と姿を現したのは……
怪獣軍団の一員であり、宇宙の彼方・ササヒラー星出身の宇宙人。
宙マン「そうだ、思い出したぞ。……宇宙怪人・ササヒラー!」
ササヒラー「ひらひらァ~、大正解!」
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ササヒラー「こちらにも、いろいろと事情があってなぁ……
話すと長くなるんで、その辺は以下略だ」
ササヒラー「ここからは例により、暴れさせてもらうんでヨロシク!」
ビーコン「どひ~っ、乱暴すぎにも程があるっス!(汗)」
落合さん「全くもう、怪獣軍団の方はこれだから……!」
スライ「んー、ふふふ……
いかがでしょうか魔王様、ササヒラー君のあの雄姿!」
イフ「ううむっ、これは……期待してよいのだな!?」
スライ「勿論ですとも。……頼みましたよ、ササヒラー君!」
ササヒラー「ひぃ~ららァ~、任せろ、スライ!」
“魔導の”スライの指示を受け、進撃開始するササヒラー!
迫り来る巨体を前に、悲鳴をあげて逃げ惑う人々。
ビーコン「どひ~っ、逃げ回るとすきっ腹に響くっス!」
落合さん「あぁもう、せっかくの休日が台無しですわ!」
ピグモン「きゃああんっ、怖いの~!」
宇宙怪人の出現で、混乱の巷と化した千歳市!
だが地球人とて、ただ座して見ているだけではない――
星人の進撃を阻むべく、航空防衛隊がスクランブルをかけた。
ビーコン「おおっ、今日もまたまたお出ましっスよ!」
ピグモン「はうはう~、かっこいいの~!」
落合さん「今日こそは……今回こそは、何とかなりますかしら!?」
「これ以上、市街地の被害を広げてはならん――
全機、攻撃開始っ!!」
最新鋭戦闘機からのロケット砲攻撃!
怪獣のボディや周囲に直撃するたび、激しく火花が飛び散るが……
その威力をもってさえも、ササヒラーは全くびくともしない。
ササヒラー「ひらひらァ~、無駄なあがきよ!」
「……う、うわぁぁぁぁ~っ!?」
ササヒラーが吐き出す破壊ガス!
その威力の前に、一機、また一機と撃墜されていく戦闘機。
ササヒラー「ひらら~、ササヒラー様の実力、とくと見ろ!」
勝ち誇り、暴れ回るササヒラー。
その暴威によって、平和な街は今や混乱の巷と化しつつあった!
ピグモン「このままじゃ、街がめちゃくちゃなの~!(涙目)」
ビーコン「どひ~っ、もうダメっス、おしまいっス!(汗)」
落合さん「お殿様、どうかここは……お殿様のお力を!」
宙マン「(頷き)おのれ、もう許さんぞ!
宙マン・ファイト・ゴー!!」
閃光の中で、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、ササヒラーの前へと舞い降りる!
宙マン「トゥアーっ! 宙マン、参上!
宇宙怪人ササヒラー、今度もまた懲らしめてやるぞ!」
ズ、ズーンっ!!
ビーコン「いよっ! アニキ、待ってましたっス!」
落合さん「(頷き)これで千歳は救われたも同然ですわ!」
ピグモン「はうはう~、宙マン、がんばってなの~!」
ササヒラー「ひらひらぁ~、出てきたな宙マン!」
宙マン「あぁ、こんな無法を黙ってはいられなくてね!」
ファイティングポーズとともに、敢然と身構える宙マン――
さぁ、今日もまた、世紀のスーパーバトル開幕だ。
ササヒラー「ひらひらぁ~、まずはお前を血祭だ!」
宙マン「あくまでやるなら、相手になるぞ!」
激突、宙マン対ササヒラー!
落合さんたちが見守る中、相まみえるは二大宇宙人の巨体。
じりじりと相手の隙を伺いながら間合いを取り……
真っ向からぶつかり、しのぎを削る両者のパワーと格闘技!
両手を激しく打ち振り、チョップ攻撃を仕掛けるササヒラー。
それに怯まず、宙マンもまた果敢に相手の内懐へ飛びこんでいく。
宙マン「トゥアっ!」
宙マンのストレートキックが、宇宙怪人の脇腹にヒット!
さしものササヒラーも、これにはたまらずズズッと後退。
落合さん「(拍手しながら)これはお見事ですわ、お殿様!」
ビーコン「いえっふ~、このまま一気に押しまくるっスよ!」
宙マン「ああ、やるともさ!」
ササヒラー「ひらららら……やらせるかってんだ~っ!」
ササヒラーの怒りそのもののように、勢いよく吐き出される破壊ガス!
宙マンはその全身にガスを浴びてしまい、そして……!
「う、うわぁぁぁぁ……っ!?」
ズ、ズーンっ!!
落合さん「ああっ、そんな……お殿様!?」
ビーコン「まずいっス、ヤバい流れになりかかってるっス!」
ピグモン「はわわ……宙マン、まけないでなの~!」
宙マン「(苦悶)うう……うっ!」
ササヒラー「(嘲笑)今日の勝ちは俺が貰うぜ、宙マン!」
「いいや……今日もやっぱり、私の勝ちさ!」
宙マン、パワー全開!
ササヒラーの破壊ガスを、ひらりとかわして大空へ。
ササヒラー「(驚き)な、何だとぉっ!?」
「くらえ! 宙マン・ミラクル・キック!」
電光石火の必殺キックに、吹っ飛び倒れるササヒラー。
更に宙マンは、その体を怪力で担ぎあげて……
ダメ押しの宙マン・リフターで、敵を地面に叩きつける!
正義の連続技に、ササヒラーがふらふらになったところへ――
宙マン「とどめだ!
宙マン・エクシードフラッシュ!!」
全身のエネルギーを極限まで凝縮して放つ、虹色の必殺光線……
エクシードフラッシュの一閃が、ササヒラーを直撃!!
ササヒラー「ひ~らり、ひらひら……ひらひららぁ~っ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
ビーコン「やったぁ、さっすがアニキっス!」
落合さん「銀河連邦の英雄、未だ健在なりですわ!」
ピグモン「はうはう~、宙マン、ありがとうなの~♪」
人々の笑顔と歓声が、宙マンの勝利を讃える――
青空の下に立ちつくす巨体は、どこまでも雄々しく、逞しかった。
イフ「ぐぬぬぬ……おのれぇぇ、またしても宙マンめが!
どこまでワシらの顔に泥を塗り、邪魔をすれば気が済むのか。
だが覚えておれよ、次こそは思い知らせてくれる!!」
……などという、怪獣魔王のいつもの負け惜しみはさて置いて。
我らが宙マンの活躍により、宇宙怪人・ササヒラーは撃退され
千歳の街には、再び元の平穏が戻ってきたのであった。
落合さん「改めて……お疲れ様でした、お殿様!」
宙マン「やぁやぁ、お待たせ、お待たせ!
一戦交えたおかげでね、もうすっかり腹ペコだよ――」
ビーコン「っしゃ、そんじゃ改めてお食事タイムっスね!」
ピグモン「でもでも、ピグちゃんねぇ……
美味しそうなものが多すぎて、悩んじゃうの~」
宙マン「あぁ、そうだね。これからじっくり選ぼう!」
ビーコン「ヒヒヒ、そんな美味しい食事を堪能したあとは……
落合さんと言うデザートを、寝室で味わい尽くすっス~!」
落合さん「だーっ! ビーコンさんは、また……!」
いつものように、鉄拳制裁が飛びかけて……
ふと、不意に落合さんの右腕がぴたりと止まった。
落合さん「(溜息)……やめておきましょう。
今、そんなことしても、無駄にお腹がすくばかりですわ」
宙マン「まずはしっかり食べて、話はそれからだね」
落合さん「(微笑で頷き)ビーコンさんへのお仕置きは、その後で!」
ビーコン「どひ~っ、おっとろしいコト言わないで欲しいっス~!」
宙マン「はっはっはっはっ」
怪獣・怪人、どんと来い……
千歳の平和は、渡しやしない。
次回もまたまた、宙マン大活躍だよ~!