一夜が明けて今日もまた、地球の上に朝が来た――
この星の誕生以来、何十億回となく繰り返され続けてきたそんな光景。
毎度お馴染み、北海道千歳市ほんわか町5丁目の「宙マンハウス」。
これまたお馴染み・宙マンが、毎朝の日課である町内ウォーキングを終えて
帰宅後のシャワーで汗を洗い流したところであった。
宙マン「ふぃ~っ、さっぱり、さっぱり!
……おおっ、早速いい匂いがしてきたねぇ、今日の朝ご飯は何かな?」
落合さん「おはようございます、お殿様。
……うふふっ、今日の朝食は、お殿様の大好きな和食にしてみましたわ」
宙マン「おおっ、和食いいねぇ!
この、台所からプ~ンと漂ってくる味噌汁のほのかな香り……
コレを嗅ぐと、しみじみ“ああ、日本人だなぁ”って感じるよねぇ。
……と言いつつ、私はプラネット星人なんだけどね。あっはっは!」
落合さん「(くすっ)それだけ身も心も地球に馴染んでいらっしゃる、と言うことですわね。
私ども地球人にとっては、頼もしくも嬉しい限りですわ」
宙マン「はっはっはっはっ、有難う、落合さん。
よーし、君への感謝とともに、今朝もご飯三杯は余裕でお代わりを――」
宙マン「……っと、その前に、野暮用を思い出しちゃった。
済まない落合さん、ちょっとまた出てくるよ」
落合さん「へ? 野暮用って、こんな朝早くに……」
ビーコン「つーか、さっきウォーキングから帰ってきたばっかじゃないっスか」
宙マン「はっはっはっ、いやぁ、私にも色々あってねぇ。
すぐに済ませて戻るから、朝ご飯の支度をして待っててくれよ!」
落合さん「あらあら、お殿様、お殿様っ……!」
ビーコン「早く帰らねーと、アニキの分までオイラが食っちまうっスよ~☆」
そんなわけで、唐突に「野暮用」を思い出し……
また再び、慌ただしく「宙マンハウス」を飛び出していった我らが宙マン。
勘のいい読者諸兄諸姉ならば、この時点で既にお気づきであろう。
現役時代から培われ、磨かれてきた宙マンの鋭敏な感覚が、今また迫り来る
かすかだが不穏な悪の気配を、確かに感じとっていたと言うことを。
宙マン「ううむっ……気のせいだったらいいんだが……」
そう思いつつ、町外れの原生林の中に足を踏み入れて行く宙マン。
おお……だが、不幸にも宙マンの予感は的中した。
原生林の大地を割り、落ち葉を吹き飛ばして、怪獣軍団からの新たなる使者が
地中からのっそりと、その恐るべき姿を現したのだ!
「ガゴガゴォォ~っ!」
野太い咆哮を、千歳の原生林いっぱいに響き渡らせる大怪獣。
イフ「さぁ、ザラガスよ! 今こそお前の力を存分に発揮する時が来たぞ!
判っておろうな、お前に与えられた使命、それは……」
ザラガス「ガゴガゴぉぉ~、“千歳壊滅計画”ですよねぇ!?」
イフ「(頷き)お前の優れた力と技をもってすれば、十分にそれが可能だ」
ザラガス「ガゴガゴォ~、おありがとうございます、魔王様!
地球人も宙マンも気づいていない、この早朝こそが絶好のチャンス――」
「はっはっはっはっ……
おあいにくだったな、怪獣ザラガス!」
ザラガス「(驚いて)ややっ、だ、誰だ!?」
凛たる声とともに駆けつけてきたのは、当然この男をおいて他にはいない。
プラネット星生まれの千歳市民、正義の人・宙マンだ!
ザラガス「ゲ……げげぇーっ、まさかまさかの……宙マン!?」
宙マン「ああ、そうだとも、宙マン参上!
胸騒ぎがするので来てみたら、やっぱりまた怪獣軍団の悪企みか!」
着地とともにファイティングポーズを決め、颯爽と身構える雄姿。
こうなればもう、あとは正邪のスーパーバトルあるのみだ。
宙マン「今のうちに警告しておくぞ、怪獣ザラガス。
朝っぱらからのヤンチャはやめて、大人しく暗黒星雲に帰るがいい!」
ザラガス「ガゴゴゴァ~ッ、宙マンめ、また出しゃばりやがって!
“千歳壊滅計画”の邪魔をするなら、容赦しねぇぞ!」
宙マン「あくまでやる気か……そうはさせんぞ!」
ザラガス「しゃら臭ェッ、叩きのめしてやるぜ!」
宙マン「いいだろう、相手になってやる。正義の力を思い知れ!」
激突、宙マン対ザラガス!
雄大な北海道の原生林狭しと、ダイナミックに展開される死闘。
重量級のタフなボディを活かし、猛然と襲ってくるザラガス。
だが、宙マンも怯むことなく、持ち前の技の冴えで果敢に挑んでいく。
ザラガス「ガゴゴォァ~、どうだ宙マン、お前なんざ俺様の敵じゃねぇ!」
宙マン「なんの、それしきっ!」
チョップにパンチ、目にも止まらぬ宙マンの妙技!
次から次へと、嵐のごとき激しさで繰り出される正義の連打である。
おお、言うなればまさしく「宙マン・晩秋のチョップ祭り」!
そんな手刀の猛ラッシュを喰らって、さしものザラガスもたじたじである。
宙マン「そうだ、それでいい……逃げ帰るなら、私も深追いはしない!」
ザラガス「ゴガガガ、馬鹿めッ――
そう思うのが、ヒーローの浅はかさだぜィッ!」
バ シ ュ ウ っ !
宙マン「(驚き)!?」
おおっと、これは卑怯――
逃げると見せかけ、背中からの“ザラガス・フラッシュ”による不意打ち!
凄まじいフラッシュ光が周囲に走り、宙マンの目を容赦なく灼く。
宙マン「(悶絶)う、ううっ……!」
ザラガス「ざまァないな宙マン、ひねり潰してやるぜ!」
一時的に視力を失った宙マンの隙を逃さず、のしかかってくるザラガス!
両者、もみあいながらゴロゴロと激しく地面を転がる。
だが、くんずほぐれつの泥臭い攻防の果て……
マウント・ポジションをとって攻勢に転じたのは、ほどなくして視力を回復させた
我らがヒーローの方であった。
ザラガスの頬げためがけて、渾身のパンチを叩きこむ宙マン!
そして、戦意を削がれた怪獣を、すかさず高々と持ち上げて……
宙マン「デェーイっ! 宙マン・リフターだ!」
パワー全開の投げ技で、ザラガスを投げ飛ばす!
地面に叩きつけられ、怪獣が大ダメージを受けたところへ――
宙マン「とどめだ!
宙マン・エクシードフラッシュ!!」
全身のエネルギーを極限まで凝縮して放つ、虹色の必殺光線……
エクシードフラッシュの一閃が、ザラガスを直撃!!
ザラガス「ガゴゴゴ、やっぱり強い、強すぎるぅぅ~っ!」
やったぞ宙マン、大勝利!
宙マン「ふぅぅっ……やった。やったぞ!」
イフ「ぐぬぬぬっ……やったな、やってくれたな宙マンめ!」
イフ「毎度毎度、ワシらの邪魔ばかりしおって……だが、これで勝ったと思うなよ。
今度こそ、この次こそは必ず、この仕返しをしてみせるからな……!
よいか、覚えておくがいい宙マン!」
……などと言う、怪獣魔王のいつもの負け惜しみはさて置いて。
我らが宙マンの活躍によって、大怪獣ザラガスによる千歳壊滅計画は阻止され
千歳市の平和は、またしても人知れず密かに守り抜かれたのであった。
そして、早朝からの「一仕事」を終えた宙マンを待っていたのは……
落合さんの手作りによる、ほかほか出来立ての朝ご飯。
宙マン「ひゃあ、これこれ、これだよ! 食欲を煽るねぇ!」
落合さん「うふふっ、光栄ですわ、お殿様♪」
ビーコン「ヒヒヒ、そりゃあ食欲だってそそられるっしょ……
朝の散歩のあとで、どっかへ出かけてきた後っスもんねぇ!」
落合さん「それで……ご用事と言うのは何でしたの?」
宙マン「はっはっはっ、なぁに、大したことじゃないよ。
出かける前に言ったとおり、ほんのちょっとした野暮用――」
ピグモン「ねぇねぇ宙マン、そんなことより……」
宙マン「おおっと、いけない、そうだったね。……
それじゃ……手と手を合わせて、いただきまーすっ!」
この朝ご飯の美味しさと、待っていてくれる「家族」の笑顔。
誰も知らない戦いに勝利した正義の人・宙マンにとって、それが最大の報酬であり
何にも勝る栄光そのものなのであった。
朝から颯爽、いつでも快調!
我らが宙マンの、スカッと爽快な大活躍。
次回もバッチリ決めてくれること請け合いだ!