世界各地が異常気象に覆われている……
……のかどうかは、ひとまずさて置くとして。
真夏日が三日連続で続いたかと思えば、急にガクリと空気が冷えこんで
11月下旬にも関わらず、どうにも落ち着きのない日本全国の空模様である。
と言う、今回のお話における大前提を皆様と共有させていただいた上で
場面は変わって北海道千歳市、毎度お馴染みの「宙マンハウス」。
「ぶぇぇ~っくしょん!!」
……と言う、大きなくしゃみから今回の物語は始まる。
で、このくしゃみの主はと言えば、勿論――
「ほ~んと、勘弁して欲しいっスよねぇ~!」
ビーコン「暑くなったり寒すぎたり、体に優しくない天候でマジ参るっス。
おかげでオイラ、なんだかここ数日はすっかり鼻風邪気味で……
ずずず、ティッシュの箱が手放せなくってもう大変っスよ~」
落合さん「あらまぁ……困りましたわねぇ、そうでなくてもビーコンさんのお部屋は
我が家で一番ティッシュの消費率が高いのにっ!
だいたい普段から不健康な生活なさってるから、そんな事になるんですのよ?」
ビーコン「ヒヒヒ、面目ないっス~。
てなわけで早速、落合さんの無駄に豊満な肉体と柔肌で、オイラの身も心も
トロケるくらいにぎゅっと優しく暖めて……」
げ し っ !
落合さん「ねーいっ、黙って聞いていれば何です、このエロ怪獣!
短いセンテンスの中に、よくもまぁそれだけの失礼を凝縮できますわね!?」
ビーコン「(目を回して)ハンニャラ、ヒ~っ……」
……とまぁ、「宙マンハウス」の人々は例によって例のごとし。
だが……
この急激過ぎる気候の変化は、人々の体調維持に優しくないばかりか
今ここに、とんでもない脅威を呼び起こすことになったのだった!
バリバリバリ……ガラガラガラッ……!
何の前触れもなく、千歳の街を激しく揺さぶる局地地震!
と来れば、次に姿を見せるのは……やはり!?
「キュエェェェーンっ!」
甲高い咆哮とともに、地中からもぞもぞと這い出てきたのは……
怪獣軍団の一員、昆虫怪獣ノコギリン。
ビーコン「どひ~っ、やっぱりっつーか、何つーか……」
落合さん「何度直面しましても、一向に慣れない展開ですわッ」
ピグモン「はわわ、怪獣なの、おっきなクワガタみたいなの~!」
秋から冬にかけ、昆虫型怪獣らしく優雅な「冬眠ライフ」を満喫するはずが
ここ数日の急激な気温の変化で、すっかり眠りを妨げられてしまったのだ!
ノコギリン「キュエキュエ~、冗談じゃねーぞ、ベケヤロウっ!」
安眠を妨害されたとあって、激しく気がたっているノコギリン。
腹立ち紛れに、角からレーザー光線を乱射して大暴れ……
気持ちは分かるが、千歳市民にとっては全くのいい迷惑!
ビーコン「ど、どひ~っ、こりゃまたシャレんなんない威力っスよ!?」
ピグモン「ふぇぇん、ピグちゃん怖いの~!(涙目)」
落合さん「お喋りは後です、急いで逃げますわよ!?(汗)」
おお……北海道千歳市、早くも絶体絶命の大ピンチ!
だが、しかし。
怪獣のこれ以上の進撃を阻むべく、直ちに千歳基地の駐屯所から
陸の精鋭たちが出動したのであった。
「GO! GO! GO! GO!!」
勇ましい号令一下……
タクティカル・スーツに身を固め、おのおの得意の武器を携えて
続々と車両から飛び出してくる防衛隊員たち。
ピグモン「あっ、防衛隊のおじさんたちなの!」
落合さん「また、心憎いタイミングで来て下さいましたこと!」
ビーコン「今度こそは頼んだっスよ~、いろんな意味で!」
落合さん「……って、言ったそばからコレですの!?(汗)」
ビーコン「そんな気はしてたっスけど、やっぱ悲しいっスねぇ~!(汗)」
……などと、人々が嘆いたりボヤいたりしている間にも。
防衛隊の攻撃をものともせず、ノコギリンは勢いづいて傍若無人の大暴れ!
ノコギリン「キュエェェーン、これで少しは気も晴れた……
こうなりゃみ~んな、片っ端から巻き添えにしてやるっての!」
ビーコン「……って、ちょっとちょっと、それって完全に逆恨みじゃないっスか!」
落合さん「そうですわよ、どこぞの騒音おばさまじゃあるまいしっ!」
ノコギリン「るせぇ、だったらどうした!」
寝起きで不機嫌なノコギリン、もはや「箸が転がってもムカムカする」状態。
こういう手合いには、何を言っても逆効果にしかならないのがつらい所……
……などと言っている間にも、落合さんたちを踏み潰そうとズンズン迫ってくる!
落合さん「あっ、あらあら……あなた、歩くのが早すぎますわよ!?(汗)」
ビーコン「ひぇぇぇ……もうダメっス、おしまいっス~!」
ピグモン「いやぁぁん、誰か助けてなの~!」
宙マン「心配するな――私がついている!
宙マン・ファイト・ゴー!!」
おお、見よ! 我らがヒーロー、その大いなる雄姿を――
閃光の中から颯爽と姿を現わし、みるみるうちに巨大化する宙マン。
華麗な空中回転とともに、暴れ回るノコギリンの前に舞い降りる!
宙マン「トゥアーッ! 宙マン、参上!
昆虫怪獣ノコギリン、もう好き勝手な真似はさせないぞ!」
ズ、ズーンっ!!
ピグモン「あっ、宙マンなの!」
ビーコン「っかー!
また良いタイミングで来てくれるっスねぇ、うちのアニキは!」
落合さん「お殿様、あとはよろしくお願い致します!」
ノコギリン「キュイキュイィ~、やんのか、コラァ!?」
宙マン「お望みとあらば相手になるぞ!?」
ノコギリン「(ペッと唾して)しゃら臭ェってのよォ!!」
人々が固唾を呑んで見守る中、またも盛大にその幕をあける激ファイト。
さぁ行け宙マン、ノコギリンをやっつけろ!
地響きを立てて、真っ向から組み打つ二つの巨体。
だが、通常ならばともかく……寝起き直後でこの上なく機嫌の悪い
いま現在のノコギリンに対しては、その「不機嫌パワー」上乗せも相まって
さすがの宙マンも少々押され気味に見える。
ノコギリン「キュイィ~ンっ、どうした宙マン!
大口を叩いた割りにゃ、お前さんはその程度の実力かぁ!?」
宙マン「いいや、まだまだ……私は負けない、決して!」
ノコギリン「ギリギリ~、だったらこいつを食らえや、コラ!」
シュビビビビビッ!
空間をなぎ払うがごとく、ノコギリンの角から迸るレーザー光線!
巻き起こる爆発に、宙マンの巨体がぐらりと揺らぐ。
そして、その隙を逃さず――
敵が怯んだところへ、すかさず自慢の大あごでの「挟み込み戦法」によって
ヒーローの胴体へとガッチリ食らいつくノコギリン!
「う、うぉあぁぁっ……!」
ズ、ズーンっ!
凄まじい地響きをたて、宙マンの巨体が地面に倒れ伏した。
ピグモン「はうっ、宙マンがあぶないの!」
落合さん「お殿様、しっかり!……立って、立ち上がって下さいませっ!」
ビーコン「ファイトっスよ、アニキ!
いいっスか、この際肘でもいいから目に入れ……」
げ し っ !
落合さん「……だから、そういうアブナい発言は慎んで下さいなっ!(汗)」
宙マン「(苦悶)う……うう……っ!」
ハラハラと見守る宙マンファミリーの一方で……
勝利を確信し、ようやく機嫌が直ってきたのはこちら、ノコギリン。
ノコギリン「キュエェ~ン、軍団の誰もが果たせなかった宙マン打倒……
この俺、ノコギリンが見事に果たしてやったぞ~!
魔王様、この冬のボーナス、たんまり弾んで下さるでしょうね!?」
「……って、コラコラコラっ!!」
ゾネンゲ博士「な~にを勝手なことを言っているんだ、ノコギリンっ!
だいたい今のお前は、長期冬眠休暇の真っ最中ではないか……
その間に何があろうと、それは勤務評定の対象外ってものだぞっ!」
いかに労働条件のよさで定評のある怪獣軍団といっても、おのずと限度はある。
その辺りのことをハッキリさせておくのは、怪獣軍団の経理担当幹部としては
むしろ当然のこと、だったのだが……。
ノコギリン「え~っ!? そりゃないですよぉ~!!」
無情な宣告によって、仕事に対するモチベーションが急下落!
そして結果的に、それがノコギリンの命取りとなった。
「くらえ、宙マン・ウェッジビーム!」
敵サイドの内輪揉めの隙に、再び体勢を立て直した宙マン。
くさび状のウェッジビーム一閃、宇宙昆虫をよろめかせたところへ――
「とどめだ!
宙マン・エクシードフラッシュ!!」
全身のエネルギーを極限まで凝縮して放つ、虹色の必殺光線……
エクシードフラッシュの一閃が、ノコギリンを直撃!!
ノコギリン「あぎゃぎゃぎゃ……
こんなコトなら、大人しく寝ときゃよかった~!!」
大爆発とともに吹っ飛び、完全KOされたノコギリン。
やったぞ宙マン、大勝利!
ビーコン「いえっふ~、さっすがアニキ、そうこなくっちゃっス!」
落合さん「お見事でしたわ、お殿様!」
ピグモン「はうはう~、宙マン、かっこよかったの~♪」
仲間たちの歓声を受け、すっくと立つ宙マンの巨体。
陽の光を浴びた雄姿は、今日も今日とて頼もしかった。
かくして……。
我らが宙マンの活躍により、寝起きの不機嫌さに任せて暴れまくった
怪獣ノコギリンは撃退され、千歳の街に平和が蘇ったのであった。
ピグモン「はうはう~、宙マン、今日もお疲れ様なの~」
宙マン「よかったよかった、みんなが無事で本当に何よりだよ」
落合さん「それもこれも、お殿様の素晴らしいご活躍の賜物ですわ」
ビーコン「ヒヒヒ、そのおかげで良い教訓も得られたっスし、ね!」
落合さん「……教訓?」
ビーコン「や~、やっぱ難しいことばっか考えちゃってドツボにはまる前に
進んでさっさと寝ちゃうのが吉、ってことっスよ~。
てなわけで落合さん、オイラとひとつのシーツにくるまって良い夢を……」
げ し っ !
落合さん「ねーい、このエロ怪獣!
そんな教訓、ドブ川に叩き捨てておしまいなさいっ!」
ビーコン「どひ~っ、今日も報われぬ我がサダメっスぅぅ~」
宙マン「はっはっはっはっ」
といった感じで、千歳のほうはひとまずの一件落着。
その一方、暗黒星雲においては……。
イフ「えぇいっ、この大馬鹿者が~!!
僅かの出費をケチって、宙マン打倒のまたとないチャンスを逃していては
それこそ元も子もありゃせんわいっ!」
ゾネンゲ博士「……は、ははぁぁぁっ!(平伏)」
予算面をシビアにやりくりしつつ、現場のモチベ維持にも努める……
その辺り、やはり中間管理職の辛いトコロでは、あった。
冬到来、寒さがいや増すこの季節。
皆様、くれぐれもお風邪など召されぬよう!